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新しい世界
6 お宅訪問
しおりを挟む目の前には青い屋根の木の家が建ってる。お屋敷みたいなのじゃなくて、二階建てのログハウスみたいな家だ。
玄関前にウッドデッキが横長に伸びてて、階段がある。玄関扉横の壁にブラシがかけられてて、ジュードさんはそれで靴裏を軽く払っている。
おれはそこに置いてある丸椅子に座るように誘導された。
座ったおれの靴の泥を落としてくれた。
「ありがとうございます。」
ということは中も土足ということだろう。
おれは昔は寝たきりだった。だから靴を履いたことが無い。もちろん靴下も。
あの白い部屋で目覚めた時の服装は、燈翔たちに、日本人一般の基本型ってやつだよ。と言われた。だからあの時の靴下とスニーカーが初めて履いた靴と言うわけ。まあほとんど履いてなかったけど。絨毯の上なら素足の方が良かったし。
何が言いたいかと言うと、めっちゃ靴脱ぎたい。編上げの膝下までのブーツでずっと歩いてきたから、足も痛いし、すごいジトジトしてて気持ち悪い。体もなんかジトッとしてて、ローブも脱ぎたくてしょうがない。だけどどうしてもそんなワガママ言えなかった。
「マコト?」
ジュードさんがおれの前に膝をついて目線を合わせてくれる。
なんだろう。疲れてるのか、さっきまでのテンションになれない。身体がジトジトしてて気持ち悪いせいか、イライラしてる?
悪いことしてる訳じゃないはずなのに、なんか悪い気がする。けど素直に伝えることもできなくて、なんかぐちゃぐちゃしてる。こんな感情初めてで、どうしたらいいのか分からずに黙って俯いてしまった。
「疲れたのか?そんな顔をして。ほら、とりあえず中に入ろう。」
ジュードさんは少し困ったような顔をして、おれの眉間を親指でグリグリとした。そして怒るでもなく優しくおれを家の中に連れて行ってくれた。
玄関扉を開けると広いスペースになってて、正面に階段がある。
横の壁にはフックがいくつかついてて、そのひとつに外套がかけられてた。おれもそこでローブを軽くはたいて埃や汚れを落とした。
「そういう時は浄化を使うといい。」
そう言いながら、おれに軽く浄化の魔法をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
ちょっとスッキリしたら、気分も上がった気がする。
ジュードさんも自分に浄化をかけている。キラキラって軽く光ってすぐ消えた。
「何も無い家で申し訳ないんだが。今は辛抱して欲しい。こっちだ。」
玄関ホールの正面には階段があり、階段横から廊下が伸びて、正面、左右に扉が見えた。廊下の右側にはもうひとつ扉が見える。
そのまま廊下を真っ直ぐ奥に進み、扉を開くと大きめな部屋に出た。
リビングだと思う。目の前には大きな窓があって、その向こうがキラキラ光ってた。
「海だよ。」
外に広がる草原の切れた向こうに海と水平線が見える。
海を初めて見たおれは、口を開けたまま広大な景色を眺めてた。
外を眺めることが出来るように外向きに置かれたカウチソファに座るよう勧められる。
「……す、すごいなあ。キラキラしてる…。……きれいですね。」
唯一おれが言えたセリフ。
元々語彙力皆無なので、これ以上はすごいしか出てこない。
「気に入ったか?」
ジュードさんに聞かれてうんうんと頷く。
初めて見る海はキラキラだ。
ジュードさんは
「この家はこの景色が気に入って買ったんだ。マコトにも気に入ってもらえて嬉しいよ。」
と、にっこりと笑顔を見せた。イケメンの笑顔ヤバ。
見とれながらソファにポスンと座る。
「なにか飲み物を持ってこよう。お腹は空いてる?」
「あ、ありがとうございます。お腹空いてないんで、飲み物だけで大丈夫です。」
お腹がすいたとか、喉が乾くとかまだよく分からない。
「そうか。なにか欲しいものがあれば遠慮せずに言って欲しい。ちょっと待ってろ。」
ジュードさんはおれの頭をぽふぽふと撫でながら、そう言うと、部屋から出ていってしまった。
おれはぐるりと部屋の中を見回す。
目の前には木でできたローテーブルが置いてある。自分が座っているのはクリーム色に近い生成のカウチソファでオットマンも付いてゆったりと座れる。
っていうか、それしか無い。
本当に物が置いていない。
隣にも続きで部屋があるけど、四角い机に椅子が4脚。ダイニングなのかな?玄関の左の扉がダイニングへの扉みたい。
ダイニングとリビングの間には暖炉がある!
すごいオシャレだと思うけど、昔も病室以外知らないし、日本家屋とかなんとなくのイメージしか知らないから、比べる物がないんだよね。
ただわかるのは、物が無さすぎて生活感が無いって事くらいかな。
おれはもぞもぞと靴紐を解いてブーツを脱いで、さらに靴下も脱いだ。そのジメッとした足に浄化をかけた。
あー、やっとスッキリした。
解放された足をオットマンに乗せる。身長の高くないおれはソファの背もたれが遠すぎて、ゴロンと寝転んでしまった。背もたれが枕だ。
そのまま横になったまま外の景色を眺める。
遠くの空を鳥が飛んでる。
ざぶん、ざぶんと波の音が聞こえる。
今の時間は分からないけれど、まだ太陽が高い位置にあるからお昼なんだろうと思う。
この世界の時間はどうなっているんだろう?24時間なのかな?
そう思ったら、あの白い部屋で白くて読みにくかった本の存在を思い出した。
『タメリア国の歩き方』
アイテムボックスから取り出すと、まずその本が本当は青い表紙だったということと、中には挿絵がたくさん入っていたと言うことにとても驚いた。
すごく役立つこと書いてそう。これからのバイブルにしよう。
とりあえずこの世界の時間も24時間だった。
横になったままパラパラと本をめくっていると、波の音と相まって、格好の睡眠薬だったらしい。
一気に瞼が重くなった。
外に出て、魔物に襲われそうになったり、おしっこ漏れそうになったり、いっぱい歩いて疲れてたみたい。
気がついたら目は開かなくて、こてんと意識が暗闇に落っこちた。
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