アオハル・リープ

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四季ミカ

retry28:そばにいるよ

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 ミカは家に着いて部屋に入るとすぐにベッドにダイブした。もう思考回路はショート寸前で、どうしたらいいのかわからない。
 吉田も丸井もリイも、誰一人勝手に心を、後悔を見たことを非難することはなかった。寧ろ、大丈夫とミカの存在を認めてくれるような言葉をかけてきた。

 ーーどうして、そんなに……。

 ミカは戸惑う。幼い頃に両親に告げた時でさえ、気味悪がられた能力だ。こんな異常で異様な存在を知って、平然といられるわけがないのに。

 不意にピロンっとスマホに通知が入る。メッセージを知らせるそれを確認すると、それは望杏からだった。

【今、家?】

 短い文のそれは、どんな意図が含まれているのか想像がつかない。今までずっと無視してきたメッセージ。望杏からだって、何回も送られてきた。
 本当ならずっと関わらないでいる気だったのに、今日は吉田から始まり丸井やリイにも接触してしまったことをミカは悔やむ。居心地のよい存在を消し去りたいのに、躊躇ってしまうから。
 だから、この望杏の連絡にだって答えてはならない。それなのに……ミカは少し悩んだ末に、久々に返信をしてしまう。

【うん】

 すぐに既読がついたかと思うと今度は着信が入った。ミカは出るべきかまた悩み、鳴り止まないその音に根負けして、電話に出る。


『……はい』

『ーーミカちゃん?』

『うん』

『家の前にいるから、出てきて』

 それだけ告げて切れる電話。ミカは数秒の後にハッとして困惑する。まさか、本当に?とそんな思いで玄関を開けると、そこには宣言通り望杏がいた。
 
「あ、ちゃんときてくれた」

「の、あん……」

「なーに?そんなお化け見たみたいな反応して。びっくりした?」

 普通のテンションで話す望杏にミカの困惑は増す。何故わざわざ家にまできたのか。望杏は正直だ。彼の言動は建前などはない。だからこそ、不安になる。いったい、何を言われるのかと。

「何の用だ?」

 ミカは何とかそう返すが、望杏は相変わらず無表情のまま。これが彼の通常と知っていても、今のミカには堪えるものがある。しかし、望杏は至ってシンプルな返しをしてきた。

「ミカちゃんが避けるから、オレの方から来た」

「なんで……」

 ミカは呟いてハッとする。そうだ、これが望杏という人間だ。感情がわからなくて、でもずっと人との関わりを求めていて、自分からは絶対に断ち切らない。そう……理解していたはずなのにっ……。

 望杏のその行動がミカは不覚にも嬉しくなる。自分から関わらないでいたくせに、逃げていたくせに、何をいまさら……と。都合の良すぎる思考にミカは辟易した。

「だって……私は君を裏切ったんだぞ!それなのにっ」

 ミカは感情的になって叫ぶように告げる。しかし望杏はそれを静かに聞いていたかと思うと、小さく笑った。

「うん、そうだね」

 その肯定にミカの胸がズキンっと痛む。ああ、こんなにも辛いのは……自分にとって望杏が、みんながっ、大切な存在だったから……と。

「ミカちゃんはさ、オレたちのこと友達と思ってた?」

「そんなのっ……当たり前だ」

「そうだよね。だから、あんなにオレ達のために必死になってくれたんでしょ?オレ達が後悔に押し潰されないように」

 望杏は淡々と喋る。しかしそれは彼なりにミカの行動や思いをゆっくりと確認する行為で。ミカはその無機質な声色に密かに含まれた優しさを感じずにはいられなかった。

「ミカちゃんは、怖いの?本当のことを知ったらオレ達が離れると思った?」

「っ……当然だろ?だって、心を勝手に見るとか、最低最悪の裏切りだろ?何が友達だ……仕組まれたって罵られても仕方ないことを、私はした」

 ミカは自嘲するように吐き捨てる。自責の念がミカを追い詰める。この忌々しい能力で、保ってきた平穏が崩されていく。けれど、この力がなければ……望杏達との関係はなかった。

「……もう、いいんだ。本当に悪かった」

 ミカは頭を下げる。自分が裏切りをしたと肯定した望杏へ、ただ……それしか言えなかった。

「裏切ったと思ったのは、勝手に逃げたことに対してだよ?」

 
「ーーへ?」

 ミカは驚いて顔を上げる。望杏は首を傾げてキョトンとしていた。

「心を見た事とか、後悔を知って動いた事とか、他のも全部なんとも思ってない……っていうのは違うのかな?んー、なんだろ。うまく言えないけど、でも……ミカちゃんらしいなって思ったよ」

「わたし、らしい?」

「そう。優しくて、あったかい。そんなミカちゃんらしいよ」

 望杏は頷く。ミカは思考が追いつかない。どう考えても悪いのは自分なのに……気味の悪い、こんな力の人間を知って、簡単に受け入れるはずがないのに。それを“らしい”という曖昧な事だけで済ます彼にミカは動揺した。

 それを察したのかは望杏なのでわからないが、彼は目の前のミカの顔を見て、ただ真っ直ぐに想いを告げる。

「ミカちゃんが自分のその秘密の力の事で悩んでて、みんなが離れていっちゃうのが怖いと思ってるなら、大丈夫だよ」

「なん、で……?」

「ーーオレが、そばにいるよ」

 ミカは望杏を見た。彼はいつものように無表情だ。それなのに、どうしてそんな言葉がでてくるのか。その胸に抱えた想いが知りたくて、ミカは無意識に手を伸ばした。その手を望杏に取られると優しく握られる。

「やっと、捕まえた」

 そこにあったのは、少し不恰好な笑顔。

「もう、どこへも1人で行かさないよ」

「……っ」

 その真摯な言葉にミカは頷けない。望杏に言われことさえも信じたいのに、怖くて……でもそんな時、急に誰かの足音が聞こえてきたかと思うと、ミカはぎゅっと抱きしめられた。

「私も!絶対にミカさんを離しませんっ!」

 それはリイだった。いつからいた?とかそんな疑問よりも、彼女の強い抱擁がミカの心を満たす。その感覚に酔いしれていると、視界に丸井と吉田の姿が入った。

「秋斗、冬吾……なんで、2人とも……」

 ミカがそう呟くと、丸井は面倒くさそうにしつつも眉を下げて口元に弧を描き、吉田はいつもの飄々とした笑みを浮かべる。

「まぁ、諦めろ。もう逃げらんねぇよ」

 そう言い、丸井がミカの頭をポンポンと優しく撫でる。それに続いて吉田が望杏が取ってない方のミカの手を取り、小指同士をそっと絡めた。

「約束やで?僕らの繋がり、断ち切ったらあかん」

 4人の行動に言葉にミカは限界だった。かつて自分が、彼らの後悔を目にして救おうとして触れた形が……今こうして、ミカ自身に返ってくる。その暖かさに縋りそうになる。

 ミカは目の前の望杏と目が合う。彼は、ふっと小さく笑って、当然だというように、こう告げた。


「ほらね?みんな、ミカちゃんのこと大好きなんだよ」

「ーーっ」

 ああ、もうダメだなとミカは思う。この人たちの前では自分は無力だ。どんなに自分を卑下しても、彼らはそんな自分を認めてくれる。ありのままの姿を受け入れてくれる。それがとても嬉しくて……でも同時に切なくて。

「……ありがとう」

 小さく呟くように告げた。ミカがみんなにしたように、今度は望杏たちが諦めなかったから……今こうしてミカは、大切な存在を手放さずにいれる。

「私も……みんなが、大好きだっ」

 泣きながら紡がれる言葉に、まずリイが一緒に泣いた。丸井は少し目を潤ませて、吉田は口をきゅっと結んでそれぞれ堪えていた。望杏はただ1人、ミカやみんなを見て愛おしそうに微笑む。ミカは幸せだった。心の底から、この瞬間を……永遠に忘れないと誓ったのだった。

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