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閑話 親の心子知らず
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「一つ気になってた事があるんだけど、聞いていい?」
「内容によるわね。何かしら?」
ある日、永空が作った夕食をとりながら、永空は妻の美香に尋ねる。
美香が退院してからというもの、家事は殆んどを永空が行っている。
住職としての仕事もあるのに、愛する妻が心配だからと甲斐甲斐しく家事までしてくれるとは、何とも気が利く、最高の夫と言えるだろう。
妻からしたら、あまりにも何でもやってくれるから、申し訳なくなる程だ。
この夫婦は基本的に、その日に起こった事は、その日の内に包み隠さず話す事にしている。
だから気になる事と言われても、今更知られていない事なんてあっただろうか?と美香は疑問に思った。
「美香を親父に紹介した日にさ、親父の事を息子思いだ、とかって言ってたじゃん?
あれって親父から何を吹き込まれたのかなって、気になってたんだよ」
「ああ、その事ね」
まだ肌寒い春の頃。
永海が突然寺にやってきて、不覚にも寺務所で美香とキスしようとしている現場を目撃された永空。
その際、お茶を用意しに台所へ行った数分の間に、永海と美香は何やら話をしていたらしく、件の息子思いだという言葉が聞かれたのだった。
普通であったならば大して気にもしない出来事だろうが、父親が一体何を仕出かしたのか、息子として気になる所ではあった。
「お義父様も亡くなられたし、話しちゃっても良いかしらね」
「どうせさっさとあの世に行って、綺麗なお姉ちゃんと遊んでるだろうから大丈夫だよ」
永空が随分な事を言っているが、生前の永海を見ていれば、そう思えてしまうのも仕方がないだろう。
美香はしばらく考えてから、決心したように口を開いた。
「普通の事よ。永空の事をよろしく頼みますって言って、深々と頭を下げたの。
私の隣まで来て、正座して、向かい合ってから頭を下げられたから、私、本当に焦ったのよ。
貴方と結婚するんだろうなって思ってたから、こちらこそよろしくお願いしますって頭を下げたけれど。
初めて会った相手に、あんな風に頭を下げられるなんて。お義父様は立派な父親だったわよ」
「親父ぃ。うぅぅ」
永空は永海の話になると、涙腺が緩くなってすぐに泣く。
血の繋がりは無い義理の親子だったが、二人の繋がりや、父を、息子を想う気持ちは、血の繋がった親子よりも深いものだったのだろう。
素直じゃない二人だったが、こうして涙を流す孝行息子を永海はどこかで見守り、「泣いてんじゃねぇよ馬鹿息子が」とでも、軽口を叩いている事だろう。
「内容によるわね。何かしら?」
ある日、永空が作った夕食をとりながら、永空は妻の美香に尋ねる。
美香が退院してからというもの、家事は殆んどを永空が行っている。
住職としての仕事もあるのに、愛する妻が心配だからと甲斐甲斐しく家事までしてくれるとは、何とも気が利く、最高の夫と言えるだろう。
妻からしたら、あまりにも何でもやってくれるから、申し訳なくなる程だ。
この夫婦は基本的に、その日に起こった事は、その日の内に包み隠さず話す事にしている。
だから気になる事と言われても、今更知られていない事なんてあっただろうか?と美香は疑問に思った。
「美香を親父に紹介した日にさ、親父の事を息子思いだ、とかって言ってたじゃん?
あれって親父から何を吹き込まれたのかなって、気になってたんだよ」
「ああ、その事ね」
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普通であったならば大して気にもしない出来事だろうが、父親が一体何を仕出かしたのか、息子として気になる所ではあった。
「お義父様も亡くなられたし、話しちゃっても良いかしらね」
「どうせさっさとあの世に行って、綺麗なお姉ちゃんと遊んでるだろうから大丈夫だよ」
永空が随分な事を言っているが、生前の永海を見ていれば、そう思えてしまうのも仕方がないだろう。
美香はしばらく考えてから、決心したように口を開いた。
「普通の事よ。永空の事をよろしく頼みますって言って、深々と頭を下げたの。
私の隣まで来て、正座して、向かい合ってから頭を下げられたから、私、本当に焦ったのよ。
貴方と結婚するんだろうなって思ってたから、こちらこそよろしくお願いしますって頭を下げたけれど。
初めて会った相手に、あんな風に頭を下げられるなんて。お義父様は立派な父親だったわよ」
「親父ぃ。うぅぅ」
永空は永海の話になると、涙腺が緩くなってすぐに泣く。
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素直じゃない二人だったが、こうして涙を流す孝行息子を永海はどこかで見守り、「泣いてんじゃねぇよ馬鹿息子が」とでも、軽口を叩いている事だろう。
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