愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

9 お宅訪問2

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 燈翔は足早に校内に戻り、図書室に向かった。
 図書室には自習スペースがある。椅子の背もたれにリュックをかけて適当に本を広げる。椅子に腰掛けて、これで自習してるように見えるだろう。うつむき加減で、再び集中する。


 さっきは結界魔法にやられてしまったけど、兄ちゃん守ってくれてると思ったら結界自体は悪くない。
しかし痛いし、びっくりするので不意打ちは勘弁して欲しい。たぶん本当だったら丸焦げ即死。僕、神様してて良かったと思う。

《ジュードさん開けてくださーい。鳥になってそっちにお邪魔しますからー。》

《!ヒノト?さっきの結界にぶつかったのはヒノトだったのか?》

《正確には鳥です。その結界ちょっとやりすぎですよー。》

 神まで弾くのはやりすぎ。どんだけ重ねがけしたのか。だけど、兄ちゃんの事を思ってやってくれてると思うと、無碍に出来ない。ありがたい。


 再び海の上を飛んでいた。この鳥は偶然ここを飛んでいたツバメだ。さっきと同じ個体だけど、なんとか大丈夫だったみたい。ただ、ダメージは受けてるので、癒しで治療しながら飛んだ。渡り鳥だから後で渡れなくなったら悪いからね。
 
《3秒だけ解除する。》

 ジュードさんから言われる。
 短かっ。
 まあ滑空で飛び込むつもりだから良いけどね。
 家の上、結界ギリギリを旋回する。

《了解。いつでも良いよ。》

 僕が念話をとばすと、パッと家がハッキリ見えた。見えた瞬間滑空と言うよりも、落下する感じで一気に結界内に飛び込む。

 1階の窓は開けてくれていたので、そこから中に入る。

 慎翔の眠るソファの上にチョンととまった。

「…ヒノトか?」

 ジュードから訝しげに聞かれる。

「チチチ。」

 あ、鳥じゃ喋れないか。

《うん、そうそう。視覚とか身体借りてる感じ。ちょっと見たかっただけだから。》

そう言って兄ちゃんのそばまでパタパタと近づいた。

《ホントだ。魅了出てる。なんでだろ?》

 キラキラしながら寝てる兄を眺める。

《色はだいぶついてきたけど、まだまだ馴染み切ってないよね。》

「確かに外に出た時より肌や髪の色が濃くなっているとは思ったが、それが馴染むと言うことか?」

《そうそう。本当はもうちょっとダンジョンで勉強してからのつもりだったんだけどね。ジュードさんが起こしちゃったんだよー。》

 もう少し慎翔に近づいてみる。

《ん?兄ちゃん、大丈夫?》

 ジュードも慎翔の顔を覗き込む。顔が赤い。額に手を置く。

「…ちょっと熱いか。」

 慎翔は発熱しているみたい。ジュードは盥に水を入れてきて、タオルを濡らしておでこにのせた。

《何か食べた?》

「いや、まだ何も飲み食いしていない。さっき帰ってきたので、今からお茶でも入れようかと思っていたのだが。」

 ジュードが家中の空気の入れ替えしているうちに、眠っていたのだ。

《トイレはたぶんしたよね?おしっこ。》

 ジュードは口元を手で隠して赤い顔をしていた。

「ああ、無事になんとか済ませた。本人はかなり驚いていたがな。」

 鳥になっている僕はパタパタっとジュードさんのおでこに近づいて、コンっとおでこ同士を当てた。

《ちょっと見せてね。》

 …………。
 エッロ。
 
 なにこれ、変なプレイみたいになってるじゃん。兄ちゃんに悪気がないのが、ジュードさんに可哀想すぎる。

 鳥なんで顔色見えなくて良かった。あ、でも図書室の僕は赤くなってるかも。

「……見るって、見たのか?」

《ちょ、そんな睨まないで。ちゃんと出来てたか見ただけだから、殺気!出さないで!》

 ジュードさんの兄ちゃんに対する独占欲怖っ。
 なだめつつもう一度寝ている兄ちゃんを観察する。ジュードさんが心配そうに聞いてくる。

「軽い発熱のようだが、大丈夫なのか?」

《うーん。大丈夫だと思うけど、やっぱ僕だけじゃ判断つかないから、心琴も呼ぶね。1回帰るけど、えっと、あった。》

 パタパタと家の鍵になる魔石にとまる。僕と心琴の魔力を通して登録しといた。

《よし、これで焼き鳥は回避された。》

 僕が先に来て良かった。心琴が怪我をするのは可哀想だ。
 仕返しされるジュードさんが。

「分かった。待ってる。鳥でも魔法は使えるんだな。」

 しばらく何か考えて、奥から盥を持ってきた。

「じゃあ悪いが氷作って帰ってくれないか?俺は水属性がないんで氷は作れないんだ。マコトを冷やしたい。」

 ジュードさんは火と風属性だったっけ、あと闇か。

《いいよ~。》

 と、ガラガラ氷作って、じゃあねって帰った。


 帰ると言っても意識を戻しただけなんだけど。




 俯いたままだった燈翔はゆっくりと目を開ける。

 吹奏楽部の楽器や運動部の掛け声なんかの部活動の音が、色んなところから聞こえてくる。図書室は数人の生徒がいるようだが、とても静かだ。
 突然、俯いていた視界いっぱいに大きな手のひらが見えて、驚いて慌てて仰け反る。

「!! おおお?お、お、旺介?なんで?どしたん?」

 慌てすぎて、大きな声で叫びそうになる。慌てて口を自分の手で塞いだ。ちょっと素が出たわ。

 向かいの席には、さっき野球部の練習に向かったはずの旺介が、座って燈翔に向かって手のひらを向けていた。
 旺介もさっきまで居眠りでもしている感じの燈翔が、突然自分に気付いて飛び上がったので驚いて固まっていた。

「いや、さっき様子がおかしかったから見に来たんだけど。赤い顔してるし、熱でもあるんじゃないかとおもっ…て…。」

 旺介の声はだんだんと小さくなっていく。上げていた手も下ろして、申し訳なさそうな顔をする。

 なんで旺介がここにいるのか、たぶん僕の目は点になっていると思う。しかし、そこは人あたりの良さが自慢なので、素早く切り替えた。

「あ、そうなんだ。ごめん。心配かけたみたいだね。」

と、にっこりする。

 すると旺介は微妙な顔をしながら

「大丈夫なんだったら良いんだ。」

と、緩く笑った。

「うん。もう本当に大丈夫。っていうか、なんで旺介ここにいるの?練習行くって言ってなかった?」

「だってお前帰るのかと思ったら学校戻るし、図書室で居眠りなんて調子悪いのかと思って。」

 普通にしてたつもりだったのに、どうも旺介には違和感があったらしい。勘がいいのも困りものだ。

「あー。うん。受験勉強で疲れたのかな。ちょっと居眠りしたら調子良くなったよ。心配かけてごめんね。」

 両手を合わせて拝むポーズでごめんねと、首を傾げる。

「まあ、大丈夫ならいいんだ。あんまり無理すんなよ。じゃあな。」

 と、ちょっと照れたような困った顔をして、図書室から出て行った。廊下から見てみると今度こそグラウンドに向かって行っているようだった。

「なんだったんだ?あいつ。」

 旺介の行動に疑問を抱きながらも、心琴と合流するために、燈翔も荷物をまとめて図書室をあとにした。

 






  


 










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