その迸る剣で貫いて

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ナイト・ナイト

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 着いたのはファラディス郊外。辺りはモンスターの襲撃により騒然としていた。
「剣士様、射手様……!」
 先に鎧を纏って剣を握っていた若き戦士が、彼らの登場を待ち望んでいたかのように名前を呼ぶ。
「状況を教えな」
 ドラゴミールが建物の柱に隠れて短弓を構え、戦士に尋ねる。彼は少なくとも5体のモンスターを見たと答えた。
「随分豪華に来たじゃねえか」
 『燐光』する矢を一本矢筒から引き抜くと、男は狩人の目で敵を探した。
「食事後の運動といこうか。今夜は眠れない夜になりそうだ。」
 セルギウスも鎧こそ纏っていなかったが、長剣を構え辺りを伺う。
「……2時の方角、3体。」
 ドラゴミールが呟く。若い戦士が気づかなかった気配を彼は察していたのだ。はっ、と戦士が気づくより前に、セルギウスは駆けていた。
「あ、剣士様!」
「お前はあいつのケツを追うなよ、別方向からもう一体来ている!」
 戦士はドラゴミールの言葉の通り、異なった場所にモンスターがいることに気づいた。剣を構え直すが、かかってこいという声には威勢がなかった。
「……お前、そんな声じゃネズミも倒せねえぞ」
 若造が攻撃する前に彼は矢を放っていた。戦士達を避けて突進する獣の頭と脚に命中させる。そして、
「Bang!」
 挑発するような掛け声と共に、光る矢が『爆発』した。驚く若造の戦士。モンスターの頭と腕が無残に飛び散った。石畳に、赤黒い血が滴る。
「おい、ぼけっとするな」
 放心する戦士の頭を小突き、ドラゴミールは次の獲物を探し始めた。

 一方、セルギウスはいくら鎧がないとはいえ、長剣を持っている男とは思えないほどの速さで敵目掛けて走っていた。助走をつけて飛び上がると、必要最低限の動きで空中にいた一体目のモンスターを薙ぎ払う。けたましい鳴き声を聞く暇もなく、二体目に移ろうとした時だ。他の場所にいた化物が、仲間を呼んでいたらしかった。
「剣士様が危ない!」
 近くにいた別の戦士が思わず声を出す。そこには、いつの間にか数体の敵に囲まれたセルギウスがいたのだ。だが彼の顔に焦りは見られない。今にも襲おうとするモンスターの威嚇にも応じず、彼は目を閉じる。剣が青白く光る。
「……なるほど、彼は魔法を使えるのか!」
 自身の周りの敵を仕留めた後、戦士はその様子を見守った。セルギウスの長い青髪がふわりと舞い、光る剣へと水が溢れていく。水が光を反射し輝く美しい光景であった。
「ケツ穴おっ広げて待ってな! 今からこの我のデカい剣で貫いてやる!」
 ――その呪文さえ聞かなければ。下品な言葉の羅列にしか見えないが、これが彼の詠唱なのである。彼が目を開くと、取り囲んでいたモンスターたちは各々の下部から勢いよく突き上げる水の柱に吹き飛ばされていた。
「凄い……」
「眺めてばかりではいけませんよ、戦士殿」
 普通の口調に戻ったセルギウスに混乱しつつも、その戦士は彼と共に残る敵を探し始めた。

「片付いたか?」
 気づけば戦闘が終わっていた。モンスターの死骸を蹴飛ばしながら、ドラゴミールは敵の気配を感じなくなった街を見渡す。
「ええ、貴方方の奮闘のおかげで我々の勝利となりました」
 二人を褒め称える街の戦士たち。だがセルギウスの表情は晴れない。
「喜ぶのはまだ早い。私達がいなくなってから襲撃がおきたらどうする」
「それは、」
 若い戦士が俯く。自分が全く力になれなかったことを悔いていたのだ。
「我々は、王都に緊急事態の通達をいたしました。王都からの軍が到着するまで、貴方方に此処を守っていただければ幸いです」
「……そうか」
 それを気にしたのか、熟練の戦士がフォローするように今後の予定を説明した。
「じゃ、しばらく用になるぜ。」
 ドラゴミールは彼らの心境など興味もなく、弓を抱えて宿へと足を進めた。
「それはこちらの台詞、よろしく頼みます、お二方」
 空を見ると、闇が以前より深くなっていた。それは夜が深まったからなのか、それとも。
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