蛸も杓子も

文字の大きさ
上 下
5 / 6

初めての話 - 1

しおりを挟む
「さて」
 ダーヴィドから開放され、射精せずに達したヨナタンは倒れるようにベッドにうつ伏せに横たわった。相手はそんな彼を見下ろしてからベッドに座ると、腰から尻を撫で、自身を柔く握りながら意地悪に質問する。
「まだこっちがあるんじゃないのか?」
「あっ……! やだぁっ……!さわらないで……ぇ」
 まだ出せていないためか子供のように嫌がるヨナタンに、分かった、と承諾するとあっさりと手を離した。
「え……?」
 その不可解な行動に困惑する相手。
「もう少しこちらとしても話をしたいからな」
「ダーヴィド、さん?」
 板についてきた敬称に、ダーヴィドが微笑む。近くにあった黒い煙草を取り出すと、彼はライターで火を着けて吸い始めた。
「ヨナ、これからどうしたい?」
「どうしたい、って」
 彼は右手の親指と人差し指を立ててジェスチャーをした。白い煙は、独特の甘い匂いがする。
「俺側の選択肢は2つある。君を愛人の一人にする為に睦言を囁くか、君を部下にさせる為にマフィアを動かすか。……それ以外は無いと考えてくれ」
 部下、そんな関係じゃあ足りない。愛人という言葉が快楽に溺れた今のヨナタンにはあまりにも魅力的に響いた。ダーヴィドは灰皿に煙草を置き、今度は左手で2を指すジェスチャーをした。
「そして君の選択肢も2つ。俺を振り切って自由になるか。俺に縛られるか。」
 そんなの、自由に決まっている。ヨナタンは思った。だが自由の向こう側を保証できる身体ではないことも嫌なほど分かっていた。自分には結局、この男が必要なのだと。しかしながら、もう一方を取りたいか。彼の部下になることは、理不尽な世界に束縛されることを意味する。
「……どうすればいいか、何が正しいのか、オレには分からない、けど、」
 ヨナタンは苦しんでいた。――しかしそれは選択肢を迫られていたからではなく、
「今は、何もかも忘れて気持ちよくなりたい、です」
 開花した自分の淫靡な本性に酔っていたからだ。くすんだ空気の中で、ヒトとは違う、横に平たい瞳孔が大きくなり、ブルー・グリーンの瞳が潤む。
「ったく、番狂わせだな君は」
「でも、予想はしていた、でしょう?こんなにも……オレを陥落させてから、難しい話を持ち込むんですから」
 相手の言い回しに白旗を掲げたダーヴィドはやれやれとリアクションを取った。そして上着を脱ぎヨナタンの上に跨るように膝をつくと、ネクタイを緩める。
「今まで口説いてきたどの子よりも惚れそうだ」
 その様子を振り向き伺いながら、熱に浮かされた様に笑うヨナタン。
「お世辞ですか?」
「俺もそのつもりだったんだけどね」
「なら、オレの勝ちですね」
 "せめて自分勝手な男に一泡吹かせたい"という彼の野望が、あっさり叶ってしまったからだ。
「……嗚呼、甘く見ていたよ。」
 ワイシャツの釦を外していく相手の胸元から青いタトゥーが覗いている。彼は嗤う。
「オレもですよ、ダーヴィドさん」
彼の奥底に、質の悪い執着心が芽生えていたことに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

孤狼のSubは王に愛され跪く

ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない Dom/Subユニバース設定のお話です。 氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...