女王様が恋をしたら

紅玉

文字の大きさ
上 下
5 / 8
1.

5話

しおりを挟む

 次の日。
凛が起こしに来ても、結菜はなかなか起きてくれなかった。なんだか、ぐずっているのだ。
「ほらー、制服着てー。」
小さな制服を渡しても、ブンブン振り回して着てくれないのだ。
フレンチトーストは美味しそうに食べてくれたのでもう機嫌が良くなったのかと思っていたのだが
学校で教室に入った途端、一気にムスッとした表情になってしまった。
学校だと結菜が笑わないのはいつもの事だけど、ここまで露骨に表情を変えるのは珍しい。
教室を見渡すと、赤みがかかった茶髪の頭を発見した。まだ声変わりをしていない男の子の声。
彼こそが凛がお付き合いを始めた相手、
佐川幸生である。
彼はすぐに凛に気づいてくれた。
「立花!おはよう。」
「おはよ、佐川。今日、バスケ部ある?」
「今日はないよ。立花、一緒に帰ろうぜ?」
「うん。」
そんな、ありふれた会話。
…とても嬉しい。
思わず笑がこぼれる。
「私、今日 日直じゃないよね?」
「違うだろ?2週間くらい前にやったばっか…」
「あ、そうだった。」
うっかりしてた、そう言うと彼は朗らかな笑い声をあげた。
 楽しそうな凛の笑顔。それが面白くなくて、結菜はくいっと制服の裾を引っ張った。
ショートカットの髪と共に振り向く凛の優しい表情。いつもの、私が知っている凛の表情。
「凛、私、準備しなくちゃ。」
「あれ、結菜珍しいね。
今日はどうしたの?良い子すぎるよー」
私の首に手を回してきゅっと抱きしめる。
いつもの凛。
私の知ってる、凛だ。
嬉しくて心から笑った。
ほら、こっちが本当の凛よって誇らしく思った。
幸生と目が合う。
彼は当惑した表情を見せていた。
私は認めない。
凛が、誰かと付き合うなんて。
絶対に凛をあいつから取り戻してみせる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら思い出

夏瀬檸檬
青春
中学2年生の松風 百合。 彼女の幼馴染加奈は幼い頃から入退院を繰り返し病気と闘っている。 中学生になって加奈は長期入院となり、一年生から今まで一度も学校へ登校したことがない。 加奈がクラスの一員ではあるものの、教室にはいないことが当たり前になっているクラスメイト。別の学校から来た子達は加奈の存在すらわからないというだろう。 加奈は、お見舞いの来ない病室で一人で戦っていることに気づいた百合は…???

華園高校女子硬式野球部

群武
青春
20年前、女子プロ野球が出来上がり毎年女子野球選手の数が増えてきた 今年、全国にある女子硬式野球部の数は200を超えた そして来年男子硬式野球部で有名な華園高校にも女子硬式野球部が出来ると噂になる 創部1年目の華園高校女子野球部 そこへ野球一筋の大空千陽が入部する 果たして夏の予選を突破し夢の甲子園でプレーすることは可能なのか

シャボン玉、はじけた

浅上秀
青春
窓の外に浮かぶシャボン玉。 幼き日の思い出と仲違いした友人。 彼女の想いがはじけた先には…? ※昔のリメイク企画

星空に叫ぶ

範子水口
青春
高校三年夏の甲子園出場を目指す球児、毅と功治。そして毅の恋人の和美。補欠の毅はベンチ入りを目指して日夜練習に励む。一方恵まれた体格の功治は不動の四番バッターとしてチームを牽引している。秀才の和美は受験勉強と陸上部競技の文武両道の道を歩んでいた。  毅が紅白戦でデッドボールを受けて、膝を痛めたことをきっかけに、三人の運命は静かに動き始める。  巡り会う命が触れ合いぶつかり合うリアル。生きる喜びや葛藤を余すところなく書き上げた大人向けの青春小説。

桜華堂で待ってる

月代零
青春
古い洋館を改装して造られた古書カフェ・桜華堂。その裏庭にある桜の木の下で待っていれば、失った大切なものにまた巡り合える、という逸話があった。 親の都合で親戚中をたらい回しにされていた少女・晶(あきら)は、桜華堂に下宿人として暮らすことになる。 そこには、同じく下宿人として、カフェの従業員たちが暮らしていた。 学生作家の昴、陽気なウェイトレスの那由多、無口で強面のシェフ兼パティシエ・仁、マスターの陽介。 それぞれの事情を抱えて、一つ屋根の下で暮らす人々の物語。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。 「学校に行きたくない」  大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。  休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。  (それぞれ独立した話になります) 1 雨とピアノ 全6話(同級生) 2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩) 3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩) * コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

国立ユイナーダ学園高等部シリーズ《基本設定》

砂月ちゃん
青春
シリーズが長くなって来たので、国立ユイナーダ学園高等部シリーズの基本設定を紹介します。 不定期更新。 作品に関するご質問等ありましたら、遠慮なくどうぞ。

処理中です...