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英雄への産声

第26話 ??会議

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 これは、とある城での話。

 やけに空気が淀んだ場所にあるその城は、まるで黒い靄を纏っている様にすら見える。
 空は分厚い雲に覆われていて、雨が降っていないのに、雲には稲光が走っている。

 そんな城の一室。
 中央に置かれた円卓には10本の蝋燭が等間隔に立てられていて、それぞれの前には人間とは明らかに違った外見をした者達が座っていた。

 上座に座っているのは羊の様な角が生えた黒髪の男。僅かに輝くルビーの瞳で均整の取れた美しい顔立ちをしているが、口が耳の辺りまで裂けていて不気味な印象が強い。
 下座に座るのは小柄な女。白髪で浅黒い肌。左側だけ渦を巻いた角が生えているが、10人の中では最も人に近い見た目をしている。
 しかし、真っ黒な眼球と黄色い瞳を見れば、やはり明らかな人間とは思えない。

 他は年老いた驢馬の様な者や牛の様な見た目の者、灰色の肌の鬼など、見た目はそれぞれ様々だ。

 彼ら彼女らは所謂魔族と呼ばれる存在。
 過去の歴史的に見ても人類とは常に敵対関係にあり、歴史上でも度々争いを巻き起こす存在である。

 10人の魔族が座る円卓では食事が行われていた。
 並べられた料理は魔物の眼球や血の滴る生肉などグロテスクな見た目の物ばかりだ。
 そんな料理にマナーなど知らぬと齧り付く者、不快そうな顔を浮かべて手を付けない者と様々な反応を見せながら、十数分後に全員の食事が終わると上座の隣に座る驢馬の様な者が口を開いた。

「食事も終わった所で、これより会議を始めます。早速ですが、例の件に関する進捗から報告をお願いします。ジャグズさんから」

「かしこまりました。現在、ヴォルカ大魔林に近い人の生息域で魔覚石を使った魔物の強化実験を行っております。今の所は人間どもに大きな打撃を与える事は出来ていませんが、強化の精度は上がってきております。しかし実戦投入出来る段階まではまだ掛かりますね」

 ヴォルカ大魔林とは人類が住まう最北の国、アルガンシア王国に隣接した森である。
 人類にはヴォルカ大森林と呼ばれているこの森は、多くの魔物が生息する広大な森として知られている。
 ヴォルカ大森林の向こう側には魔族の住まう地があり、今会議が行われているのは魔族の王が住まう城。
 つまりは上座に座っている黒づくめの異形が魔王である、

 ジャグズと呼ばれた魔族の発言を受けて魔王が満足気に頷き、ジャグズは安堵の表情を浮かべた。

 会議は続く。

「次にファフラさん。戦力の増強はどうなっていますか?」

「ンフフ。順調も順調よ。例の魔物との交渉も大詰めですからね。近い内に全ての準備が整うでしょう」

 ファフラと呼ばれた魔族は怪しく笑いながら答えた。
 ファフラの言葉を聞いて、魔王がまた満足気に頷いた。

 魔族は何かの計画を立てているらしく、会議は続く。
 そして3時間後、会議の終わりにそれまで黙っていた魔王が口を開いた。

「42日だ。42日間で準備を整えろ。我らは憎き人類を滅ぼし魔族が世界を手中に収める計画を実行に移す。その足がかりとして、まずはバラッドラ砦を落とすぞ。長い歴史においてどんな魔王でも手に入れられなかった世界を手に入れる。我ら魔族が世界の覇者となるのだ」

「「「「「おお!」」」」」

 人類と魔族がぶつかる日は近い。
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