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調教の話 - 1
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その日の夜、パリは妙に寒かった。いくら季節が春でここよりも北方に生まれたヨナタンとはいえ、腕のせいで腕を捲くらざるを得ない状況は痛手であった。これでは冷凍シーフードになってしまうと、ヨナタンは舌打ちしながらメモに書かれた住所を携帯端末で入力し、そのナビゲーションに従って街を歩いた。
「……ここか」
古い4階建てのアパートを見上げるヨナタン。それ自体は景観を壊さない美しい装飾のなされた白い建物であったが、駐車場を囲むコンクリート製の壁には汚い落書きがしてあった。凝った飾りのついた鉄製の黒い手すりを掴んで階段を登り、4階の部屋へと向かった。彼はドアに設置された、獅子の口の先についたノッカーを鳴らした。がちゃ、とオフホワイトのドアがゆっくりと開く。
「……君か。自分から来てくれるとは、素質があるな」
「何の素質だ」
ダーヴィドは答えさえしなかったが、笑顔で部屋に招き入れたので、ヨナタンも奥へと足を進めた。
男性の部屋としてはありがちな、シンプルで片付いた部屋であった。白い壁に色あせたフローリングが敷かれ、細く黒い脚のテーブル、それとお揃いのスツール。奥にはネイビーのソファベッドが置かれていた。キッチンはあまり使った形跡がない。他にもいくつか家具があったが、玄関にいたヨナタンの目に真っ先に入ったのは、テーブルの上に置かれた拳銃であった。
「やっぱり……裏社会の人間なんだな、てめぇは」
ん、と声を上げヨナタンの方を振り向くダーヴィド。
「嗚呼、これか。でもマフィアの部屋にしては片付いてる方だと思うよ?」
テーブルに軽く手をついた彼はそのまま妖艶な動作で銃に触れ……握る。
「それと。」
そして、銃口をヨナタンの眉間に向けた。口だけが笑っている。
「俺をそんな風に呼ばないでもらえるかな」
「歯向かったら殺すのか?怖えな、さすがマフィア」
怯えつつもあくまで反抗するヨナタンに、ダーヴィドはため息をついて拳銃を再び下ろした。
「ったく、君は命知らずだ。俺としてはただ言葉遣いを直して欲しかっただけなんだけどなぁ」
先程の色気づいた行動とは変わって間延びした声で、油断していたヨナタンの腰に触れた。
「この、変態野郎」
「"ダーヴィドさん"と呼んでくれたまえ、ヨナ?」
ケッと悪態づいた相手の耳元で、出会った時のように囁く。ヨナタンは睨みつけたが、どうもおかしな気持ちになっていたようだ。面白くなってきたのか笑い出す彼。思わずダーヴィドが尋ねる。
「ヨナ、どうしたんだい」
「……てめぇ、"俺が欲しい"って言ってたよな?逆じゃねえのか?」
彼は無謀にも、"相手を利用してやろう"という気分になっていたのだ。マフィアが相手だろうが、銃を持っていようが、自分のことが好きならば弱みにつけ込めるはずだ。逃げられないのなら、せめてがむしゃらに抗おう、こいつの悔しがる顔を見てからくたばろうと彼は考えた。それがいけなかった。
「どういうことだい?」
「すっとぼけるなよ、本当はオレが欲しくて仕方ないんだろう?だからオレに住所の書かれた手紙を渡したし、さっきも殺せなかった。」
彼はきょとんとする相手を見て調子づいた。
「もしオレが欲しいなら――」
豪語しようとした瞬間、何かが刺さる感触に襲われたヨナタン。またか。それが何なのか彼は嫌なほど分かっていた。卑怯だと思いつつも、まだ自分が上位に立っていると錯覚していた。
「てめぇっ、」
「ダーヴィドさん、だ。何度言ったら分かるのかね」
相手が触れていた腰に突き刺さった光る触手。感じるのは痛みだけではない。乗っ取られるような不気味さも相変わらずだ。
「……ふ、敏感な所に近いから、割と効くな」
しかしながら、前とは妙に感覚が違うことにも気づいた。
「あ……っ、まて、何、した……!」
「お楽しみはまだ早い、ヨナ。それに質問の答えがまだだ。」
ダーヴィドと目線が合う。青とシアンの美しいオッドアイを視界からずらすように目を背けたが、それでも顔が紅く染まってしまう。
「……君を得るために俺はなにをすればいい?」
ヨナタンの下腹部が熱くなり、甘い疼きを敏感に感じ取っていた。あ、と上ずった声を出してしまい尚更恥ずかしくなる。こんな男相手に、盛っている自分が嫌で仕方ない。しかし。
「答えろ」
注がれた毒と、厭らしくも脅すようなダーヴィドの低い声が、彼を支配していた。
「……ここか」
古い4階建てのアパートを見上げるヨナタン。それ自体は景観を壊さない美しい装飾のなされた白い建物であったが、駐車場を囲むコンクリート製の壁には汚い落書きがしてあった。凝った飾りのついた鉄製の黒い手すりを掴んで階段を登り、4階の部屋へと向かった。彼はドアに設置された、獅子の口の先についたノッカーを鳴らした。がちゃ、とオフホワイトのドアがゆっくりと開く。
「……君か。自分から来てくれるとは、素質があるな」
「何の素質だ」
ダーヴィドは答えさえしなかったが、笑顔で部屋に招き入れたので、ヨナタンも奥へと足を進めた。
男性の部屋としてはありがちな、シンプルで片付いた部屋であった。白い壁に色あせたフローリングが敷かれ、細く黒い脚のテーブル、それとお揃いのスツール。奥にはネイビーのソファベッドが置かれていた。キッチンはあまり使った形跡がない。他にもいくつか家具があったが、玄関にいたヨナタンの目に真っ先に入ったのは、テーブルの上に置かれた拳銃であった。
「やっぱり……裏社会の人間なんだな、てめぇは」
ん、と声を上げヨナタンの方を振り向くダーヴィド。
「嗚呼、これか。でもマフィアの部屋にしては片付いてる方だと思うよ?」
テーブルに軽く手をついた彼はそのまま妖艶な動作で銃に触れ……握る。
「それと。」
そして、銃口をヨナタンの眉間に向けた。口だけが笑っている。
「俺をそんな風に呼ばないでもらえるかな」
「歯向かったら殺すのか?怖えな、さすがマフィア」
怯えつつもあくまで反抗するヨナタンに、ダーヴィドはため息をついて拳銃を再び下ろした。
「ったく、君は命知らずだ。俺としてはただ言葉遣いを直して欲しかっただけなんだけどなぁ」
先程の色気づいた行動とは変わって間延びした声で、油断していたヨナタンの腰に触れた。
「この、変態野郎」
「"ダーヴィドさん"と呼んでくれたまえ、ヨナ?」
ケッと悪態づいた相手の耳元で、出会った時のように囁く。ヨナタンは睨みつけたが、どうもおかしな気持ちになっていたようだ。面白くなってきたのか笑い出す彼。思わずダーヴィドが尋ねる。
「ヨナ、どうしたんだい」
「……てめぇ、"俺が欲しい"って言ってたよな?逆じゃねえのか?」
彼は無謀にも、"相手を利用してやろう"という気分になっていたのだ。マフィアが相手だろうが、銃を持っていようが、自分のことが好きならば弱みにつけ込めるはずだ。逃げられないのなら、せめてがむしゃらに抗おう、こいつの悔しがる顔を見てからくたばろうと彼は考えた。それがいけなかった。
「どういうことだい?」
「すっとぼけるなよ、本当はオレが欲しくて仕方ないんだろう?だからオレに住所の書かれた手紙を渡したし、さっきも殺せなかった。」
彼はきょとんとする相手を見て調子づいた。
「もしオレが欲しいなら――」
豪語しようとした瞬間、何かが刺さる感触に襲われたヨナタン。またか。それが何なのか彼は嫌なほど分かっていた。卑怯だと思いつつも、まだ自分が上位に立っていると錯覚していた。
「てめぇっ、」
「ダーヴィドさん、だ。何度言ったら分かるのかね」
相手が触れていた腰に突き刺さった光る触手。感じるのは痛みだけではない。乗っ取られるような不気味さも相変わらずだ。
「……ふ、敏感な所に近いから、割と効くな」
しかしながら、前とは妙に感覚が違うことにも気づいた。
「あ……っ、まて、何、した……!」
「お楽しみはまだ早い、ヨナ。それに質問の答えがまだだ。」
ダーヴィドと目線が合う。青とシアンの美しいオッドアイを視界からずらすように目を背けたが、それでも顔が紅く染まってしまう。
「……君を得るために俺はなにをすればいい?」
ヨナタンの下腹部が熱くなり、甘い疼きを敏感に感じ取っていた。あ、と上ずった声を出してしまい尚更恥ずかしくなる。こんな男相手に、盛っている自分が嫌で仕方ない。しかし。
「答えろ」
注がれた毒と、厭らしくも脅すようなダーヴィドの低い声が、彼を支配していた。
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