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英雄への産声
第5話 ヘントの考え
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ディアナからの思い掛けない誘いにマルコが戸惑っていると、ディアナの後ろで母親が声を上げた。
「マルコに冒険者なんて無理です!うちの子は力も弱いし体力も無いし…。少し歩いただけで息を切らす程なんですよ!」
父親も続く。
「そうだ!マルコは誰かが…俺達が守ってやらなきゃいけない子なんだ!」
確かに両親の言っている事はもっともである。
マルコは10歳の時よりは少しだけマシになっているが、今でも100mも歩けば息切れする。
老人の様にゆっくり歩けば10分ぐらいは歩けるが、移動出来る距離はかなり短い。
そんなマルコが自らの足で長距離を移動して、硬い地面の上で寝ころんで野営をし、命を掛けて魔物を倒す冒険者になれる筈なんて無いと考えるのは当然だろう。
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん。ねー」
ディアナは両親の言葉を否定して、子供に聞く様にマルコに問い掛ける。
マルコには肯定も否定も出来ない。
何かの奇跡が起きて、マルコが鍬で蛮豚亜人を倒した事実があるからだ。
両親の主張は正しいし、かと言ってディアナの言っている事も正しい。
だからマルコはこう答える。
「考える時間を下さい」
両親を思えば、この場で断るべきなのかもしれない。
けれど、一緒に英雄になろうと言ったディアナの誘いは、英雄に憧れを抱くマルコにとって魅力的だった。
だから考える時間が欲しかった。
歳の離れた友人の意見も聞いてみたかったたからだ。
「わかった。明日また来るから、その時に返事を聞かせてね。いやぁ、今日12歳になったから漸く村を出たのに、早速帰るのはちょっと気まずいけど」
そんなディアナの言葉を受けて、マルコも両親も耳を疑った。
「え…?ディアナって…」
「「「12歳なのー!?」」」
とても大柄な12歳の少女は、「それじゃあ、また明日」と言い残してリオナ村を去って行った。
ディアナが村へと帰って行った後、マルコはヘントの家を訪ねた。
そしてディアナに勧誘された事を話して、返って来たのがこの言葉だった。
「冒険者になろうって誘われてどうするか悩んでる?そんなもん坊主がやりたいかどうかだろう」
両親も反対…というよりかは沢山心配をしていたが、最終的にはマルコの人生だからマルコが決めるべきだと言っていた。
結局の所は彼らの言っている事が真理だろう。
しかし、ヘントは言葉を続ける。
「けどまぁ、俺の個人的な意見としてはだな。坊主はこんな小さな村で終わっていい器じゃないとは思ってる。まずは俺の考えを最後まで話して良いか?」
マルコは頷いた。
「最初に言っておくが、坊主には村に貢献してない事への後ろめたさってのがずっとあるんだろう?子供の頃から…俺からすれば今も子供だが、ずっと申し訳なさを抱いて生きて来たんだろう?」
マルコは深く頷いた。
確かに、マルコは前世からずっと家族や周りの人に申し訳ないと思って生きて来た。
何の役にも立たない自分は捨てられたっておかしくないのに、それでも愛情を持って接してくれる家族。
周りもマルコを責めたりせずに、自分なんかには勿体ないぐらい人に恵まれ過ぎていると思っている。
だから、そんな素敵な人達の役に立ちたいと思うし、優しさに報いたいとも思っている。
「その考えは今すぐ捨てて良い。坊主の村への貢献は、蛮豚亜人を倒したあの一日で一生分が終わってる。坊主が蛮豚亜人を倒さなかったら、きっと村人全員の命があの日で終わってた。
今、俺や坊主の両親、村の皆が生きているのは坊主が村にいてくれたからだ。坊主は自分の事を村のお荷物だなんて思っていそうだが、村を救った、命を救った英雄だよ」
マルコにとっては自分が英雄だなんて言われてもピンと来なかった。
自分はヘントの勇気に背中を押されて行動しただけだし、蛮豚亜人を倒せたのは奇跡が起きたからだ。
それに両親や村に掛けていた迷惑を考えれば、まだまだ貢献は足りないと思っていた。
しかし、ヘントが言葉にして伝えてくれて、漸く自分は皆の役に立てたのだとマルコは実感が持てた。
一生分の貢献が終わっていると言われて、ほっとした気持ちにもなった。
「その上でな。実は坊主に黙っていた話がある。それは坊主のスキルについてだ」
ヘントは真剣な眼差しでマルコと目を合わせた。
今までのヘントは、あの時マルコに何が起きたのか見当もつかないと伝えていた。
マルコはその言葉を信じていたのだが、どうやら何かを隠していたようだ。
「スキルは神殿で鑑定を受ければわかるものだ。リオナ婆や坊主の両親は坊主に鑑定を受けさせようとしていた。だが、俺はそれに反対した。神殿が鑑定結果を横流しするとは思っていないが、絶対とは言い切れないからな」
マルコはヘントが自分の為に敢えてそうしてくれたのだと理解して頷いた。
ヘントからすれば、どうして止めたのだと責められてもおかしくない内容だったので、マルコの反応にホッと胸を撫で下ろした。
「坊主が蛮豚亜人と対峙した時に覚醒したスキルは、十中八九大番狂わせってスキルだ。冒険者ギルドにある歴史書の中に、時折似た様な話がある。例えば平凡なDランクの冒険者が突然Aランクでも上位に入る魔物を倒したって話だな。これと似た話で、冒険者になりたての戦闘素人が、絡んできたSランク冒険者に勝ったとかな」
確かに明らかな格上相手に勝利する状況は、マルコに起こったそれと似ている。
【大番狂わせ‐ジャイアントキリング‐】という名前の通り、格上に対して発動するスキルなのだろう。
話を聞いて、一つ疑問が浮かんだマルコはヘントに質問をする。
「大番狂わせを発現させた冒険者は、その後どうなったんですか?」
ヘントの口から語られた英雄達の話に【大番狂わせ】なんて言葉は一度も登場しなかった。
格上に勝てるスキル。そんなスキルが存在するならば、歴史に名を残していてもおかしくはない。
マルコの疑問は当然だろう。
マルコの疑問に、ヘントは重苦しい雰囲気を出して口を開いた。
「死んだよ。皆あっさりと死んでいる」
驚くマルコから目を逸らして、ヘントは言葉を続ける。
「大番狂わせってスキルはどんな状況下で発動するのかわかっていないんだ。そもそもが珍しいスキルだから全く研究が進んでいない。平凡なDランクがAランク上位の魔物を倒す。素人の新人がSランクを倒す。すると人はどうなると思う?」
ヘントは溜息をついて、一息ついてから続きを語る。
「調子に乗る。自信過剰になる。まるで自分が急に強くなったとでも感じるんだろう。全能感があるんだろう。自分は最強だって思うんだろう。その結果、そいつらはあっさりと死んだ。結局凄いのはスキルであって、そいつらじゃなかった。どんなに強力なスキルも、使う奴の心と頭が備わってなきゃ活かせないって事だ」
そこまで話を聞いて、マルコは自分に置き換えて考えた。
(もしも大番狂わせを発現した時、僕が既に冒険者をしていたら。僕の体がこんなに弱弱しくも疲れやすくもなかったら。僕が自分に少しでも自信があったら。自分に期待をしていたら。もしかしたら僕は、その冒険者達と同じになったかもしれない。無茶をしても、あの能力が自分を助けてくれるって勘違いしちゃうかもしれないから)
マルコがもっと丈夫な体であれば、マルコとて同じ道を進んでいた可能性は十分にある。
マルコの場合は鍬も持ち上げられない程に力が無くて、少し歩いただけで息が上がる体だからこそ、【大番狂わせ】を奇跡と捉えられたのだ。
普通の体であったなら、奇跡ではなく自分の力と考えてもおかしくはない。
「話を戻そう。俺が坊主の鑑定に反対した理由は、坊主のスキルが大番狂わせだとバレれば余計な疑いを向けられると思ったからだ。有名なスキルではないが、知っている奴からすれば坊主が蛮豚亜人を倒したと辿り着けるからな」
これは正しい判断だったのだろう。
確かにヘントと同等の知識がある者からすれば、【大番狂わせ】を持った子供が蛮豚亜人を倒したと気付いてもおかしくない。
「正直言ってな。坊主が村から出るって言い出すまでは大番狂わせについて黙ってるつもりだった。これは俺の想像でしかないが、大番狂わせは強力だが非常に扱い辛いスキルだからな。坊主は頭は良いが、そんな体だしよ。はっきり言って危険も大きいと思ってる。だが、こんな村で終わっていい器じゃないって思ってるのも事実だ。だから俺の話を聞いた上で、行くか行かないか決めたら良い。何せ坊主の人生だからな」
ヘントはこのまま何事もなければ…それこそ蛮豚亜人の様な魔物がまた村を襲ってマルコが倒したりしない限りは…マルコが村を出る事は無いだろうと考えていた。
何せマルコの家からヘントの家まで歩いただけでも疲れてしまう体力の無さだ。
自分から旅に出たいなどと言い出す事は無いだろうと考えるのは自然だった。
しかし、ヘントは【大番狂わせ】という類まれな才能を持つマルコを世界が放っておくとも、どうしても思えなかった。
いつかマルコという存在が世間に知られた時に、マルコは様々な思惑でその身を危険に晒す事になるだろう。
魔物討伐や戦争の最前線に放り込まれたり、上位ランクの冒険者やそれと同等の力を持つ実力者の暗殺を命じられたり。
マルコの利用方法は幾らでもあるのだ。
もしもそんな未来が待っているのならば、自分の意志で旅立った方が余程マシだろう。
英雄には必ず優秀な仲間がいる。
マルコがいつか真の英雄と呼ばれる未来が訪れるのなら、きっとマルコを助け、導く仲間が集まるだろう。
今回の出会いが、もしかしたらそのきっかけになるかもしれない。
「村の事は心配するな。街の傍に蛮豚亜人が出たって事で、暫くの間は見回りも増えるからな。何かあっても、今度は事前に魔物を見付けた領主様の騎士達が戦ってくれる。そもそも俺が生まれてからあんなのが現れたのは初めてだ。坊主が寿命で死ぬまで村にあんな危機は訪れないだろうよ」
そこまで言って、ヘントはいつもの英雄の話を語り始めた。
ヘントがどことなく寂しそうな顔に見えるのは、マルコがどちらを選ぶか確信に近い形で予想しているからだろうか。
マルコは暫くヘントの家に留まって、いつもと同じく日が落ちる頃に帰宅した。
「マルコに冒険者なんて無理です!うちの子は力も弱いし体力も無いし…。少し歩いただけで息を切らす程なんですよ!」
父親も続く。
「そうだ!マルコは誰かが…俺達が守ってやらなきゃいけない子なんだ!」
確かに両親の言っている事はもっともである。
マルコは10歳の時よりは少しだけマシになっているが、今でも100mも歩けば息切れする。
老人の様にゆっくり歩けば10分ぐらいは歩けるが、移動出来る距離はかなり短い。
そんなマルコが自らの足で長距離を移動して、硬い地面の上で寝ころんで野営をし、命を掛けて魔物を倒す冒険者になれる筈なんて無いと考えるのは当然だろう。
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん。ねー」
ディアナは両親の言葉を否定して、子供に聞く様にマルコに問い掛ける。
マルコには肯定も否定も出来ない。
何かの奇跡が起きて、マルコが鍬で蛮豚亜人を倒した事実があるからだ。
両親の主張は正しいし、かと言ってディアナの言っている事も正しい。
だからマルコはこう答える。
「考える時間を下さい」
両親を思えば、この場で断るべきなのかもしれない。
けれど、一緒に英雄になろうと言ったディアナの誘いは、英雄に憧れを抱くマルコにとって魅力的だった。
だから考える時間が欲しかった。
歳の離れた友人の意見も聞いてみたかったたからだ。
「わかった。明日また来るから、その時に返事を聞かせてね。いやぁ、今日12歳になったから漸く村を出たのに、早速帰るのはちょっと気まずいけど」
そんなディアナの言葉を受けて、マルコも両親も耳を疑った。
「え…?ディアナって…」
「「「12歳なのー!?」」」
とても大柄な12歳の少女は、「それじゃあ、また明日」と言い残してリオナ村を去って行った。
ディアナが村へと帰って行った後、マルコはヘントの家を訪ねた。
そしてディアナに勧誘された事を話して、返って来たのがこの言葉だった。
「冒険者になろうって誘われてどうするか悩んでる?そんなもん坊主がやりたいかどうかだろう」
両親も反対…というよりかは沢山心配をしていたが、最終的にはマルコの人生だからマルコが決めるべきだと言っていた。
結局の所は彼らの言っている事が真理だろう。
しかし、ヘントは言葉を続ける。
「けどまぁ、俺の個人的な意見としてはだな。坊主はこんな小さな村で終わっていい器じゃないとは思ってる。まずは俺の考えを最後まで話して良いか?」
マルコは頷いた。
「最初に言っておくが、坊主には村に貢献してない事への後ろめたさってのがずっとあるんだろう?子供の頃から…俺からすれば今も子供だが、ずっと申し訳なさを抱いて生きて来たんだろう?」
マルコは深く頷いた。
確かに、マルコは前世からずっと家族や周りの人に申し訳ないと思って生きて来た。
何の役にも立たない自分は捨てられたっておかしくないのに、それでも愛情を持って接してくれる家族。
周りもマルコを責めたりせずに、自分なんかには勿体ないぐらい人に恵まれ過ぎていると思っている。
だから、そんな素敵な人達の役に立ちたいと思うし、優しさに報いたいとも思っている。
「その考えは今すぐ捨てて良い。坊主の村への貢献は、蛮豚亜人を倒したあの一日で一生分が終わってる。坊主が蛮豚亜人を倒さなかったら、きっと村人全員の命があの日で終わってた。
今、俺や坊主の両親、村の皆が生きているのは坊主が村にいてくれたからだ。坊主は自分の事を村のお荷物だなんて思っていそうだが、村を救った、命を救った英雄だよ」
マルコにとっては自分が英雄だなんて言われてもピンと来なかった。
自分はヘントの勇気に背中を押されて行動しただけだし、蛮豚亜人を倒せたのは奇跡が起きたからだ。
それに両親や村に掛けていた迷惑を考えれば、まだまだ貢献は足りないと思っていた。
しかし、ヘントが言葉にして伝えてくれて、漸く自分は皆の役に立てたのだとマルコは実感が持てた。
一生分の貢献が終わっていると言われて、ほっとした気持ちにもなった。
「その上でな。実は坊主に黙っていた話がある。それは坊主のスキルについてだ」
ヘントは真剣な眼差しでマルコと目を合わせた。
今までのヘントは、あの時マルコに何が起きたのか見当もつかないと伝えていた。
マルコはその言葉を信じていたのだが、どうやら何かを隠していたようだ。
「スキルは神殿で鑑定を受ければわかるものだ。リオナ婆や坊主の両親は坊主に鑑定を受けさせようとしていた。だが、俺はそれに反対した。神殿が鑑定結果を横流しするとは思っていないが、絶対とは言い切れないからな」
マルコはヘントが自分の為に敢えてそうしてくれたのだと理解して頷いた。
ヘントからすれば、どうして止めたのだと責められてもおかしくない内容だったので、マルコの反応にホッと胸を撫で下ろした。
「坊主が蛮豚亜人と対峙した時に覚醒したスキルは、十中八九大番狂わせってスキルだ。冒険者ギルドにある歴史書の中に、時折似た様な話がある。例えば平凡なDランクの冒険者が突然Aランクでも上位に入る魔物を倒したって話だな。これと似た話で、冒険者になりたての戦闘素人が、絡んできたSランク冒険者に勝ったとかな」
確かに明らかな格上相手に勝利する状況は、マルコに起こったそれと似ている。
【大番狂わせ‐ジャイアントキリング‐】という名前の通り、格上に対して発動するスキルなのだろう。
話を聞いて、一つ疑問が浮かんだマルコはヘントに質問をする。
「大番狂わせを発現させた冒険者は、その後どうなったんですか?」
ヘントの口から語られた英雄達の話に【大番狂わせ】なんて言葉は一度も登場しなかった。
格上に勝てるスキル。そんなスキルが存在するならば、歴史に名を残していてもおかしくはない。
マルコの疑問は当然だろう。
マルコの疑問に、ヘントは重苦しい雰囲気を出して口を開いた。
「死んだよ。皆あっさりと死んでいる」
驚くマルコから目を逸らして、ヘントは言葉を続ける。
「大番狂わせってスキルはどんな状況下で発動するのかわかっていないんだ。そもそもが珍しいスキルだから全く研究が進んでいない。平凡なDランクがAランク上位の魔物を倒す。素人の新人がSランクを倒す。すると人はどうなると思う?」
ヘントは溜息をついて、一息ついてから続きを語る。
「調子に乗る。自信過剰になる。まるで自分が急に強くなったとでも感じるんだろう。全能感があるんだろう。自分は最強だって思うんだろう。その結果、そいつらはあっさりと死んだ。結局凄いのはスキルであって、そいつらじゃなかった。どんなに強力なスキルも、使う奴の心と頭が備わってなきゃ活かせないって事だ」
そこまで話を聞いて、マルコは自分に置き換えて考えた。
(もしも大番狂わせを発現した時、僕が既に冒険者をしていたら。僕の体がこんなに弱弱しくも疲れやすくもなかったら。僕が自分に少しでも自信があったら。自分に期待をしていたら。もしかしたら僕は、その冒険者達と同じになったかもしれない。無茶をしても、あの能力が自分を助けてくれるって勘違いしちゃうかもしれないから)
マルコがもっと丈夫な体であれば、マルコとて同じ道を進んでいた可能性は十分にある。
マルコの場合は鍬も持ち上げられない程に力が無くて、少し歩いただけで息が上がる体だからこそ、【大番狂わせ】を奇跡と捉えられたのだ。
普通の体であったなら、奇跡ではなく自分の力と考えてもおかしくはない。
「話を戻そう。俺が坊主の鑑定に反対した理由は、坊主のスキルが大番狂わせだとバレれば余計な疑いを向けられると思ったからだ。有名なスキルではないが、知っている奴からすれば坊主が蛮豚亜人を倒したと辿り着けるからな」
これは正しい判断だったのだろう。
確かにヘントと同等の知識がある者からすれば、【大番狂わせ】を持った子供が蛮豚亜人を倒したと気付いてもおかしくない。
「正直言ってな。坊主が村から出るって言い出すまでは大番狂わせについて黙ってるつもりだった。これは俺の想像でしかないが、大番狂わせは強力だが非常に扱い辛いスキルだからな。坊主は頭は良いが、そんな体だしよ。はっきり言って危険も大きいと思ってる。だが、こんな村で終わっていい器じゃないって思ってるのも事実だ。だから俺の話を聞いた上で、行くか行かないか決めたら良い。何せ坊主の人生だからな」
ヘントはこのまま何事もなければ…それこそ蛮豚亜人の様な魔物がまた村を襲ってマルコが倒したりしない限りは…マルコが村を出る事は無いだろうと考えていた。
何せマルコの家からヘントの家まで歩いただけでも疲れてしまう体力の無さだ。
自分から旅に出たいなどと言い出す事は無いだろうと考えるのは自然だった。
しかし、ヘントは【大番狂わせ】という類まれな才能を持つマルコを世界が放っておくとも、どうしても思えなかった。
いつかマルコという存在が世間に知られた時に、マルコは様々な思惑でその身を危険に晒す事になるだろう。
魔物討伐や戦争の最前線に放り込まれたり、上位ランクの冒険者やそれと同等の力を持つ実力者の暗殺を命じられたり。
マルコの利用方法は幾らでもあるのだ。
もしもそんな未来が待っているのならば、自分の意志で旅立った方が余程マシだろう。
英雄には必ず優秀な仲間がいる。
マルコがいつか真の英雄と呼ばれる未来が訪れるのなら、きっとマルコを助け、導く仲間が集まるだろう。
今回の出会いが、もしかしたらそのきっかけになるかもしれない。
「村の事は心配するな。街の傍に蛮豚亜人が出たって事で、暫くの間は見回りも増えるからな。何かあっても、今度は事前に魔物を見付けた領主様の騎士達が戦ってくれる。そもそも俺が生まれてからあんなのが現れたのは初めてだ。坊主が寿命で死ぬまで村にあんな危機は訪れないだろうよ」
そこまで言って、ヘントはいつもの英雄の話を語り始めた。
ヘントがどことなく寂しそうな顔に見えるのは、マルコがどちらを選ぶか確信に近い形で予想しているからだろうか。
マルコは暫くヘントの家に留まって、いつもと同じく日が落ちる頃に帰宅した。
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