愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

8 お宅訪問 燈翔

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 抜けるような青空の昼下がり。

 カツカツと黒板に書き込まれていくチョークの音と、それをノートに書き取るカリカリという音。
 呪文のような先生の説明は心地よい眠気を誘う。

 社会。特に歴史とかは午後にやっちゃダメだよ。しかもこの先生の授業はひたすらの一方通行。喋りながら黒板に書いていくだけ。眠くならない方がおかしい。マジで呪文じゃん。

 何度目かのあくびをかみ殺す。優等生で通ってる身としては、おおっぴらにあくびをしたり、怠惰な授業態度ではいけないのだ。

 あ~、めんどくさい。

 カリカリとノートをとる。


 中瀬 燈翔なかせ ひのと慎翔まことの弟だ。今も高校生している。世を忍ぶ仮の姿ってやつだ。
実際は大神にこき使われて、異世界とを行き来して慎翔の面倒を見ていた。
 異世界では神で、日本で言うならば神子だ。
 まあ今は日本では、ただの一般人として生活している。
 それは慎翔がこの世界では亡くなってしまって、自分の管理する異世界ダンジョンに連れて行ったから、この世界ではすることが無くなった。だから別にこの世界にいる必要はないんだけど。

 大神の愛し子である母さんと優しい父さん。両親の愛を感じる生活。
 息子を亡くして落ち込む姿をそのまま放り出して、自分や同じ神である双子の心琴みことが消えてしまったら、母さんはさらに落ち込むだろうし、大神からどれだけ怒られるか分かったもんじゃない。

 それに何より日本のエンタメにゲームは2人の神を夢中にさせたのだ。燈翔はかなりのゲーマーだし、心琴は完全なる腐女子だ。
 お互い色んなイベントとかにも足繁く通っている。
 それに慎翔から両親をお願いねって遺言されたら、聞くよね。
 だから両親を看取るまでは、2人で現世を楽しもうってことになった。
 だから真面目に授業受けてるって訳。

《ヒノト。聞こえるか?》

と、頭の中に声が聞こえてきた。

 今は授業中の教室だ。

 あ、ジュード。と声に出して返事する訳にはいかない。
 何事も無いかのように念話だ。

《ジュードさん。兄ちゃん元気?》

 って言っても、兄ちゃん送り出したの今朝だったけど。まだほんの数時間前。

《俺の家に着いて、今は眠っている。色々と聞きたいことがあるんだが、今大丈夫か?》

《全然大丈夫~。なんかジュードさん疲れてる~?》

 なんとなく起こったことわかるけど、一応聞いてみる。
 たぶん兄ちゃんは色々とやらかすと思うんだよね。心琴じゃなくて、僕に聞いてくるあたり、そっち方面の話かなーって。

 キーンコーンカーンコーン

 授業終了のチャイムがなった。今日の授業はもう無い。
 担任が昼から出張だとかで、HRは昼前に終わっているので、すぐ帰れる。
 燈翔はカバンに荷物を手早く纏めると、リュックを片方の肩にかけて廊下へと出た。数人のクラスメイトとバイバイと挨拶を交わしながらジュードと念話を続けた。

《…トイレもした事ないと言うのは本当だったんだな。外を歩いたことも、魔物も初めてだと。》

《ちゃんと言ったでしょー。前の世界では寝たきりだったって。頭の病気の後遺症で首から下が麻痺してたの。感覚はゼロ。立ち上がって歩いたこともないよ。》

《っ、そんな事が…。》

 まあ簡単にしか説明してなかったし、科学が違いすぎてイメージも出来ないよね。
 うんうん頷きながら校舎から外に出た。

《他には何かあったの?》

 僕の質問にすぐに返事は無い。

《魔物に襲われそうになった。も、もちろん怪我は無い。》

「はああ?」

 しまった。声に出た。周りの生徒がチラッとこっち見てきた。ニコッと笑っとく。赤い顔して行っちゃった。

《本当に大丈夫なんでしょうね?ジュードさんなら任せられると思ったのに。》

《すまなかった。》

《うん。まあ兄ちゃんは常識では計れないと思うから、ちゃんと教えてあげてね。僕達は上辺だけの情報を教えただけだから。経験値はゼロだよ。》

《なるほどなんとなく分かった。だが、外に出してやるのも難しい。》

《?なんで?》

 ジュードさんってそんな執着、監禁系だったっけ?

思ったことがそのまま伝わってしまった。

《誰が執着、監禁だ。俺だって色んな経験をさせてやりたいし、冒険者登録もしようと思っていた。だが、魅了が常時発動している状態では、襲われてしまう。》

 《???なにそれ。そんな事あんの?》

 《何かあれば被害にあうのはマコトだ。俺が状態異常無効スキル持ってて良かったな。》

 一瞬立ち止まってしまった。
なんで魅了なのか分からない。実際兄ちゃんは可愛い小悪魔系だよ。
 だからってそんなスキル付けた覚えはない。なんかのバグなのかな?
 校門に向かって歩いていたが、スっと体育館裏の人気のないところに向かう。木陰に入った。
 さっきよりちょっと集中する。


 海から丘の上に青い屋根の家が見える。あるのになんか見えにくい。認識阻害の魔法か。けど、兄ちゃんとジュードさんの気配がそこにあるから、そっちに向かって飛んでいく。
 今、異世界の海の上を飛んでいた鳥の身体を借りて、意識だけ飛ばしてる。
 認識阻害や簡単な結界なら、神である僕ならそうそうやられることは無い。
 スーと気配に向かって飛んでいく。

 バチバチバチッ。

《痛ったああっ。》

 神様すら弾く、えぐい結界魔法にもろにぶつかった僕の意識は、一瞬真っ白に飛んだ。

 ガクッと膝から崩れ落ちる。

「燈翔!おい!大丈夫か!?」

 その瞬間後ろから脇に腕を入れお腹を支えられ、引っ張りあげられる。

「あ、旺介。ありがと。」

 支えてくれたのは仲邑 旺介なかむら おうすけ

 僕が私立中学に入学した時からの友達。中瀬と仲邑だから出席番号が前後で席も前後。
 入学式の時に声をかけたのか、かけられたのか?まあ、それから名前呼び合うくらいには仲がいいと思う。
 ずっと野球部だった彼は、高3で部活も終わり、短かった角刈りは伸びてツンツンしていた。180cmを越す長身とがっしりした体型をしている。

 いわゆるガチムチだ。

「お前こんなとこで何してんだ?貧血か?」

 旺介の胸に背中を載せるような形で支えられている。
 ゆっくりと立ち上がり、旺介の方に振り向いた。

「ごめーん。寝不足かな。助かったよ。ありがと。」

旺介の肩をポンポン叩いてお礼を言う。

「そうか。あんまり無理するなよ。」

「ありがと。旺介はなんでここに?」

「野球部の練習に顔を出そうかと思って。ここ野球グラウンドへの近道なんだ。」

 と、向こうを指した。

 そう言えば、旺介は野球推薦で大学が決まってるんだった。

「そっか。邪魔して悪かったよ。もう大丈夫なんで、練習行って良いよ。」

 と、ヘラりと手を振って大丈夫アピールする。

「そうか?じゃあもう行くけど、本当に無理すんなよ。」

 じゃあなっと片手を上げて、グラウンドに向かって行った。
 それを見送ってから燈翔は校内に引き返す。

 グラウンドに向かって歩いていた旺介は、立ち止まって振り返り、燈翔の校内へと戻っていく後ろ姿をじっと見ていた。

 

 

 


 



 



 
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