世界最弱で世界最強~【虚弱体質】の称号を持つ世界最弱の異世界転生者はスキル【大番狂わせ】に覚醒して特定条件下で世界最強になる

張形珍宝

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(父さん母さん、ごめん。こんな何の役にも立たない親不孝な息子でごめん)

 これは、都内にあるとある病院に入院していた少年の話。
 少年は幼い頃から体が弱く、難病を患っていて、担当医から何歳まで生きられるかわからないと言われていた。
 そんな少年を、少年の両親は深い愛情を持って育てた。

 少年は優しい両親に優しい医師、優しい看護師にも恵まれて、日々を幸せそうに過ごしていた。
 しかし、傍目から見たら幸せそうな少年の心には、常に周囲への申し訳なさと何も出来ない自分への悔しさがあった。

『僕は何の為に生きているのだろう。父さん母さんに負担を掛けるため?父さんも母さんも生きているだけで最大の親孝行と僕に言ってくれる。僕の事を真剣に考えてくれている。
 けれど、僕は何も返せない。いつもベッドの上にいて、お世話をして貰ってばかり。僕が普通の子だったら…。きっと色んな場所に遊びに行ったり旅行に行ったりして、普通に幸せに日々を過ごせたのに。
 普通に学校に通って、普通に就職して、初めてのお給料でプレゼントをしたり、食事に連れて行ってあげたり。そんな普通の親孝行が出来たなら、どれ程に幸せだっただろう。
 けれど、僕には何も出来ない。父さんにも母さんにも、お医者さんにも看護師さんにも。僕はありがとうって言うだけで、してもらった恩を何も返せない。ただ、皆に申し訳ない。きっと明日も明後日も。生きていたなら何年後かも。僕は皆に申し訳ないって思っているんだろうな』

 少年はそんな深い深い葛藤を、誰にも見せる事はなかった。

 ある時、少年は母親から何気ない質問をされた。

「退院したら何がしたい?将来の夢でも良いわ。何かしたい事はある?」

 少年は答えた。

「僕は誰かの役に立ちたい」

 少年の本心からの言葉だった。

 “誰か”は両親に対してが一番強かったが、少年の治療を担当していた医師も看護師に対しても強く思っていた。
 “誰か”には一度だけ挨拶をした事がある同い年ぐらいの少女も、病室の清掃に来ていたおじさんも、配膳に来ていたおばさんも、今まで少年が関わった事のある全ての人が含まれていた。
 一度も会った事すら無い人までは想像出来ないけれど、自分が出会った“誰か”、未来で関わる“誰か”の役に立ちたいと思っていた。
 けれど、きっとそれは出来ないんだろうとも思っていた。

 やがて月日は流れ、その時がやってきた。

 それは少年の15歳の誕生日だった。
 数日前に容体が悪化して弱っていった少年は、泣きじゃくる両親に手を握られながら、その時を迎えた。
 徐々に間隔が広くなっていく心電図の音。涙を流す母の声。少年を励ます父の声。
 僅かに開いた瞼から見える両親の姿は、いつしか霞んで見えなくなったが、聴覚だけは最後まで残っていた。

「強い体に生んであげられなくてごめんね。こんな泣き虫な母親でごめんね」

(それは違うよ母さん。強くなれなかったのはきっと僕のせいだ。
 母さんは僕の前では一度も泣かなかったじゃないか。母さんが泣くのは、いつも僕が眠った後だけじゃないか。
 僕の母さんは誰よりも優しくて強い、世界一の母さんだったよ)

「生まれてくれてありがとう。生きてくれてありがとう。…は最高の孝行息子だった」
 
(ありがとう父さん。いつだって僕を励ましてくれてありがとう。父さんの明るさと前向きさは、僕の大きな支えだったよ。
 父さんも母さんと一緒に泣いちゃうけれど、母さんの事を励ましてたの、寝たふりして聞いてたから知ってる。
 僕が死んでも、母さんを支えてあげて)

 少年の意識は、少しずつ暗闇が広がって遠くなっていく。

(ありがとう父さん。ありがとう母さん。そしてごめんなさい。親不孝な息子でごめんなさい。先立つ不孝を許して下さい)

 少年が心の中で別れを告げた時、不規則で弱弱しいリズムを刻んでいた心電図は、間延びした心肺停止音へと変わった。

「神様、どうか。どうかこの子に幸せな来世を与えて下さい」

 意識を失う直前、少年は、少年の来世を願う母の声が聞こえた気がした。
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