愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

18 来客

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「これはどういう事だ。説明しろや。ジュード。」

  とても大きな熊さんが怒ってる。茶色い短い髪に黒い目、見上げるくらい大きくて、ジュードですら熊さんの肩くらいの身長しかない。身体つきもジュードの倍くらいある。
 ジュードは細マッチョだからムキムキじゃない。
 熊さんは本当に大きくてムキムキだ。強そう。

  おれはこの人達を見た事ある。一緒に居る女の人もだ。
 ダンジョンでジュードと一緒にいた人達だ。

「お前には《真実の迷宮》について調べてこいと言ったが、二ヶ月も顔を出さないっていうのは、どういう事か説明してもらおうか?」

 熊さんが低い声で言うと、横の綺麗なお姉さんが聞いた。

「ダンジョン入り口のギルド職員があなたを最後に見たのが一ヶ月前だそうよ。それから今まで何をしていたの?」

 スラっとして色白で、金髪の長い髪を耳にかけてる。青い目と尖った耳でエルフなんじゃないかと思う。お姉さんも怒ってるぽい。言い方が冷たい気がする。


 そっか。
 ジュードはおれにこの世界のことを教えるために、おれとずっと閉じこもってくれてたんだ。
 おれ的には二週間くらいかと思ってたけど、どうも違うみたいだ。そんなに寝てたのかな。
 でも眠ってしまうこの身体のせいで長い間ジュードの仕事の邪魔してたのか。
 今もおれのせいで怒られてるってことに、気がついたら、じわっと変な汗が出た。

 じっと動かなかったジュードが、ちらりとおれを見た。
 きっと説明が難しいのかな。ダンジョンから拾ってきたとか、おかしいよね。
 おれの存在ってなんなの?身分証明出来るもの何もないし。ここで燈翔や心琴呼んだらもっとごちゃごちゃになっちゃうよね?

 やっぱり迷惑かけたんじゃないか。全然分かってなかったかも。

 おれのせいでジュードが怒られるの嫌だなあ。

 ぐるぐると考え込んでしまったから、おれが不安そうな顔をしていたのかもしれない。
 そんなおれを見て、ジュードはふっと優しく微笑んだ。

 そして前を向いて、頭を下げた。

「迷惑をかけてすいませんでした。詳しい説明をしたいので中へ入りませんか?」

「そうだな。詳しく聞かせてもらおうか?」

 二人が門を抜けて中に入っていく。ジュードが案内して玄関へと向かって行く。
 おれは門を魔法でしっかりと閉じた。

「今の魔法は?」

「俺です。」

 突然門が閉まったから二人を驚かせてしまったみたいだ。ジュードがフォローしてくれる。

 綺麗なおねえさんがこっちを見てる気がする。おれはドキドキしながら、じっとしている。

「ふーん。」

 納得出来てないみたいだけど、おねえさんは再び前を向いて家の中へと歩いて行く。

 実は、今着ているローブは認識阻害じゃなくて、気配も視覚的にも見えなくなる魔法を付与したのだ。見えなくなーれローブの完成形。だからジュード一人でいるみたいに見えてると思う。
 うまくいってるみたいで、二人は多分気付いてないはず。

 みんなが入った後に、そーっと家に入った。

「すいません。客間無いんで、ここでも良いですか?」

 ジュードがダイニングテーブルに二人を案内している。
 さっき食べた朝ごはんの食器が片付けようとしたまま置いてあった。

「お前一人じゃないのか?」

 あっ、カフェオレのコップ置きっぱなしだった。マグカップが2つ並んでるのは、一人なら確かにありえないよね。
 とりあえず、二人は並んで椅子に座った。

 ジュードはその質問には答えずに、食器を手早く台所に運んで戻ってきた。

 座っている二人の正面に立つと、ジュードは静かに説明した。

「連絡をしなかったのは自分の落ち度です。すいません。色々ありまして。家族が増えました。」

「はあ?」

 二人共ものすごいビックリした顔してる。

「その家族っていうのはどこにいるんだ?」

 周りを見回しながら熊さんが聞くと

「あの辺りですかね?」

 と、綺麗なお姉さんがダイニングの入り口辺りを指差した。

 おれはビクって驚く。

「どういうことだ?」

「魔法で隠れてるんですよ。私も気配しかわかりません。なんとなくそこに居るのは分かりますが、かなり上位の魔法使いでないと感知は無理でしょうね。一般人なんか全く存在に気づけないかと。たぶん探知の魔法にも引っかかりませんよ。」

 熊さんに説明してるお姉さんを見ながら、ジュードの横に行く。

 お姉さんスゲー。
 熊さんといい、お姉さんといい、ジュードの態度から立場が上の人なんだって分かる。しかも実力もあるっぽいし。

 ジュードの顔を見上げると、ジュードもこっちを見てきた。
 このローブに魔法を付与した時にジュードと神さまには見えるようにって条件つけたのだ。だってジュードや燈翔や心琴からも見えなくなるのは困るから。

「マコト。」

 ジュードから優しく声をかけられて、おれはそっとローブのフードをおろす。そしてローブを脱いだ。下げていた顔を上げて、正面に座る二人を見る。

 熊さんはぽかーんと口を開けて、目玉が落ちるんじゃないかと思うくらい目を見開いてる。
 お姉さんも口は開いてないけど、真顔で大きく目を見開いて驚いてる?

「なんだ!そのものすごい可愛らしいのは。」

 ガタッと立ち上がりながら熊さんが叫ぶ。

 ん?可愛らしいっておれ?

「何故かキラキラしてるのね?」

 なんかまじまじと見られて恥ずかしくなって、ジュードの後ろに隠れる。
 ジュードもそっと見えないようにしてくれた。
 すると熊さんも落ち着いたみたいで、座ってくれた。

 おれはもう一度ジュードさんから出て横に立つと自己紹介した。

「は、は、はじめまして。ジュードさんにお世話になっている、ナカセ マコトと言います。僕のせいでジュードさんが無断欠勤してたの知らなくて。本当にすいませんでした。」

 はじめましてではないけど、おれしか見てない一方通行だから、そうあいさつして、ガバッと頭を下げた。

 小さい声で無断欠勤?って聞こえる。

 ジュードを見ると苦笑いしてた。どうも無断欠勤は違うらしい。

 恥ずかしくて赤くなりながら顔を上げると、二人共困ったように笑ってた。

 ジュードが熊さんの正面の席についた。おれもジュードの隣の席に座る。

「あ~なんだ。無断欠勤じゃなくて、依頼不履行だな。とりあえず、俺はマサの冒険者ギルドマスターのウルススだ。」

 難しい顔をして頭をがしがしと掻きながら熊さんが自己紹介してくれた。
 なんと。ギルマスだった。今度はおれの目が点になってる。

「はじめまして。副ギルドマスターのディネルースと申します。」

 綺麗なお姉さんは笑顔だけど目が笑ってない。しかも副ギルマスだった。

「よ、よ、よろしくおねがいします。」

 再びガバッとお辞儀した。頭を振りすぎたせいか、クラクラする。

「まあそんなに緊張すんな。俺の事はウルスでいい。こっちのエルフはディネだ。覚えられなかったらギルマスっつとけ。」

「う、ウルスさん…。と、ディネさん…。はい。わかりました。」

 この世界の人と話すのは、ジュード以外では初めてだからか、めっちゃ吃った。
 しかも熊さ…ウルスさんの眉間には深い皺が刻まれて、怒ってる雰囲気がありありと出ているので、こちらの緊張も高まるばかりだ。

 なんか空気が重い。
 苦しい。いつもと違う。
 
 気分悪くなってきたかも…、クラクラする。今はここに居たくないって思う。
 このままじゃジュードにさらに迷惑かけちゃう。

「あ、あのお茶いれてきます!」

 そう言いながら、ガタッと席を立ち台所へと向かおうとした。

 なんか変な汗がでて気持ち悪い。
 台所は廊下を挟んだ向かい側だ。
 グラグラと目が回るのをこらえてダイニングの扉に手をかける。

 そこでおれの意識はブツッと切れた。

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