愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

文字の大きさ
上 下
5 / 106
新しい世界

2 採集からの

しおりを挟む


 しばらく歩くと少し開けたところに出た。

 森の中だけど、木が生えてない。所々茂みがあったり、花が咲いたりしている。
 ジュードさんが言うには、こういう所は、冒険中に休憩したり、野営に利用されたりするらしい。

「あの、ジュードさん。少し周りを見ても良いですか?」

「ああ、構わないよ。ただ勝手に森の中には入らないようにね。何が出るか分からないから。」

「はい。」

 見える範囲なら良いよと許可も貰えたので、繋いでいた手を離して、所々に生える草のそばにしゃがみ込む。
ちょっとやってみたいことがあったんだよね。

『鑑定』

 心の中でそう唱えて、目の前の草を見る。

 薬草とか、ただの草とか目の前に文字として書いてある。木とか、木の実、石とか、色んな物の名前や効能、レア度は色で分けられてるっぽい。

 近くの薬草と書かれた草をぶちっと取る。草独特の青臭い匂いがする。その近くの花は根元から取ると良いと鑑定に書いてあるので、土ごと取る。
 初めて手を土だらけにした。
 色んな物を見るのに鑑定ってすごい便利だ!
 なんか役に立つかもしれないから、効果のある草や実、石なんかを拾ったり、採集してはカバンにしまっていく。

 夢中になって探し回っていたら、だいぶ広場の外れの辺りまで来てた。戻らなきゃって立ち上がる。
 ふと目の前の茂みから白い塊がひょこっと出てきた。

 あ、これ知ってる。
 たぶんうさぎじゃないかな?白い体に長い耳、赤い目にピンクの鼻がピクピクしてる。
 こういう知識だけは燈翔達が教えてくれてるみたいなんだよ。図鑑とか持ってきて見せてくれたりね。実物は見たことない物ばっかりなんだけど。
 目の前のうさぎを見てたら、うさぎもぴょこぴょことこっちに寄ってきた。大きさは30cmくらい。じっと見てくる。ピクピクする鼻が可愛いな。
 もうちょっと近くで見ても大丈夫かな?
 と、一歩踏み出そうとした。

 いきなりうさぎの首がぐぐぐって伸びて、こっちに迫ってきた。
 あ、これも知ってる。妖怪 ろくろ首とかいうやつだ。けどうさぎじゃなかった気がする。
 首が1mくらい伸びたうさぎがおれを見下ろしていた。可愛い顔だと思っていたのに、口元がビリビリって裂けてパカッと口が開いた。
 牙がビッシリ並んだ口がおれの頭に迫ってくる。

 ええええ。何これ?もしかして食べられるの?

 驚いたおれは後ろに下がろうとした。かかとが引っかかって尻もちをついた。
 動物も魔物も初めて見た。
 あの白い部屋の中では魔法とか使ってたけど、現実に魔物に食べられそうになってる今、恐怖が一番にきて完璧に固まって動けなかった。

「ぐああああ。」

 魔物の雄叫びが聞こえたからか、少し離れたところにいたジュードさんが慌ててこっちに来ようとしてる。
 
「マコト!」

 可愛かったうさぎは大口のモンスター。
 喰われる!っと思った瞬間、伸びた首がスパッと切れた。頭はポーンと飛んでいってしまった。
 伸びた首を切られたことで、そこから血がシャワーのように降り注いだ。
 うさぎのモンスターの首を切り落としたジュードさんが慌てて駆け寄ってくる。
 生まれて初めて外の世界。
こういう風に命の危険もある世界なんだと、気付かされた。

 だからっていきなり血のシャワーはキャパオーバーなんじゃないかと思う。
 視界が真っ赤に染まった。
それだけじゃなく、生臭い匂いが広がる。この臭いはキツい。
 おれの精神は限界を迎えたみたい。
 視界がぐるりと回って、真っ暗になって、おれの意識はここで途切れた。

 まあ要するに白目をむいて倒れた。

 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...