10 / 32
英雄への産声
第9話 いざトマス村へ
しおりを挟む
野営などの準備が必要になる依頼は、受注した翌日に出発する場合が殆んどだ。
依頼の日にはいつもよりも早めに宿を出る小さな剣は、今日も仲睦まじく手を繋いで冒険者ギルドにやって来た。
朝のギルドはオイシイ依頼の争奪戦で掲示板周りが騒がしく、時には拳が飛び交い血で血を洗う争いとなる事も珍しくない。
「ふあぁ。ほんと朝から煩いわね」
「あはは。皆必死なんだよ。クロムさんは…いつもの席に座ってるね」
ギルドを見回して、端のテーブルにクロムを発見したマルコは、眠い目を擦るディアナの手を引いてそちらに向かおうとした。
しかし、そこへ3人組の若い冒険者パーティーが立ち塞がった。
「あんたBランクなんだってな。俺達は紅蓮の凶槍。今はまだFランクだが、すぐにAランクまで駆け上がるギルド期待の冒険者だ。こんな何の役にも立たなそうなチビとしか組めなくて可哀想だから、俺達のパーティーに入れてやるよ」
「わたくしは別にいらないと思うんだけど、ハンスがそうしたいって言うから入れてやっても良いわ」
「ちょっと…二人とも失礼だよ。一応まだ上のランクの冒険者なんだから…」
どこにでもこういう勘違いした手合いは存在する。
特にマルコとディアナが村を出たばかりで冒険者になりたての頃は酷かった。
体格の良いディアナをパーティーに入れようとする勧誘は後を絶たなかったし、その度にマルコを侮辱する言葉やマルコに弱みを握られていて逆らえないんだろうという勘違いした発言が見られた。
その度にディアナは拳でもって相手を黙らせ、マルコを侮辱した謝罪をさせて来たのだった。
近頃はベルートホルンを拠点にしている為、ディアナがBランクである事は地元の冒険者の間で知れ渡っているし、マルコが“何だか良く分からないが、どうやらただの足手纏いではない”と認識されている。
それでも時々こうやって勘違いした新人が絡んでくるのだが、マルコに何度も諭されて大人になったディアナは、以前の様に拳に訴えたりはしない。
ただハンスとかいう男が差し出した手をバシンと弾いて肩に手を置き、上から見下ろして。
「話にならない。失せろ」
と言って本気の威圧を浴びせるだけである。
ハンスもそうだが、殆んどの冒険者はこれだけで腰を抜かす。
ついでに女二人も威圧してから通り過ぎ、首だけで振り向いて。
「マルコへの侮辱は万死に値する。次にやったら本気で殴るから覚悟しておけ」
これで勘違いした新人3人組は全員並んでガタガタと身を震わせた。
「暴力に訴えないのは素晴らしいよ。ディアナは優しい大人の女性だね」
「そうでしょう!あたしもいつまでも子供じゃないんだからね!」
はははと豪快に笑うディアナを見て、いつの間にか争奪戦の手を止めて成り行きを見守っていた冒険者達は、(どこが優しい大人の女性なんだよ!)と揃って心の中でツッコミを入れたのであった。
「おはようございます。今日から数日間、よろしくお願いします」
「よろしくね」
「おう。今回の依頼に同行する掃除屋は3パーティーだ。顔見知りだろうから知ってると思うが、土魔術師がいるから処理は早い。一日半で着くペースで移動してくれて構わない」
マルコから掃除屋のリーダー達への挨拶。クロムから簡単な説明があって、小さな剣を先頭に冒険者ギルドを出た。
掃除屋パーティーの残りの面々は、既に街を囲む城壁の外へと出ている筈で、外で合流して同行する事になる。
小さな剣が出て行った冒険者ギルドでは、血で血を洗う依頼争奪戦が再開され、威圧を受けた3人組は漸く立ち上がると口を開いた。
「俺達の誘いを断るなんて、絶対に許せないぞ」
「あいつらが受けた依頼の魔物を、わたくし達で倒しちゃいましょうよ」
「ええ…それなら、途中までは跡をつけて行く?」
どうやら紅蓮の凶槍も小さな剣に着いていくつもりの様である。
街の外。
ベルートホルンの街は5m程の石造りの城壁に囲まれていて、貴族や大商人を除く多くの者は正門から出入りする。
依頼に出る時のディアナは半袖のシャツに長ズボンと編み上げのブーツ。心臓を守る皮の胸当てをして、大き目の背嚢を背負っている。
ベルトに下げた武器は左に幅広のロングソード、右に東刀(マルコの前世で言う日本刀のような剣)と変わった組み合わせとなっている。
マルコは子供用の上下を着ているだけで、装備は何も着けていない。
小さな剣は正門を潜るとディアナが空の背嚢を開けて、マルコは背嚢に足を通した。
背嚢に足を通すとはおかしな表現だが間違いでは無い。
底に二つ穴を開けた背嚢にマルコが足を通し、それをディアナが背負う形で小さな剣は移動するのだ。
二人の体の大きさの違いから、まるで子育てをする母親と赤子に見えるが、実際は同い年の15歳である。
「ぷくくっ…何だあれ。ダセェ」
なんて声が耳に届いても反応する事は無い。
これが小さな剣が3年間で辿り着いた、もっとも最適な形なのだから。
掃除屋の準備が出来たのを確認すると、ディアナはトマス村へ向けて出発する。
普通は多少遠回りになっても街道沿いを移動するのだが、マルコの頭に周辺地図が入っているので森を突っ切って最短距離での移動となる。
途中出くわした魔物はディアナがロングソードで瞬殺して、多少ペースを落としている間に掃除屋が解体。死体を埋めて処理を行う。
小さな剣とクロムを含めた掃除屋集団は十数mの距離を取って移動していて、これは二人の冒険を邪魔されたくないというディアナの意向を反映させた形だ。
「ああいう冒険者には絶対になりたくないな。あんな情けない事するぐらいなら、おっさん達はさっさと引退すれば良いのに」
「そうよね。何で冒険者やってるのかしら。それよりもあのデカ女、歩くペース早くないかしら?」
「早いね…。私達が着いて来てるのに気付いて嫌がらせしてるのかも…」
「絶対にそうじゃんか!負けねぇぞ!」
歩幅の広いディアナの歩く速度が早いのは、いつもの事である。
こうして新人冒険者では着いて行くのも一苦労なペースで移動を続け、小さな剣は予定通り1日半でトマス村へと到着した。
依頼の日にはいつもよりも早めに宿を出る小さな剣は、今日も仲睦まじく手を繋いで冒険者ギルドにやって来た。
朝のギルドはオイシイ依頼の争奪戦で掲示板周りが騒がしく、時には拳が飛び交い血で血を洗う争いとなる事も珍しくない。
「ふあぁ。ほんと朝から煩いわね」
「あはは。皆必死なんだよ。クロムさんは…いつもの席に座ってるね」
ギルドを見回して、端のテーブルにクロムを発見したマルコは、眠い目を擦るディアナの手を引いてそちらに向かおうとした。
しかし、そこへ3人組の若い冒険者パーティーが立ち塞がった。
「あんたBランクなんだってな。俺達は紅蓮の凶槍。今はまだFランクだが、すぐにAランクまで駆け上がるギルド期待の冒険者だ。こんな何の役にも立たなそうなチビとしか組めなくて可哀想だから、俺達のパーティーに入れてやるよ」
「わたくしは別にいらないと思うんだけど、ハンスがそうしたいって言うから入れてやっても良いわ」
「ちょっと…二人とも失礼だよ。一応まだ上のランクの冒険者なんだから…」
どこにでもこういう勘違いした手合いは存在する。
特にマルコとディアナが村を出たばかりで冒険者になりたての頃は酷かった。
体格の良いディアナをパーティーに入れようとする勧誘は後を絶たなかったし、その度にマルコを侮辱する言葉やマルコに弱みを握られていて逆らえないんだろうという勘違いした発言が見られた。
その度にディアナは拳でもって相手を黙らせ、マルコを侮辱した謝罪をさせて来たのだった。
近頃はベルートホルンを拠点にしている為、ディアナがBランクである事は地元の冒険者の間で知れ渡っているし、マルコが“何だか良く分からないが、どうやらただの足手纏いではない”と認識されている。
それでも時々こうやって勘違いした新人が絡んでくるのだが、マルコに何度も諭されて大人になったディアナは、以前の様に拳に訴えたりはしない。
ただハンスとかいう男が差し出した手をバシンと弾いて肩に手を置き、上から見下ろして。
「話にならない。失せろ」
と言って本気の威圧を浴びせるだけである。
ハンスもそうだが、殆んどの冒険者はこれだけで腰を抜かす。
ついでに女二人も威圧してから通り過ぎ、首だけで振り向いて。
「マルコへの侮辱は万死に値する。次にやったら本気で殴るから覚悟しておけ」
これで勘違いした新人3人組は全員並んでガタガタと身を震わせた。
「暴力に訴えないのは素晴らしいよ。ディアナは優しい大人の女性だね」
「そうでしょう!あたしもいつまでも子供じゃないんだからね!」
はははと豪快に笑うディアナを見て、いつの間にか争奪戦の手を止めて成り行きを見守っていた冒険者達は、(どこが優しい大人の女性なんだよ!)と揃って心の中でツッコミを入れたのであった。
「おはようございます。今日から数日間、よろしくお願いします」
「よろしくね」
「おう。今回の依頼に同行する掃除屋は3パーティーだ。顔見知りだろうから知ってると思うが、土魔術師がいるから処理は早い。一日半で着くペースで移動してくれて構わない」
マルコから掃除屋のリーダー達への挨拶。クロムから簡単な説明があって、小さな剣を先頭に冒険者ギルドを出た。
掃除屋パーティーの残りの面々は、既に街を囲む城壁の外へと出ている筈で、外で合流して同行する事になる。
小さな剣が出て行った冒険者ギルドでは、血で血を洗う依頼争奪戦が再開され、威圧を受けた3人組は漸く立ち上がると口を開いた。
「俺達の誘いを断るなんて、絶対に許せないぞ」
「あいつらが受けた依頼の魔物を、わたくし達で倒しちゃいましょうよ」
「ええ…それなら、途中までは跡をつけて行く?」
どうやら紅蓮の凶槍も小さな剣に着いていくつもりの様である。
街の外。
ベルートホルンの街は5m程の石造りの城壁に囲まれていて、貴族や大商人を除く多くの者は正門から出入りする。
依頼に出る時のディアナは半袖のシャツに長ズボンと編み上げのブーツ。心臓を守る皮の胸当てをして、大き目の背嚢を背負っている。
ベルトに下げた武器は左に幅広のロングソード、右に東刀(マルコの前世で言う日本刀のような剣)と変わった組み合わせとなっている。
マルコは子供用の上下を着ているだけで、装備は何も着けていない。
小さな剣は正門を潜るとディアナが空の背嚢を開けて、マルコは背嚢に足を通した。
背嚢に足を通すとはおかしな表現だが間違いでは無い。
底に二つ穴を開けた背嚢にマルコが足を通し、それをディアナが背負う形で小さな剣は移動するのだ。
二人の体の大きさの違いから、まるで子育てをする母親と赤子に見えるが、実際は同い年の15歳である。
「ぷくくっ…何だあれ。ダセェ」
なんて声が耳に届いても反応する事は無い。
これが小さな剣が3年間で辿り着いた、もっとも最適な形なのだから。
掃除屋の準備が出来たのを確認すると、ディアナはトマス村へ向けて出発する。
普通は多少遠回りになっても街道沿いを移動するのだが、マルコの頭に周辺地図が入っているので森を突っ切って最短距離での移動となる。
途中出くわした魔物はディアナがロングソードで瞬殺して、多少ペースを落としている間に掃除屋が解体。死体を埋めて処理を行う。
小さな剣とクロムを含めた掃除屋集団は十数mの距離を取って移動していて、これは二人の冒険を邪魔されたくないというディアナの意向を反映させた形だ。
「ああいう冒険者には絶対になりたくないな。あんな情けない事するぐらいなら、おっさん達はさっさと引退すれば良いのに」
「そうよね。何で冒険者やってるのかしら。それよりもあのデカ女、歩くペース早くないかしら?」
「早いね…。私達が着いて来てるのに気付いて嫌がらせしてるのかも…」
「絶対にそうじゃんか!負けねぇぞ!」
歩幅の広いディアナの歩く速度が早いのは、いつもの事である。
こうして新人冒険者では着いて行くのも一苦労なペースで移動を続け、小さな剣は予定通り1日半でトマス村へと到着した。
12
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
無限の精霊コンダクター
アキナヌカ
ファンタジー
リードは兄たちから虐げられていた、それはリードが無能だったからだ。ここでいう無能とは精霊との契約が出来ない者のことをいった、リードは無能でもいいと思って十五歳になったら貴族の家を出て行くつもりだった。だがそれよりも早くリードを良く思っていないウィスタム家の人間たちは、彼を深い山の中の穴の中に突き落として捨てた。捨てられたリードにはそのおかげで前世を思い出し、また彼には信じられないことが起こっていくのだった。
恵麗奈お嬢様のあやかし退治
刻芦葉
キャラ文芸
一般的な生活を送る美憂と、世界でも有名な鳳凰院グループのお嬢様である恵麗奈。
普通なら交わることのなかった二人は、人ならざる者から人を守る『退魔衆』で、命を預け合うパートナーとなった。
二人にある共通点は一つだけ。その身に大きな呪いを受けていること。
黒を煮詰めたような闇に呪われた美憂と、真夜中に浮かぶ太陽に呪われた恵麗奈は、命がけで妖怪との戦いを繰り広げていく。
第6回キャラ文芸大賞に参加してます。よろしくお願いします。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
スライム・スレイヤー
1336maeno
ファンタジー
異世界に転生したら、スライムが世界を支配していた。
最弱の魔物のはずのスライムが、ドラゴンを滅ぼし、魔王すらも倒してしまったというのだ。
あらゆる攻撃を無効化するスライムに対し、冒険者はスライムを討伐することができず、怯えた生きていた。
そんな中、不慮の交通事故で死んでしまった16歳の高校生がその世界に転生。
前世で培ったゲーム・アニメ知識を駆使し、難攻不落のスライムを滅ぼす冒険に出る...!
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
欠落状態冒険者 ~defect state adventurer~
くすのきさくら
ファンタジー
今日も無駄に社会の駒として身を削っていた俺。そしてついに身体に限界が来たのか。帰りの駅のホームでふと何かに躓いたらしく駅のホームで派手にズッコケる大人。という場面を作った。と思ったのだが。次の瞬間俺が見た光景は青空だった。
どうやら――打ち所が悪くて死んだのか。そもそも過労で倒れてそのままお陀仏になったらしい。さてさて死後の世界は?などと思っていると、ボロ布を着せられていることに気が付いた俺。さらに死んだはずなのに意識ははっきり。その後町にたどり着いた俺。たどり着いた町はまるでゲームの世界だった。ここでは冒険者が主な職業の町らしく。俺も流れで冒険者登録をすることに。だが――そこで俺は自信の初期ステータスがおかしいことに気が付く。レベル2まで残り経験値150000。バグっていた。
――これはある日突然異世界に飛ばされた男の話。ちなみにその男。何故か名前を言えない……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる