2 / 33
ご紹介にあずかりました
しおりを挟む
「まず、先ほどいた場所が『始まりの時計台』です。この街のリスポーン地点なので、恐らく一番混雑しているところだと思われます」
「そんな場所に長々と縛りつけてしまい、申し訳ございませんでした……!!」
「構いません。わたしも始めはあんな感じでしたし」
緩やかな足取りで隣を歩くあさひなさんが、ふんわり、笑みを浮かべる。
風に吹かれる美人の眩しさに、思わず目許に腕を翳した。
これで親切心に溢れているのだから、人の世も捨てたものじゃないと思う。
時計台は石造りで、正面の文字盤のみがアナログ表示。四方をデジタル文字が照らしている。
文字盤には大小二重に輪がかけられており、正直天文学とかさっぱりな俺には「お洒落でかっこいい時計台」との見解にしか至らなかった。
「ここが『広告塔』ですね。運営からのお知らせや、簡単なニュース、または募集などが表示されています」
あさひなさんが手のひらで示した、人垣で囲われた電光掲示板。
大きな支柱を中心に、幾重もの青い画面が巡っている景色は壮観だ。
ひとつひとつ、画面の中に白光の文字が流れている。
「支柱の傍にいる金髪の人が、NPCです。困ったことがあれば相談するといいですよ」
「はー」
百貨店なんかにいそうな出で立ちのお姉さんが、淡い微笑みをたたえながらプレイヤーの応対をしている。
あの制服の人は、どの街にも必ずひとりは常駐しているそうだ。
話の内容によっては運営まで報告が入るらしい。
なるほど。操作手順とかでお姉さんには当分お世話になると思う。
「向こうに見えるガラス張りの建物が、運営の窓口です。この街のものは支店で、本部は第5都市にあります」
「へー」
「不具合や問題があった際は、運営に連絡してください」
「わかりました」
建物の隙間から窺えた硝子の四角い事務所に、頷きあさひなさんへ顔を向ける。
俺の歩幅に合わせてくれる彼が、対向から来た人を避け、大通りを指し示した。
「ようこそ、第1都市ユークレースへ」
「今のところもう一度いいですか? スクショ撮りますんで」
「えーっと、……恥ずかしいのと、道の真ん中は止めておきましょうか」
やんわりとした微苦笑でかわされ、往来の端へと誘導される。
何処からともなく流れる音楽は軽快で、賑わう街路は商店露店、走る子どもに大荷物を抱える人など、大変に混雑していた。
これまでの人生で海外旅行もしたことのない俺にとって、西洋美人さんや欧米かっこいいさんと擦れ違うことなんて、滅多にない。
更にはもふもふの耳や尻尾、羽に角に長い耳と、多種多様な種族の人の行き来に呆気にとられた。
大きな駅を彷彿させる人の流れを、ぽかんと見送る様を小さく笑い、「はぐれないでくださいね」あさひなさんが先陣を切る。
比較的流れのわかりやすい端を歩く彼を追い、白い髪を見失わないよう懸命に脚を動かした。
見回した周囲は賑やかに見慣れないものを売っており、威勢の良い店員の声にあちらこちらへ目移りした。
途中香ったおいしそうなにおいが、昼時を思い出して空腹感を抱く。
勿論ゲームを始める前にきちんと昼ごはんは食べたし、ここは仮想空間だというのに不思議だ。
腕を引かれ、はたと正面へ向き直る。
苦笑しているあさひなさんが、俺と手を繋いだ。
自分の手の先にある黒いグローブに、やっべ、美人なお兄さんと手繋いじゃった。迷子の幼児ちゃんかよ……。気恥ずかしさを抱く。
「すみません……」
「この時間帯は特に混みますから。もう少しすると、もっと歩きやすくなりますよ」
柔らかな微笑みで顔を覗き込まれ、俺が女の子だったら確実に恋に落ちてたと感慨を抱く。
あさひなさんのファンクラブがあったら入るわ。罪深いな、この人。
「ここの商店で売買されているものは、生産系の方々が作ったものなんです」
「フリマみたいなものですか? はー、楽しそう」
「そんな感じですね」
小さく笑ったあさひなさんが一本の路地へ入り、煤けた階段を上る。
何処へ行くのだろうと、疑問を持つ俺の手を離した彼が、一枚の扉の前に立った。
「ここがわたしの所属しているギルドです。お茶でもお淹れしますね」
「えええっ、悪いですよ……!」
あさひなさんの親切に乗りすぎじゃないか! の思いと、勧誘とか詐欺とかマルチ商法とかだったらどうしよう! との思いが複雑に絡み合う。
慌てる俺を置いて、呆気なく扉が開かれた。
建物の外観から想像していた以上に、内装は白く整っていた。
木目の床が一面に広がり、木製の大きなテーブルと、白いソファが二台置かれている。
壁にかかった額縁は観葉植物なのか、緑がはみ出していた。世の中にはこのようなインテリアグッズがあるのかとしみじみ思う。
棚に並んだ植物の詰まった瓶とか、昨今の女子に人気のあれだろ。薄らぼんやりと知識はあるぞ。
「マスター、また模様替えしたんですか?」
「おう、あさひな。おかえり」
部屋の奥から聞こえたバリトンボイスが、アリスブルーに塗装された扉から現れる。
予想していた位置より遥か下の方から、金髪をツーテイルにした幼女がフリルのドレスを揺らせていた。
えっ、待って、さっきの渋い良い声、何処からしたの?
「何だ、客人か?」
「はい。なのでお茶をお出ししたいのですが、台所何処になりました?」
「あっちだ」
幼女が口を開く度、バリトンボイスが鼓膜を震わせる。
あさひなさんが華麗にスルーしている様子から、この渋い声はこの幼女から発せられているらしい。
幼女が指差した方へ、あさひなさんが姿を消した。
待ってあさひなさん、置いてかないで。
えええええ、現実が俺の価値観を全力で殴ってくるんですけど……!!
狼狽える俺を見上げた幼女が、可憐な見た目に似合わない男前な笑みを見せた。
「坊主、そこに座んな」
「は、はい……」
「驚かせたようで悪いな。俺は『骨抜きチキン』だ。ここでギルマスやってる。好きに呼べ」
「情報量多いですね!!」
ははは。快活に笑った幼女が、中年のおじさんがよくやる座り方でソファに身を沈める。
缶珈琲とか缶ビールとか似合いそう。見た目幼女だけど!
「そんな場所に長々と縛りつけてしまい、申し訳ございませんでした……!!」
「構いません。わたしも始めはあんな感じでしたし」
緩やかな足取りで隣を歩くあさひなさんが、ふんわり、笑みを浮かべる。
風に吹かれる美人の眩しさに、思わず目許に腕を翳した。
これで親切心に溢れているのだから、人の世も捨てたものじゃないと思う。
時計台は石造りで、正面の文字盤のみがアナログ表示。四方をデジタル文字が照らしている。
文字盤には大小二重に輪がかけられており、正直天文学とかさっぱりな俺には「お洒落でかっこいい時計台」との見解にしか至らなかった。
「ここが『広告塔』ですね。運営からのお知らせや、簡単なニュース、または募集などが表示されています」
あさひなさんが手のひらで示した、人垣で囲われた電光掲示板。
大きな支柱を中心に、幾重もの青い画面が巡っている景色は壮観だ。
ひとつひとつ、画面の中に白光の文字が流れている。
「支柱の傍にいる金髪の人が、NPCです。困ったことがあれば相談するといいですよ」
「はー」
百貨店なんかにいそうな出で立ちのお姉さんが、淡い微笑みをたたえながらプレイヤーの応対をしている。
あの制服の人は、どの街にも必ずひとりは常駐しているそうだ。
話の内容によっては運営まで報告が入るらしい。
なるほど。操作手順とかでお姉さんには当分お世話になると思う。
「向こうに見えるガラス張りの建物が、運営の窓口です。この街のものは支店で、本部は第5都市にあります」
「へー」
「不具合や問題があった際は、運営に連絡してください」
「わかりました」
建物の隙間から窺えた硝子の四角い事務所に、頷きあさひなさんへ顔を向ける。
俺の歩幅に合わせてくれる彼が、対向から来た人を避け、大通りを指し示した。
「ようこそ、第1都市ユークレースへ」
「今のところもう一度いいですか? スクショ撮りますんで」
「えーっと、……恥ずかしいのと、道の真ん中は止めておきましょうか」
やんわりとした微苦笑でかわされ、往来の端へと誘導される。
何処からともなく流れる音楽は軽快で、賑わう街路は商店露店、走る子どもに大荷物を抱える人など、大変に混雑していた。
これまでの人生で海外旅行もしたことのない俺にとって、西洋美人さんや欧米かっこいいさんと擦れ違うことなんて、滅多にない。
更にはもふもふの耳や尻尾、羽に角に長い耳と、多種多様な種族の人の行き来に呆気にとられた。
大きな駅を彷彿させる人の流れを、ぽかんと見送る様を小さく笑い、「はぐれないでくださいね」あさひなさんが先陣を切る。
比較的流れのわかりやすい端を歩く彼を追い、白い髪を見失わないよう懸命に脚を動かした。
見回した周囲は賑やかに見慣れないものを売っており、威勢の良い店員の声にあちらこちらへ目移りした。
途中香ったおいしそうなにおいが、昼時を思い出して空腹感を抱く。
勿論ゲームを始める前にきちんと昼ごはんは食べたし、ここは仮想空間だというのに不思議だ。
腕を引かれ、はたと正面へ向き直る。
苦笑しているあさひなさんが、俺と手を繋いだ。
自分の手の先にある黒いグローブに、やっべ、美人なお兄さんと手繋いじゃった。迷子の幼児ちゃんかよ……。気恥ずかしさを抱く。
「すみません……」
「この時間帯は特に混みますから。もう少しすると、もっと歩きやすくなりますよ」
柔らかな微笑みで顔を覗き込まれ、俺が女の子だったら確実に恋に落ちてたと感慨を抱く。
あさひなさんのファンクラブがあったら入るわ。罪深いな、この人。
「ここの商店で売買されているものは、生産系の方々が作ったものなんです」
「フリマみたいなものですか? はー、楽しそう」
「そんな感じですね」
小さく笑ったあさひなさんが一本の路地へ入り、煤けた階段を上る。
何処へ行くのだろうと、疑問を持つ俺の手を離した彼が、一枚の扉の前に立った。
「ここがわたしの所属しているギルドです。お茶でもお淹れしますね」
「えええっ、悪いですよ……!」
あさひなさんの親切に乗りすぎじゃないか! の思いと、勧誘とか詐欺とかマルチ商法とかだったらどうしよう! との思いが複雑に絡み合う。
慌てる俺を置いて、呆気なく扉が開かれた。
建物の外観から想像していた以上に、内装は白く整っていた。
木目の床が一面に広がり、木製の大きなテーブルと、白いソファが二台置かれている。
壁にかかった額縁は観葉植物なのか、緑がはみ出していた。世の中にはこのようなインテリアグッズがあるのかとしみじみ思う。
棚に並んだ植物の詰まった瓶とか、昨今の女子に人気のあれだろ。薄らぼんやりと知識はあるぞ。
「マスター、また模様替えしたんですか?」
「おう、あさひな。おかえり」
部屋の奥から聞こえたバリトンボイスが、アリスブルーに塗装された扉から現れる。
予想していた位置より遥か下の方から、金髪をツーテイルにした幼女がフリルのドレスを揺らせていた。
えっ、待って、さっきの渋い良い声、何処からしたの?
「何だ、客人か?」
「はい。なのでお茶をお出ししたいのですが、台所何処になりました?」
「あっちだ」
幼女が口を開く度、バリトンボイスが鼓膜を震わせる。
あさひなさんが華麗にスルーしている様子から、この渋い声はこの幼女から発せられているらしい。
幼女が指差した方へ、あさひなさんが姿を消した。
待ってあさひなさん、置いてかないで。
えええええ、現実が俺の価値観を全力で殴ってくるんですけど……!!
狼狽える俺を見上げた幼女が、可憐な見た目に似合わない男前な笑みを見せた。
「坊主、そこに座んな」
「は、はい……」
「驚かせたようで悪いな。俺は『骨抜きチキン』だ。ここでギルマスやってる。好きに呼べ」
「情報量多いですね!!」
ははは。快活に笑った幼女が、中年のおじさんがよくやる座り方でソファに身を沈める。
缶珈琲とか缶ビールとか似合いそう。見た目幼女だけど!
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
VRMMOで神様の使徒、始めました。
一 八重
SF
真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。
「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」
これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。
「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」
「彼、クリアしちゃったんですよね……」
あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
VRMMOを引退してソロゲーでスローライフ ~仲良くなった別ゲーのNPCが押しかけてくる~
オクトパスボールマン
SF
とある社会人の男性、児玉 光太郎。
彼は「Fantasy World Online」というVRMMOのゲームを他のプレイヤーの様々な嫌がらせをきっかけに引退。
新しくオフラインのゲーム「のんびり牧場ファンタジー」をはじめる。
「のんびり牧場ファンタジー」のコンセプトは、魔法やモンスターがいるがファンタジー世界で
スローライフをおくる。魔王や勇者、戦争など物騒なことは無縁な世界で自由気ままに生活しよう!
「次こそはのんびり自由にゲームをするぞ!」
そうしてゲームを始めた主人公は畑作業、釣り、もふもふとの交流など自由気ままに好きなことをして過ごす。
一方、とあるVRMMOでは様々な事件が発生するようになっていた。
主人公と関わりのあったNPCの暗躍によって。
※ゲームの世界よりスローライフが主軸となっています。
※是非感想いただけると幸いです。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ツインクラス・オンライン
秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる