上 下
20 / 32
英雄への産声

第19話 妖精

しおりを挟む
 掃除屋達の…主に若い労働力達の働きで…殺戮岩兵の解体…もとい採掘は手早く行われた。
 岩塊から採取出来たのは金と宝石多数。
 宝石は多くが質の悪い物ばかりだったが、少量のダイヤモンドが混ざっていて、こちらはかなりの高値が付くだろうとクロムは話した。

 採掘が済むと小さな剣は村へと戻って一泊。
 翌朝ディアナと手を繋いで朝の散歩に出掛けたマルコに、突然の不幸が襲った。

「何あの弱っちそうな生き物!ミルナよりも弱っちいんじゃないの!?とぉ!ミルナキーック!」

「ぐふっ…」

 マルコは目に見えない何かによって腹に強い(強くはない)衝撃を受け、膝から崩れ落ちて死亡した。

 終わり。

 なんて縁起の悪い冗談はさておき、内臓を守る筋肉が無いのでマルコは割と大きなダメージを負っている。
 一体マルコに何が起こったのか。
 マルコとディアナの視界には何も映っていないのだが、唯一ロウだけには何かが見えているらしく、何度も飛び上がっては両前足で何かを叩こうとした。

「ぎゃぁぁ!どうしてミルナが見えてるのよ!って神狼!?どうして弱っちい生き物と神狼が一緒にいるのよ!止めてー!こーろーさーれーる―!」

 ロウが何度も何度も続けると、二人にもロウが追う先に何かが飛んでいるのが薄っすらと見えてきた。
 ディアナは翅が生えた人型らしきそれの翅を、虫でも捕まえるみたいに指で摘まんだ。

「あっ…。どうもー。初対面で翅を掴むのはマナー違反なので放して頂けると。ミルナ、トンボじゃないんで」

 やけに塩らしく話掛けて来たのは、金髪を左右で結んでツインテールにした可愛らしい妖精だった。
 ディアナが捕まえた事で姿がはっきりと見え、声も聞こえる様になった。
 どうやらマルコに攻撃をしたのはこいつらしい。そう考えたディアナは、マルコに問う。

「こいつ、搾って良い?」

「ぎゃぁぁ!こーろーさーれーるー!」

「あはは。可哀想だから放してあげよう?」

 マルコがそう言うならと手を放すと、妖精はくるくると飛び回ってから二人の前で止まった。
 そしてグーにした手を両腰に当てて、背中を反らせた偉そうな格好で口を開く。

「見付かってしまっては仕方がないわね!ミルナはミルナ!そこの弱っちい生き物に勝利した事で弱っちい界最強となった妖精よ!」

 弱っちい界最強とは一体何の事であろうか。
 マルコは首を傾げながら、イラっとしてミルナを搾ろうとしているディアナと、ミルナを玩具の様に追い掛け回して捕まえようとするロウを止めた。

「あんた弱っちいのに中々いい奴ね!ミルナの下僕にしてあげる!」

「やっぱり搾る」

「ぎゃぁぁ!搾らないでー!ミルナの中身全部出ちゃうからー!」

 ディアナに捕まって雑巾の如く搾られそうになりながらも、どことなく楽し気なミルナ。
 まるで友人と遊んでいる様な雰囲気で、ミルナは体を縮ませたり伸ばしたりしてディアナの手から逃れようとしている。
 全く逃げられそうなイメージは湧かないのだが。

 マルコがディアナを宥めてミルナを放してあげようとした時、ミルナの表情が曇った。

「ごめんごめん。ちょっと急用を思い出したからさ、放してくれるとありがたいんだけどなー。って言うか放して!お願いお願い!ミルナ逃げなきゃいけないんだった!」

 急に下手に出たと思ったら慌てて放して欲しいと懇願するミルナ。
 その瞬間、マルコに異変が起きた。

「入った?」

 目で見てもそこには何もいない筈だ。
 それなのに、何故か【大番狂わせジャイアントキリング】が発動して致死線だけが見える。
 マルコはディアナの佩いた刀を抜いて、致死線に沿って刀を横ぶりにした。

 何かを斬った手応えはまるでない。
 しかし、「おあぁぁぁう」と呻き声が聞こえると一瞬だけ人型の靄が見えて、地面に大粒の宝石が転がった。
 どうやら【大番狂わせ】が発動した原因は今の靄だったらしく、マルコは重たくなった刀を地面に落とした。

 そんな光景を目にして、ミルナは目をぱちくりさせて口を開いた。

「え!?嘘うそウソUSO!?倒したの!?倒しちゃったの!?」

 やけに興奮気味のミルナに戸惑うマルコ。
 倒したは倒したのだろうが、【大番狂わせ】を発動させて、こんなにも手応えが無かった経験は皆無だ。
 マルコが状況を整理出来なくて首を傾げている間にもミルナの口は止まらない。

「わーっはっは!ざまぁみろ!弱っちい界最強のミルナ様を追い掛け回した罰よ!」

 まるで自分が倒したかの様に威張るミルナ。
 ミルナは一頻り例の靄を煽り倒すと、今度はマルコに視線を向けた。

「あんたミルナより弱っちいのに強いのね!決めた!ミルナはあんたについて行く!だってミルナよりも弱っちいのに強いあんたの傍が一番安全そうだから!」

 ついていくとかどうとかの話は別にして、マルコに対して弱っちいと連呼するミルナにイライラを募らせたディアナは、とうとう怒りの沸点が限界に達した。

「マルコ、やっぱりこいつは搾るね」

「止めて!止めて!こーろーさーれーるー!」

 マルコの仲裁でどうにかミルナは一命を取り留めたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

100倍スキルでスローライフは無理でした

ふれっく
ファンタジー
ある日、SNSで話題に上がっていた [ Liberty hope online ] 通称リバホプと呼ばれているMMORPGのオンラインゲームが正式にサービスを開始した。 そのプレイヤーの一人である月島裕斗は、誰も倒す事が出来なかった期間限定のボスモンスターに挑み続け、長期にわたる激戦の末に勝利する。しかしその直後、過度な疲労によって深い眠りへと落ちてしまった。 次に目を覚ますと、そこは見知らぬ世界。さらにはゲームで使っていたアバターの身体になっていたり、桁違いなステータスやらおかしなスキルまで……。 これは、 美少女として異世界に転生した彼(?)のほのぼのとした日常……ではなく、規格外な力によって様々な出来事に巻き込まれる物語である。 ※表紙イラストはテナ様より。使用、転載の許可は事前に得ています。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...