愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

7 自宅 ジュード

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 俺はマコトをリビングに残し、2階に上がった。全ての部屋の窓を開け放つ。

 1ヶ月以上{真実の迷宮}に篭っていたので、家に帰ってなかった。保存と浄化の魔法で埃一つ溜まっていないが、空気の入れ替えが必要だ。

 2階には階段上がってリビングの真上の大きめの部屋を主寝室にしている。
 ここも大きな窓があり海がよく見えて、バルコニーに出られる。

 二階にはあと二部屋ある。
 一応とベットを置いたのは一部屋だけだ。その部屋の窓を開ける。
 もう一部屋は完全に何も置いていない。
 ベッドを置いてあるこの部屋はマコトの寝室にしようと思う。

 この家を気に入って買ったのは半年くらい前か。

 ほとんど迷宮に詰めていることが多かったから、家具なんて揃えてない。自分の寝室もベットひとつ置いてあるだけだ。
 人を呼ぶ予定も無いからと必要最低限に留めていたが、マコトはどう思うだろうか?

 俺としては2人で家具や必要な物を揃えるのもいいんじゃないかと、楽しみではあるんだが。

 魔族の血が強く出た俺は、今まで人と深く付き合うことはなかった。
 知り合いと言えば、マサのギルドマスターに副ギルマスくらいか。
 赤ん坊のうちに孤児院に捨てられ、その時世話してくれた神父は、12で孤児院から出ていった後、数年で亡くなってしまった。

 冒険者ギルドに登録して、色々と世話を焼いてくれたのは、S級冒険者として活動していた現在のギルマスだ。
 副ギルマスはエルフで、かなり長い期間副ギルマスをしているらしい。彼女もS級冒険者である。年齢の事は禁句だ。彼女を怒らせて得は何一つない。

 俺が魔族である角を隠して生活しているのは、誰にも話していない。神父が亡くなった事で、孤児院の人間は俺の正体を知るものはいないだろう。変身出来ることはもちろん秘密だ。

 人生に目的がある訳でもないので、このマサのギルドで迷宮案内人として過ごしていこうと思っていた。
 まあ、あの2人は俺が異質な事には、気づいていて黙っていてくれるんじゃないかとは思う。

 この家を買おうと思ったのも偶然だった。
 以前は貴族の別荘として建てられたらしいが、没落したらしく、誰も住むことなく放置されていた。
 売りには出されていたが、家だけでなく周りの山まで広大な敷地も買取対象だったため、全然買い手がつかなかったらしい。

 ギルマスに1度、郊外に家を買いたい。と話したことがあったので、それを覚えていてこの話を持ってきてくれた。

 築年数はかなりのものらしいが、保存の魔法が家全体にかけられており、荒れたところは全然なかった。埃もほとんど見かけない。
 水回りは少し古めかしいので、使い勝手が悪いかもしれないが、元々自炊はしてないし、風呂もシャワーしか使っていない。

 何より景色が素晴らしかった。

 ひと目で気に入ってしまった俺は、即日で契約してしまった。
 ギルドに貯金していた金のほとんどをつぎ込んでしまったが、ちょうどその頃は{真実の迷宮}のおかげで潤っていたので、気にせず買ってしまった。

 この家しかない。

 と思ったのは、不思議な感覚だが、これも神様の思し召しというか、マコトとの事が運命づけられたものだったのかもしれないと思うと、今になってみれば悪くない気がした。

 各部屋に浄化の魔法と風魔法で空気を入れ替え、窓を閉めると1階に降りた。

 リビングに戻るとソファの背もたれが見える。人影が無いので、近づいていくとオットマンに白い素足が見えた。

 覗き込むと彼には大きすぎたソファはベットのようになって、横を向いて青い本を抱えてキュッと丸くなって眠ってしまっていた。
 
 天使か。可愛すぎる。

 2階に上がり寝室からブランケットを持ってきてマコトにかける。

 大きめのカウチソファにはまだ余裕がある。
 マコトを起こさない様にゆっくりと腰を下ろした。マコトの真っ直ぐだけど柔らかい茶色い髪を一掴み優しく触る。

 何度かマコトの頭を撫でたが、柔らかい触り心地はクセになりそうだった。マコトさえ嫌がらなければ、ずっとどこか触れていたい。

 ダンジョンから外に出たのはほんの数時間前だが、髪や肌の色が濃くなった気がする。肌は抜けるような白から少し黄色味がかかった。

 魅了は未だ常時発動中のようで、キラキラと全身が光っている。

 双子からは『お兄ちゃんが成人するまでは手は出さないように』と念を押されているが、成人まではあと一年あるか無いからしい。

 マコトの無防備な寝姿に、いかんいかんと理性を総動員する。

 そのマコトだが、慣れないせいかよそよそしい感じがする。いくら優しく声をかけても、ずっと敬語だ。

 俺はもうマコトが愛おしくて仕方ないのだが、あまり触れすぎると我慢が出来なくなりそうだ。
 かと言って、どこまで我慢すればいいのか。キスくらいはしてもいいのだろうか?
 一応ヒノトとミコトに聞いてみたいと思った。

 そう言えばと思い出した。左耳のピアスに触れる。

 これを付けていれば、どこか遠い世界にいるヒノトとミコトと会話が出来ると、あの時渡されたものだ。

 その時に

「落ち着いたら連絡してね。」

と言われていた。
 落ち着いたとは言えないが、色々と聞きたいこともある。

 ピアスに集中してヒノトを呼んだ。
 
 
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