愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

13 新生活

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 ヒノトとミコトはじゃあ、また来るね。と帰って行った。
 おれとジュードさんは玄関で二人を見送った。
 
 家の中に戻ると玄関で靴を脱ぐ。やっぱり靴脱いでいられるのは気分が良いー。

 リビングに行くとソファーの前にラグが敷かれていた。触り心地のいい生地に短めの毛足のラグだ。二人の置土産に大喜びのおれだ。

「すごい。ふかふかです。」

ラグに膝をついて両手で肌触りを確認しながらジュードさんに笑いかける。やっぱり気持ち良いわー。

 ちょっと真顔になったジュードさんに見つめられて、あれ?怒ってる?ってなる。

「ジュードさん?」

「ジュードで良い。」

「え?」

「敬語もいらない。名前もジュードと呼んでほしい。」

 急にそんなこと言われても困る。さっとラグの上に正座して、ジュードさんに向き直る。

「えっと、だって保護者みたいなお兄さんみたいな、なんか悪いと思うんですが。」

 ジュードさんはおれの前にあぐらをかいて座った。じっと見つめながら両手を掴んで、ギュッと握った。

「これからは家族だろう?俺もヒノトやミコトのように気安く接してほしい。」

「えーでも二人は弟と妹なんです。今は見た目逆転してますけど。」

 そう。おれの今の年齢は15だし、もっと幼く見えてるみたいだし。対してあの二人は高3生18歳って言ってた。だいぶ大人っぽい。
 おれが前世で死んだ時二人は12歳だったけど、大きくなっててびっくりした。でも、すぐに分かったんだ燈翔と心琴だって。ずっと白い部屋にはおれが一人で寝てただけらしい。ずっと面倒見てくれてたらしいけど。おれは一人きりで白い部屋に閉じ込められてると思ってた。

 あ、何だったっけ?全然違うこと考えてた。
ジュードさんはもっと気軽にしてほしいって事か。まさかそんなこと言うなんて、びっくりだ。

 なんていうか、ジュードさんは大人でかっこ良くて、そんなおれが馴れ馴れしく接しちゃいけないんじゃないかと思って。

「マコト。ジュードと読んでくれないのか。」

 なんか眉がシュンって下がってすごく辛そうな顔をするから、こっちも困ってしまう。
 別に困らせたい訳じゃないし、これからこの世界で生きて行くんだったらジュードさんとも仲良くしたい。
 握られたままの両手を自分も握り返す。

「あ、えっと、ジュ、ジュード?」

 たぶん顔は真っ赤だし、どもっちゃったし、挙句疑問形になっちゃったよ。プルプルしながら、ジュードさんの顔を見る。

 少し赤くなってるけど、それ以上に満面の笑みでこっちを見てた。両手を引き寄せられてガバッと抱きしめられた。

 はわわわ。

 真っ赤になってワタワタしてしまう。それをみてジュードさんが抱きしめたままフッ笑う。

「これくらいは家族でも当たり前の触れ合いだぞ。よしよしとかな。」

「えー?そうなんですか?」

「マコト。敬語は寂しい。他人みたいだ。」

「えー。あー。うん。分かった。なるべく努力しま…、するね?」

 なんでかジュードさんは片手で顔を隠して上を向いてる。

「...可愛い。」

 まさかの呟きが聞こえた。こっちまで恥ずかしくなって赤くなってしまう。

 こんな風に照れながらの生活が始まった。



 まずはトイレだよね。もう大丈夫だよ。たぶん。
 洋式トイレと同じ作りなんだけど、水は無い。聞けば浄化石っていう魔石が置いてあって、壁の魔石に魔力を通すと出したものが消えるんだって。すぐに消えちゃうと尿とか便で体調不良とかの確認ができないからって。

 おれは無事に初めての便を出来たよ。すごいドキドキして緊張してたのに、思ったよりすんなり出て、拍子抜けしたのは内緒だ。まあジュードさんに補助されるのは恥ずかしすぎるので、一人で出来て良かった。ただ勝手に消しちゃいけないって、ジュードさんにマジマジ見られてから消したのは恥ずかしかった。
 まあ最初の一回だけで、それからは出したもの見られたりしてないけど、もちろんおしっこも慣れてきた。立ってしてみたり、座ってしてみたり、色々試したよ。



 で、最初の日に初めてお風呂にも入った。

 ジュードさん家のお風呂は大きいと思う。三人くらいは余裕で浸かれる湯船があって、洗い場も多分広いんじゃないかと思う。っていうのもおれには比べる知識がないから。タイル?石の床はグレーだ。
 初めてのお風呂に緊張してたら、ジュードさんに一緒に入るか?と聞かれた。

「っていうか、マコトが溺れたら困るから一緒に入ろう。」

 というわけで一緒にお風呂入ります。

 洗面所にカゴが置いてあってそこに脱いだ服を入れる。壁には棚があってそこにタオルが置いてあった。着替えもそこに置く。

「靴を脱いだ生活だと風呂の時に楽だな。」

 ジュードさんは素直に感心している。あっという間に順応してしまった。

 おれも着ていた服を全部脱いで、浴室に入った。後ろからジュードさんも来る。

「うわぁ。すごい。広い?」

 ジュードに呼ばれ、湯船の横に行く。桶で湯船のお湯を掬い体にかけてくれた。すごく熱いわけではないと思うけど、おれの身体は勝手に跳ね上がった。

「うひゃあ。」

「大丈夫か?」

「あ、びっくりしただけ。」

 そう、初めて全身濡れる感触に驚いたのだ。
 先にジュードさんが湯船に入り、おれに向かって手を伸ばす。
湯船は浴槽を置いてあるんじゃなくて、床を掘り込んだ形。階段状になっていて、そこをジュードさんが降りて行って、振り返って手を伸ばしてくれた。階段を降りた分離れてるから、しっかり手を伸ばさないといけない。
 その時初めてマジマジとジュードさんの身体を見てしまった。
 高い身長に無駄な肉は付いてなくて、ばっちりシックスパックどころかエイトパックだった。
 冒険者をしてるからか、いわゆる良い身体だ。
 湯船に立ったジュードさんのジュードさんもバッチリ見えて、っていうか初めておしっこしたときにも無理矢理見せてもらった気がする。思い出すと恥ずかしいし、大人のそれに、おおお、っと圧倒されていたら、手を伸ばしていたジュードさんに伸ばしたはずのおれの手は空を切り、そのまま逆さまに湯船に向かって倒れた。

「危ない!」

 落ちる前にジュードさんに受け止められて、落ちずにすんだ。
 ジュードさんは、両脇を手で持っておれはぷらーんと持ち上げられている。赤ちゃんの高い高いってする時みたいな格好だ。身長差のせいで本当にぷらーんって感じ。

「ゆっくり下ろすぞ」

 そう言われて

「う、うん、おねがいします。」

 ゆっくり下がっていく身体、足先から湯船の中に浸かっていく。はずなんだけど

「マコト。これじゃお湯に浸かれないぞ。」

 ジュードさんが肩を震わせて笑っている。それは分かる。

 つま先がお湯に浸かろうとした時段々と足先が勝手に上に上がっちゃったんだよ。すごい腹筋と背筋でググーッと足を上げてしまった。

 おれが足を体育座りのように膝を曲げて、ジュードさんのお腹に足をかけて、お湯に浸からないようにめっちゃ逃げてるのだ。
 お腹、胸、と足を上げたら、ついにジュードさんの肩にかかとを乗せて固まってしまう。

「マコトは浸かるのは嫌か?」

 ジュードさんが困った顔をしながら、変な体勢で固まるおれに聞いてくる。

「よく分かんないけど、怖いかも。」

 そう。濡れただけでもびっくりしたのに、全身お湯につけるとか、未知の恐怖に怯えてるのだ。

「大丈夫だ。怖いことなんてない。みんな普通に入るんだ。慣れたらお風呂好きになるぞ?」

 そう優しく諭されて、おれは肩に乗せたままの足を下ろして、最初のぷらーんな状態に戻った。

「いいか?浸かるぞ。」

 ぎゅっと目を瞑ってうんってうなずいたら、足先からお湯に下ろされた。温かいお湯に身体を包まれながらそのままジュードさんは座った、おれも座ると首までお湯に浸かった。ジュードさんは胸なのに解せん。

 けどこれは…。

「ふあぁ。あったかい。」

 ふにゃりと笑うと、ジュードさんもやっと笑う。

「こんなに緊張しながら風呂に入ったのは初めてだ。」

「おれも。落ちちゃうかと思った。」

「一緒に入って正解だったな。落としても良かったけど赤ん坊だって優しく湯浴みするだろう?最初から怖がらせても良くないからな。」

「え。落とされるのは嫌かも。優しくしてくれてありがとう。ジュード。」

 確かにお風呂くらい浸かれないなんて駄々っ子みたいな事をしてしまった。だったら放り投げられても文句言えないかな?ジュードさん優しい人で良かった。

 その後頭や体の洗い方なんかを教えてもらって、初めてのお風呂もなんとかクリア出来た。














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