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新しい世界
14 新生活2
しおりを挟む外の明るさに目を覚ます。
ベッドでむくりと上半身を起こし両手をうーんと伸ばして、背伸びをする。
もぞもぞとベットから降りると部屋を出て階段を降りる。
台所にはジュードさんが立っていた。
「おはようございます。ジュードさん。」
「おはよう。マコト。朝から敬語は寂しいな。」
おれはあっ、て昨日のこと思い出して
「お、お、おはよう。」
とどもりながらあいさつをした。
こっちを見ながら笑うジュードさんは、今日もイケメンだ。
「さ、顔洗っておいで。朝ごはんにしよう。」
そう言われて、洗面台に行く。顔を洗いながら、昨日の事を思い出す。
お風呂出てから?
何してたっけ?
「ジュードさん。おれ昨日どうやって寝たっけ?」
朝食を並べているジュードさんに聞いてみる。少し困ったような顔をしている。
「昨日は風呂で寝てしまったから、俺がベッドまで運んだぞ。」
「え?」
「別に気にしなくていい。仕方ないんだから。」
ジュードさんも、いきなりお風呂で寝落ちたおれに驚いたそうだ。服を着せて、ベッドまで運んでから、例の取扱説明書を開いたらしい。
魔素を身体に取り込み、馴染むまでは急に意識が途切れる。電池が切れたみたいに眠ってしまうそうだ。
そうやって段々と身体がこの世界の空気や瘴気に慣れるらしい。
それまではパタッと眠ってしまう。
ただそれが、おれの意思を伴わないから自分でもどうしようもない。
「えー。何それー。ご迷惑おかけします。」
純粋に申し訳なくて謝ると、頭に手を乗せて、ぐしゃぐしゃってされた。
「気にするな。それで段々と慣れてるんだろう。良い事じゃないかな。」
そうか。良い事なのか。まあジュードさんが良いのなら、いいか。
こうして朝ごはんを食べる。おれはお粥とりんごとみかん。果物の甘さに目を見開いて、一気に食べた。
ジュードさんはパンと何か飲み物飲んでる。
覗き込むと、ん?と中身を見せてくれた。真っ黒い飲み物だ。香ばしい匂いがする。
「コーヒーだ。飲んでみるか?」
そう言われてジュードさんのコーヒーを一口もらう。
「!!うわっ!変な味するー。」
口の中いっぱいにいがいがした変な味が広がる。飲み込むのも一苦労だ。
「マコトには苦かったかもな。大丈夫か?」
ジュードさんが苦笑いしながら、りんごを口に入れてくれる。シャリシャリと食べる食感は好きだ。りんごの味で口の中がマシになった。さっきのイガイガが苦いらしい。
「黒いから苦いのかな?」
「いや、マコトにも飲めるように出来るからちょっと待ってろ。」
そう言って台所に行ってしまう。残ったお粥をゆっくり味わいながら食べる。甘みとしょっぱいのと、食べやすくて好きだ。
「お待たせ。熱いかもしれないから気をつけろよ。」
そう言ってコップを渡される。覗き込むとさっきの黒い飲み物じゃなくて白っぽい茶色の飲み物が入っている。
恐る恐る口をつける。
「あ、甘い?」
「正解。コーヒーに砂糖と牛乳を入れたんだ。カフェオレって言うらしいぞ。」
甘くて飲みやすい飲み物にコクコクと一気に飲んでしまった。
「苦いのは嫌だったけど、これ美味しい。」
「じゃあまた入れてやろう。」
「わーい。やったー。」
おれはまたひとつ経験したぞ。
他にもお茶や色んな飲み物を体験して、驚くのはまた別の話。
それから外に出て薪割りをするジュードさんを眺める。
この家には暖炉がある。まだ秋だけどもうすぐしたら、冬が来るし、朝夕は冷え込むから暖炉に使う薪を準備しているのだ。
手斧を軽く振るだけで、パキッと木材が繊維をさくみたいに薪に変身していく。
「ジュード。すごいねー。」
ぱちぱちと拍手しながら、純粋に感心してたら
「やってみるか?」
と、手斧を差し出してくれた。
おれは喜んでジュードのそばに行くと、手斧を受け取り、細めの丸太を縦において、そこにえいっと手斧を振り下ろした。
ザクッと三分の一くらい斧が刺さって、刺さった丸太ごとトントンと叩きつけると、軽い力なのにパカッと丸太は2つに割れた。
嬉しくて、バッとジュードさんに振り返る。
「上手いじゃないか。」
ジュードさんはニッコリとおれの頭を撫でてくれた。
イケメンのヨシヨシはなんか心臓に悪い。ドキドキして勝手に顔が赤くなっちゃうから。それでもジュードさんに向き直り
「でしょー?」
と笑いながら胸を張った。
本宅横にある小さな小屋に細かく割った丸太を紐でまとめて積み上げた。
「これで当分心配ないだろう。」
「じゃあ次は…。」
ハッと目が覚めた。
「うん?起きたか?」
「え?なんで?」
おれはリビングのソファに寝かされてた。
「ちょっと眠ってただけだ。」
「えー。」
そんなに唐突に倒れるのって、おれもジュードさんも困ると思うんだけど、なんか申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい。」
しゅんとしながら謝る。
「どうした?なんで謝るんだ?朝も言ったが迷惑だなんて全く思ってないぞ。」
ジュードさんはラグに膝立ちになって、ソファに座るおれの正面で目線を合わせてくれる。おれの両手を握ると軽く持ち上げる。
「ほら、分かるか?最初会った時に比べたら、肌の色が濃くなってる。」
今度は両頬に手を当てて、ぐいっと顔を上げさせられて、じっと眼を見つめられた。
「眼の色も最初は金みたいな明るい色だったのが、だいぶ濃くなってる。マコトは綺麗な琥珀色なんだな。」
翠色の綺麗な眼で見つめられると、こっちの方がドキドキしてしまう。しかもそのままフッと笑うから、なんか脳みそ沸騰したみたいにボンッと熱くなった。
絶対に真っ赤になってると思うんだけど、ジュードさんはさらにニコニコしながら髪の毛もクシャッとしてくる。
「ここも全部濃くなってる。この世界に馴染んでる証拠だ。しばらくしたら落ち着くだろうし、それまで急に寝るくらいは、別に迷惑でもなんでもないぞ。成長を見守れて嬉しいくらいだ。だから、ごめんなんて言ってくれるな。」
眉をハの字にして困ったような顔をしながら、そんなことを言われてしまうと、こちらも困ってしまう。
「でも…。」
ジュードさんがいきなり立ち上がった。高身長なので今度は見上げるかたちになる。
「でもじゃない。マコトは遠慮しすぎだ。ワガママを言えないようなら、こちらにも考えがある。」
「え…。考えって…。」
いつもの優しそうな顔じゃなくて、ニヤッとした悪い笑顔で
「お仕置きだ。」
「お仕置きって…。」
ジュードさんがどうしたいか分からなくて、泣きそうな顔になってたんだと思う。
「お仕置きは怖いだろ?だから黙って俺に世話されたら良い。病気療養中みたいなものだろう?それに甘えられると嬉しいしな。」
目の前に立って、フワリと笑うジュードさんに優しく抱きしめられる。おれはソファに座っているからジュードさんの胸どころかお腹に顔を埋める形になってる。
頭をよしよしされると、そっかー、甘えて良いのかって思えた。
ちなみにお仕置きが何なのかはジュードさんは教えてくれなかった。気になるけど。
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