世界最弱で世界最強~【虚弱体質】の称号を持つ世界最弱の異世界転生者はスキル【大番狂わせ】に覚醒して特定条件下で世界最強になる

張形珍宝

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英雄への産声

第6話 旅立ち

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「父さん母さん、僕はディアナと行きたい。何もせずに村にいるよりも、外に出て誰かの役に立ちたいんだ」

 マルコは夕食の後で両親に話を切り出した。
 とても言い出し辛かったけれども、勇気を出して思いを伝えた。
 両親はマルコの言葉に視線を落として、寂しそうな表情を浮かべた。
 けれども顔を上げて、マルコの目を真っ直ぐに見つめる。

「マルコがしたい事をしなさい。君の人生だ。どうするかは君自身で選んで良い」

 父親はマルコの意見を尊重した。

「マルコをそんな体に生んでしまったのを、母さんはずっと申し訳なく思っていたわ。普通の子供達みたいに遊んだり走り回ったりしたかったでしょうに。マルコはとても頭が良くて聞き分けの良い子だから、母さんに恨み言の一つも言わないで…」

 母親は涙を流してマルコに謝罪した。

「母さん…僕は優しい父さんと母さんに感謝しているよ。ずっと迷惑ばかり掛けていてごめん」

 マルコも両親に謝罪をした。
 今まで心の中では何度もしてきた謝罪だが、言葉にしたのは初めてだった。

「良いんだよ。父さんも母さんも迷惑だなんて思った事は一度だって無い」

「そうよマルコ。何年も子供が出来ずに悩んでいた私達に神様が授けてくれた可愛い子ですもの。マルコが生きているだけで私達は幸せなのよ」

 マルコの両親は、もう40歳になる。
 この世界では15歳で結婚して、すぐに子供を生んでというのが普通だが、マルコの両親は結婚から十何年も子供を授からなかった。
 だからマルコが生まれた時は何よりも嬉しかったし、マルコがどんな子でも大切に育てようと思っていた。
 実際にマルコはとても手の掛かる子だったが、寧ろマルコの世話をするのが二人の幸せだった。

 マルコは前世でも今世でも親に恵まれている。
 それはマルコ自身の思いだけではなく、客観的に見ても事実だろう。

「もっとマルコと一緒にいたかったけれど、私達はマルコの意志を尊重するわ。だって貴方は最高に可愛い私達の息子で、村を救った英雄なんだもの」

「思っていたよりも早かったけれど、いつかはこの手から飛び立って行くと思っていたよ。マルコならきっと上手くやれる。何せ父さんと母さんの自慢の息子だからね」

 この日、マルコは両親の腕に抱かれて眠りに就いた。
 村の外に出て冒険者になれば、もしかしたら二度と村へ戻れない可能性だってあるだろう。
 そうなれば、この夜が両親と過ごせる最後の夜になる。

 マルコは優しい両親と過ごす、両親は愛しいマルコと過ごす、最高の夜を過ごした。
 そして、翌朝目を覚ましたマルコは、両親と一緒に村の人達へ旅立ちの挨拶を行った。

「俺達の英雄様の旅立ちか!」

「マルコ君、ずっとお礼を言いそびれていたけれど、あの時は一人で戦ってくれてありがとうね」

「絡まれたら、あのデカい姉ちゃんに助けて貰えよ」

「皆さん、ありがとうございます。お世話になりました」

 村人達は口々にマルコへの称賛と感謝を口にして、同時に心配もしていた。
 やはり普段のマルコを見ていれば、心配になるのも当然だろう。

「気が済むまで頑張ってきな。それとね。生まれた村と生んでくれた両親への感謝を忘れずに金を送って贅沢させてくれても良いんだよ」

「止めろリオナ婆!」

「マルコ、そんな事は気にしなくて良いのよ」

「あはは。リオナ婆、お世話になりました」

 リオナ婆が一瞬目をギラつかせて、稼いだ金を送るように無心した。
 両親はそんなリオナ婆を叱責したが、マルコは元よりそのつもりだったので愛想笑いで誤魔化しておいた。

「精々頑張って歴史に名を残す英雄になって来い。何か聞きたい事があったら手紙を寄越せ。それから、時々は帰って来て両親に顔を見せてやれ」

「うん。ヘントさんありがとう。頑張ってみるよ」

 ヘントは期待もして、心配もして、寂しそうにもして、マルコと言葉を交わした。
 きっと両親と同じぐらいにマルコの旅立ちを寂しがっているのはヘントだろう。

 マルコ達がヘントの家を出ると、村人達が広場に集まっていた。
 中央で火を熾し、それぞれが家から食材と酒を持ち寄って何やら始めようとしている。

「英雄様の旅立ちだ!盛大に祝って送り出そうぜ!」

 本来なら畑仕事を始めている時間なのだが、今日は一日休みだと言って宴を始める村人達。
 リオナ婆も家から出てきて、咎める事なく用意されていた席に着いた。
 普段は収穫祭にも参加しないヘントまで家から出てきて、今回ばかりは宴に参加する。

 まさか自分の為にこんな宴が開かれるだなんて思っていなかったマルコは、感動して涙目になっている。

「皆…ありがとう…。ありがとう…」

 収穫祭と比べれば酒も料理も少ないが、収穫祭以上のどんちゃん騒ぎが始まる。
 皆が皆、あの日蛮豚亜人《バーバリアンオーク》に立ち向かったマルコの雄姿を肴に酒を飲み、マルコは気恥ずかしい気持ちになりながらも喜びと幸せでいっぱいだった。

(僕も少しは皆の役に立てていたんだ。それが何よりも嬉しい)

 マルコの旅立ちを祝う宴は、きっとマルコが旅立った後も一日中続くのだろう。
 幸せな宴の中心で、マルコはディアナがもう一度、自分を迎えに来るのを待った。

 昼になり。

 夜になり。

 夜中になり。

 朝になった。

「ごめーん!一昨日村に帰ってからマルコと旅に出るのが楽しみ過ぎて寝られなくてさ。明け方寝て起きたら夜だったんだよね。だから一日遅れちゃった。ごめん!」

 どうやら寝過ごしたディアナが姿を現したのは宴の翌朝だった。
 既に村人の多くが騒ぎ過ぎて疲れて広場に転がっている。
 マルコと両親は、夜になったら家に引き返して3人で一緒に眠っていた。
 ヘントも家に戻っていたが、ディアナが来てから家を出て来たので、小まめに様子を窺っていたのだろう。

「あはは。大丈夫だよ」

 マルコとしては両親ともう一晩一緒にいられて寧ろ有難いぐらいだったから、気にしないようにとディアナに告げる。

「くれぐれも体には気を付けるんだぞ」

 父親はマルコの体を心配し。

「マルコの事をよろしくお願いします」

 母親はディアナに頭を下げた。

「マルコの事はあたしが守るから大丈夫!」

 そう言って拳を掲げたディアナが何とも頼もしく、この人だったら本当にマルコを守ってくれるだろうと安心した。

「坊主。金が貯まったら一度そっちのお嬢ちゃんの鑑定をしておけ。隣村出身ならわざわざ神殿で鑑定なんてしないだろう。自分のスキルや称号を知っておく事は大事だからな。坊主は鑑定は無しだ。それから街へ着いたらまずは…」

 ヘントは歳の離れた友人が心配なのか、今後どうすべきかマルコに助言をした。
 一度は英雄を目指して冒険者にもなった先達の助言はありがたい。
 マルコは全ての助言を聞いてから、ヘントに手を差し出す。

「沢山の知識をありがとう。ヘントさんが教えてくれた事を忘れずに頑張るよ」

「おう、頑張って来い」

 二人はガッチリと…ヘントの方はかなり手加減しているが…握手を交わした。

「父さん母さんありがとう。くれぐれも体に気を付けてね。行ってきます」

「ああ。マルコもな」

「マルコ…いつでも帰って来て良いんだからね」

 優しい両親に抱かれて、マルコは二人に別れを告げた。

「それじゃあマルコ、行こっか」

「うん!行こう!」

 ディアナはひょいとマルコを抱き上げて、左腕に収めた。
 年齢は同じ12歳である筈なのだが、二人はまるで大人と子供だ。
 マルコが疲れやすいと聞いて、ディアナは出来るだけマルコを自分の足で歩かせない様にと方法を考えた。
 そして出したの結論が自分が運んであげれば良いんだという答えだった。

 何の苦も無くマルコを抱き上げて、大きな歩幅で歩いていくディアナの背中を見て、良い仲間を見付けたなとヘントは胸を撫で下ろした。

「行ってきます!」

「行ってらっしゃいマルコ!頑張るんだぞ!」

「頑張ってね!」

「頑張れよ!」

 こうしてリオナ村の英雄マルコは旅立った。
 【虚弱体質】と【大番狂わせジャイアントキリング】を持つマルコと、乗合馬車で1日の距離をマルコを抱いたまま半日と少しで踏破した凄まじい身体能力のディアナ。

 このあと二人は破竹の勢いで冒険者としての活躍を見せるのだが、それは奇跡でも運でも偶然でもなく必然であった。
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