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新しい世界
17 慣れてきた
しおりを挟む今日も天気が良い。
ベッドから降りると、パッと視界が変わった。目の前に大きな背中と黒い長髪が見えた。ゆるく結んでる。その背中にしがみついた。
「うわああ。」
ゴチンっ。
勢い余ってジュードの後頭部におでこをしこたまぶつけてしまった。
すぐにおんぶの状態からお姫様抱っこにされる。
「マコト。大丈夫か?」
おれの前髪をかき上げておでこの状態をチェックしてくれてる。ちょっと痛かったけど、タンコブが出来る程でもなかった。ただ、チョット失敗したのが恥ずかしくて、顔が赤くなる。綺麗な翡翠の瞳に朝から至近距離で見つめられてるせいで赤くなってるのもある。
だっこされたまま、ちょっと目を逸らしつつ
「だ、大丈夫。ちょっと失敗しちゃった。こっちこそごめん。ぶつかっちゃった。痛くない?大丈夫?」
そっと手を伸ばしてジュードの後頭部に触れる。なでなでしてたら、
「大丈夫だ。おはよう、マコト。」
とニッコリ笑顔を向けられた。
「お、お、おはよう…。」
朝からイケメンありがとうーって感じ。かあっと顔が熱くなるのを感じた。
朝っぱらから何をしているかというと、転移の練習だ。
家のどこにいてもジュードのところに飛ぶ練習。
だけどなんでかちょっと高いところから落下することが多くて、いつもジュードにしがみつく羽目になっている。
おれ的にはすぐ横くらいにパッと現れるのが理想なんだけど、大体上から落ちるおれを、ジュードが受け止めてる。
まあ絶対にジュードは落とさないし。体幹がすごい。いつでもスマートなのは、本当にイケメン。いつもドキドキしてしまう。
ジュードの家に来てから二週間くらい経った。
その間にここでの生活に慣れるようにジュードがずっと一緒にいてくれた。
転移の練習の他に付与も頑張ってる。
おれってば何にでも付与できるみたいで、ジュードいわく規格外。燈翔はチートって言ってた。
認識阻害のローブに物理と魔法攻撃の無効をつけたり、ジュードの指輪に絶対怪我しませんように。ってお祈りした。
あとはジュードのポーチを空間魔法でなるだけ大きなマジックバッグにして時間停止の効果もつけた。
あとただの小さなボタンに絶対にジュードのところに転移できる効果を付けたり。水や火を出せるボタンも沢山作った。
ジュードが言うには、魔法やスキルを封じる部屋とかあるらしくって、そういう時に役に立つのが魔道具なんだって。小さな魔石に浄化の効果入れといたり、転移できる石作ったり。用心するに越したことはないってなんだか危ない世界なんだね。
その用心の一環として、探知の魔法と鑑定魔法も覚えた。
鑑定は使えるのは分かってたけど、使えば使うほどレベルみたいに熟練度が上がるんだって。
だから今は色んな物に鑑定かけてる。それに色んな物に触れると、それを創造のスキルで作れたりするから、新しい物にはなるべく触れるようにしてる。
あと探知は敵意のある者は色が違って見える。地図を頭の中に詳しく思い浮かべたりする事も出来るけど、俯瞰で見ないと地図が完成しない。
今はドーム型に何重も結界と認識阻害の魔法かけてるから、空から眺められないので、地図のスキルはまた今度となっている。
同じ理由で魔法の先生もまだ来ていない。
あと魅了は上手く扱えるっていうか消せるようになった。これが出来ないと、外には出さないって言われてたから、おれも必死だった。
でもどうしてもちょっとだけキラキラが残るのだ。魅了するほどではないが、自分の周りに変なキラキラがあるのはちょっと嫌なんだけどな。
心琴が言うには愛し子だから、しょうがないらしい。愛し子の愛し子だから愛がこぼれちゃって光が出てるって、それはちょっと迷惑かも。結局ローブは手放せないってことね。
二階の部屋に転移で戻る。服を着替えて再びジャンプ。 今度はジュードの正面だった。
「おっと。」
お姫様抱っこで受け止めてくれた。
「マコトは落ちてくるのが好きだな。」
笑いながら言われて、ちょっと悔しい。
「次は隣に出れるように頑張る。」
今度こそ頑張ろうと気合入れてるのに
「え。今のほうが嬉しいけどな。毎回俺の腕に飛び込んでくるのは。」
嬉しいの意味はよく分からないけど、ジュードは楽しいらしい。
ジュードに抱えられたままダイニングに連れて行かれた。美味しそうな朝ごはんが並んでる。
お粥は卒業した。この世界はパンが主食なのでそれに合わせていかないと、おれ自身が困ってしまう。
肉や魚も食べれるようになった。
おれを襲ったキラービットの肉は、すごくおいしかった。
今朝は干し肉と野菜のスープと柔らかい白いパン。そしてカフェオレだ。
この二週間一度も門を開いて外に出ていない。おれが寝てる間にジュードは出かけるかと思ったけど、ジュードも出掛けてないらしい。
その間の食材はおれが創造で作れた。
お粥なんかの出来上がった料理から、食材まで。
ジュードも「助かるよ。」って褒めてくれるから、ちょっと嬉しい。
で、ジュードとの生活も慣れてきて、言葉遣いなんかだいぶ打ち解けてきたんじゃないかと思う。
おれもジュードさんって呼んでたのやめたし。
なんせ優しい。いや優しいのは元からなんだけど、おれの意見も聞いてくれるし、この世界のことも色々と教えてくれる。
まじイケメン。
この世界、ちゃんと四季があって、今は10月なんだって。
冬は寒くって雪が積もることもあるって。
おれ病院でずっといたから、暑いも寒いも体験したこと無い。今はすごく過ごしやすい。
でもこれからは冬になって寒くなるって。寒いと雪も降るってジュードが教えてくれた。
雪かあ。楽しみだ。
もう少ししたら朝晩から暖炉を使うんだって。その準備に暖炉の前にふかふかのラグをひいた。
朝ごはんを食べ終えたおれは、火のついてない暖炉の前で座ってカフェオレを飲んでいる。
「何してるんだ?」
ってジュードに聞かれたから、
「暖炉で暖まる練習。」
って答えた。肩を震わせながら後ろ向いてた。それ笑ってるよね?
何事も経験と思うから、気にしない。暖炉楽しみだなあ。
なんて思いながら探知の魔法の練習をする。
あれ?なんか誰かがこっち来る?
「ジュード。誰か来る?来てる?わかる?」
ダイニングテーブルの食器を片付けていたジュードの手が止まる。
「?そうか?俺には分からないが。」
「おれ見てくる。」
「あっ、マコト。俺も行くから。」
玄関でローブを羽織って、靴を履いた。二人で玄関を出て、門に向かって歩いて行く。
門の向こうに二人の人影が見えた。
ジュードの後ろに隠れながら、ジュードをうかがう。
あれ?ジュード?
この顔は初めて見る顔だ。
これは……、ヤバイって焦ってるみたい。
ジュードは誰が来たか分かってるみたいだ。知り合いなのかな?
「ジュード。知ってる人?お客さん?」
後ろに隠れながらそっと聞いてみる。
「いや。まあ。そうだな。うん。お客さんだな。うん。」
いつも余裕バッチリなジュードが、冷や汗でも流してそうな感じでちょっと青い顔して緊張してる。
知り合いだよね?
ジュードは大きく息を吐くと門にある魔石に触れて、魔法を解除していった。
門の外に居る人の顔がハッキリ見えた。
突然大きな声が聞こえてくる。おれはびっくりして肩がビクッとなっちゃった。
「これはどういう事だ。説明しろや。ジュード。」
腕組みした熊みたいな大きなおじさんと金髪のすごく綺麗なお姉さんが、なんか怖い顔して立っていた。
めっちゃ怒ってる?
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