愛し子の愛し子の異世界生活

いちこ

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新しい世界

5 魔力認証

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 あー本当にマジでヤバかった。
 何がって、ナニだよ。
 初めてのおしっこだよ。
 
「誰しも食べたり飲んだりしたら出てくるものだ。別に変わった事じゃない。」

 ってジュードさんは言ってくれたけど、どうしたらいいか分からなくって、すごく焦った。

 分かんないから、ジュードさんに見本見せてってお願いしちゃった。
 けど、あれってきっと人前で見せるもんじゃなかったんだろうね。びっくりしてたし、ちょっと嫌がってたっぽいし、迷惑だったよね。
 それでもちゃんと教えてくれて、保護者とはいえほんとにいい人。けどちょっと悪いことしちゃったなって思う。
 
 おれは日本で生まれた時は脳に腫瘍があって、すぐに手術したんだけど、麻痺が残ったんだよね。だから首から下の感覚がなかった。排泄?してたかもだけど、その感覚を初めて味わったわけ。

 お腹の下の方がキュウキュウしてなんか出ちゃいそうっていうか、まあ出たんだけど。これが排尿ってやつね。
 あとこれとは別に食べたら排便ってのがあると言われて、実は今からドキドキしてたりするんだけど、さすがにそれの見本も見せてとは言えないから、パニックにだけはならないようにしたい。

 さっきもジュードさんに支えて貰ってたし、これってやっぱ1人で出来るのがあたり前な事で、実はすごい恥ずかしい事だったのかもしれないって気がついたんだ。

「今は外だからこんなところでしたが、家ならトイレがあるから。人に見られることは無いよ。」

って、やっぱり~。一人でするんじゃん。マジか~。
 燈翔もそういう生理的なこともうちょっと教えといて欲しかったよ。

 普通こういう事はやらないとか、普通ならみたいなこと分からないから、常識外れなことしてるんじゃないかと心配になる。

 赤くなってあわあわしてたらジュードさんに聞かれた。

「魔法で水は出せる?」

 そう言われて両手のひらをお椀みたいに丸くして水を溜める。それを傾けて流せば、ジュードさんはその水で手を洗った。

「トイレをしたら手を洗うんだ。悪い菌が入ると行けないからな。」

 水属性がある人は自分で水出せばいいし、無ければ浄化を使うか、それも無理なら魔道具があるんだって。

 衛生観念は大事だよね。

 分からない事ばかりでびっくりだ。頑張って色々覚えないと。

 ちょっと落ち込みそうになったけど、もう次は1人で出来るから大丈夫。
せっかくみんながくれたもう1回の人生なんだから、前向きに生きたい。ジュードさんには迷惑しかかけてないけど。
フンと気合いを入れて、上を向いて歩き出した。

 思いの外歩くことになって、おれはフーフー言いながら頑張って歩く。

「大丈夫か?辛かったら、おんぶするか?」

 ジュードさんに優しく聞かれた。慣れないから大変だけど、もうちょっと自分の足で歩きたい。

「大丈夫です。頑張れます。」

「そうか。もう少しで俺の家だから、頑張れ。あそこは景色が良いぞ。海は見たことあるか?」

「本でしか。」

 海なんか見た事もちろんないから、首を横に振る。ジュードさんは笑顔で

「じゃあこっちだ。」

と、手を引いてくれた。

 しばらく歩くと森の木々がなくなって、拓けた景色が目の前にあった。

 ザザーッとかゴーっと音が聞こえてくる。

 柔らかな草が一面に広がって、草原になってる。そこに幅1mくらいの道が真っ直ぐ通ってる。     

 少し上がった高台に青い屋根の一軒家がポツンと建ってた。

「あれが俺の家だ。小さいけどな。」

 坂を登りながら、青い屋根の家を見ていると、家の向こう側にキラキラしたものが見えた。

「あの家の向こうの青いキラキラしたのは、もしかして?」

「ああ、海だよ。海面に太陽の光が反射してキラキラ光るんだ。ここからだと海までは少し離れているけど、波の音は聴こえるし、景色も良いだろう?」

 あれが海なんだ。
 すごい広そう。空と海が境になってるのが水平線か。知識としては知っていても初めて見る景色を立ち止まってしばらく眺める。

「ここからでも海は見えるが、家のリビングから海岸線や小さいけど砂浜も見える。早く家の中に入ろう。疲れただろ?」

 そう言われて、家に向かって歩き出した。

 家は半島みたいに突き出した崖の上に建っていた。坂を登るのは大変だけど、草原に囲まれて見晴らしが良い。


 家の近くまで来る。門があるんだけど、塀や柵は無い。等間隔に大きめの庭石みたいなのが家を大きく囲むように置いてある。

「ここに魔力を流すと門が開いて、中に入れる。」

 魔力は指紋みたいに一人一人違うんだって。門にはインターホンみたいに石が付いてるんだけど、そこに魔力を流すことで鍵の開け閉めが出来るって。
 
「手を出して。」

 ジュードさんがおれの手を門の魔石に触れさせる。

「魔力流せる?」
「たぶん?」
「たぶん?」
「えっと、魔法の無い世界から来たので、使い方が合っているのか分からなくて。」
「誰かに教えてもらった訳じゃないのか?」
「はい。なんか本で読んで、やってみたら出来たって感じで。」
「じゃあ無意識に流せてるんだと思うから、なんとなくイメージでやってみて。」
 そう言われて、血が流れる感じで、魔力を流す。多分これで合ってるかな?

「うん。上手にできてる。これで登録できたよ。マコトは出入り自由だ。さあ中に入ろう。」

 ジュードさんは門をくぐると振り返り扉を閉めて、石に魔力を流していた。横から不思議そうに眺めていると、

「今は施錠の魔法と結界と認識阻害の魔法をかけた。」

「認識阻害…?」

「そう。門とこの石をぐるりと魔法を通して家全体を幻で包んだんだ。」

 家に帰ってきたことを悟られたくないから、留守に見えるようにしてるんだ。
 でも、留守だからって泥棒が入らないように、結界魔法を何重かに重ねてかけてるんだって。
 石で囲んだ範囲内は上空まで円形に入れないから、高い塀もいらないって教えてくれた。

魔法ってすごいなあ。っと感心しながら、家の前に立った。


 

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