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第94話 孝行息子
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八月下旬。
お盆の頃に暑さのピークを超えたと言いながら、外はまだまだ、じめっとして蒸し暑いらしい。
日本の夏ってのはどうしてこうも暑いのかと、今年は殆んど日本の暑さを体感していない俺が言ってみる。
今年のお盆は忙しかったのだろうか?
お盆は一般的に八月十三日からの四日間と思われがちだが、場所によっては七月や九月に行われる地域もある。
これは地域によって旧暦を重視しているか新暦を重視しているかの違いから生まれていて、七月十三日からの四日間を新盆、八月の方は旧盆と呼ぶ。
人によっては知らなくて良い豆知識だ。
うちの寺が忙しくなるのは旧盆の時期なので、八月に入ったあたりから永空が忙しく経を唱えまくった事だろう。
俺もお前が坊主になるまでは通ってきた道だ。
来年からも頑張れ。
「婆さんや飯はまだかのぉ」
『誰が婆さんだ。ボケたフリをするのは止めろ』
確かに、ちょっとばかり古典的過ぎるボケだったかもしれない。
目を瞑って反省しながら、今度はどんなボケをかまそうかと考えていたら、ドンドンと戸を叩く音がした。
「親父ー!様子を見に来たぞー!」
「鍵開いてっから、勝手に入れ」
「はいよ」
スススと戸が開いて誰かが入って来た。
誰かって、声を聞いたら明らかに永空だけどな。
ベナン系のハーフだけあって、純日本人には無い声の太さがあるんだよ。
「寝てんのか?」
「ああ、今日はちょっとな」
ドサッと荷物を置いて、永空は俺の布団の傍にどっかりと腰を下ろした。
暑いからって甚平を着てる辺り、こいつの坊主としての心構えは足りてないと思うんだよな。
俺はお姉ちゃんのいる店に遊びに行く時はビシッと一張羅のスーツを着て行っていたが。
「大丈夫か?」
「心配する程の事でもねぇよ。
そんな事より、身重の嫁を置いて、こんな所に来てて良いのかよ」
「それこそ心配ねぇよ。まだ四ヶ月にもならねぇんだぞ?
そもそも通夜でも告別式でも寺を離れる事なんていくらでもあるってのは、親父もよく知ってるだろ」
まあ、そりゃそうなんだけどな。
「親父、やっぱ寺戻って来ねぇ?体調崩してんだろ?
ここにいたら、誰も看病出来ないしよ。ヘルパーさん雇うなりして、寺で看て貰おうぜ」
永空は物凄く心配そうな顔をしているな。
だが俺は寺に戻る気は無い。
どうしたもんかと考えていたら、ゴゴゴゴっと戸が開く音がした。
永空の視線はそちらに向き、ひたひたと足音が聞こえたかと思ったら、視界に雪女が入って来て、無言かつ無表情で永空に憑いてる震々を掴み、冷凍室に引っ込んだ。
永空は冷凍室の戸と俺の顔を、何度も交互に見る。
「親父!世話してくれるお姉ちゃんいたのかよ!
凄ぇ冷たそうな人だったけど、そうか、世話してくれる人いるのか。
物理的に凄ぇ冷たそうな人だったけど。物理的に」
まあ、冷凍室から出て来た時の雪女は、確かに冷たいかな。
どうして永空に雪女が見えてるんだ?と思ったら、化け狐が俺の顔を覗き込んだ。
どうやら、こいつが気を利かせてくれたらしい。
このまま永空が勘違いして、心配しないでくれたらありがたいって話だ。
ありがとな。
「それじゃあ、今日はこれで帰るけど、ちょくちょく様子見に来っから」
「おう、二度と来るなよ馬鹿息子」
「その呼ばれ方、懐かしいな。
具合が悪い時ぐらい息子を頼って、少しは親孝行させろクソ親父!
来週また来るからな!息子との数日振りの再開を楽しみに待ってやがれ!」
そう言い残して永空は帰って行った。
ボーっと天井を見つめてから、ゆっくりと時間を掛けて瞼を閉じる。
親孝行は、もう十分してるだろうが馬鹿野郎。
お盆の頃に暑さのピークを超えたと言いながら、外はまだまだ、じめっとして蒸し暑いらしい。
日本の夏ってのはどうしてこうも暑いのかと、今年は殆んど日本の暑さを体感していない俺が言ってみる。
今年のお盆は忙しかったのだろうか?
お盆は一般的に八月十三日からの四日間と思われがちだが、場所によっては七月や九月に行われる地域もある。
これは地域によって旧暦を重視しているか新暦を重視しているかの違いから生まれていて、七月十三日からの四日間を新盆、八月の方は旧盆と呼ぶ。
人によっては知らなくて良い豆知識だ。
うちの寺が忙しくなるのは旧盆の時期なので、八月に入ったあたりから永空が忙しく経を唱えまくった事だろう。
俺もお前が坊主になるまでは通ってきた道だ。
来年からも頑張れ。
「婆さんや飯はまだかのぉ」
『誰が婆さんだ。ボケたフリをするのは止めろ』
確かに、ちょっとばかり古典的過ぎるボケだったかもしれない。
目を瞑って反省しながら、今度はどんなボケをかまそうかと考えていたら、ドンドンと戸を叩く音がした。
「親父ー!様子を見に来たぞー!」
「鍵開いてっから、勝手に入れ」
「はいよ」
スススと戸が開いて誰かが入って来た。
誰かって、声を聞いたら明らかに永空だけどな。
ベナン系のハーフだけあって、純日本人には無い声の太さがあるんだよ。
「寝てんのか?」
「ああ、今日はちょっとな」
ドサッと荷物を置いて、永空は俺の布団の傍にどっかりと腰を下ろした。
暑いからって甚平を着てる辺り、こいつの坊主としての心構えは足りてないと思うんだよな。
俺はお姉ちゃんのいる店に遊びに行く時はビシッと一張羅のスーツを着て行っていたが。
「大丈夫か?」
「心配する程の事でもねぇよ。
そんな事より、身重の嫁を置いて、こんな所に来てて良いのかよ」
「それこそ心配ねぇよ。まだ四ヶ月にもならねぇんだぞ?
そもそも通夜でも告別式でも寺を離れる事なんていくらでもあるってのは、親父もよく知ってるだろ」
まあ、そりゃそうなんだけどな。
「親父、やっぱ寺戻って来ねぇ?体調崩してんだろ?
ここにいたら、誰も看病出来ないしよ。ヘルパーさん雇うなりして、寺で看て貰おうぜ」
永空は物凄く心配そうな顔をしているな。
だが俺は寺に戻る気は無い。
どうしたもんかと考えていたら、ゴゴゴゴっと戸が開く音がした。
永空の視線はそちらに向き、ひたひたと足音が聞こえたかと思ったら、視界に雪女が入って来て、無言かつ無表情で永空に憑いてる震々を掴み、冷凍室に引っ込んだ。
永空は冷凍室の戸と俺の顔を、何度も交互に見る。
「親父!世話してくれるお姉ちゃんいたのかよ!
凄ぇ冷たそうな人だったけど、そうか、世話してくれる人いるのか。
物理的に凄ぇ冷たそうな人だったけど。物理的に」
まあ、冷凍室から出て来た時の雪女は、確かに冷たいかな。
どうして永空に雪女が見えてるんだ?と思ったら、化け狐が俺の顔を覗き込んだ。
どうやら、こいつが気を利かせてくれたらしい。
このまま永空が勘違いして、心配しないでくれたらありがたいって話だ。
ありがとな。
「それじゃあ、今日はこれで帰るけど、ちょくちょく様子見に来っから」
「おう、二度と来るなよ馬鹿息子」
「その呼ばれ方、懐かしいな。
具合が悪い時ぐらい息子を頼って、少しは親孝行させろクソ親父!
来週また来るからな!息子との数日振りの再開を楽しみに待ってやがれ!」
そう言い残して永空は帰って行った。
ボーっと天井を見つめてから、ゆっくりと時間を掛けて瞼を閉じる。
親孝行は、もう十分してるだろうが馬鹿野郎。
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