上 下
91 / 108

第90話 クコリ来訪

しおりを挟む
 ある晩のこと。

 トントンと戸を叩く音が聞こえて、珍しく誰かが訪ねて来たのかと戸を開けたら、随分と綺麗なお姉ちゃんが立っていた。
 艶のある長い黒髪とパッチリとした二重瞼の大きな黒目に、白粉を塗った様に白い肌。
 長身でパッと目を引く花柄の、上質な着物を着ていて、芸能界にいれば女神だなんて讃えられるぐらいに整った見た目をしている。

 そのお姉ちゃんを見て、化け狐は随分と機嫌が悪そうだ。

「よう、今日は正面から来たんだな」

 俺がそう言って声を掛けると、お姉ちゃんは綺麗な顔の口元を隠して、ほほほと笑う。

「つまらんのぅ。其方、少しは妾の美しさに騙されてはどうだ?
 きっと、その方が楽しいぞ」

 そんな言葉を吐きながら、お姉ちゃんはボフンと二足で立つ狸の姿に変わった。
 先程までと同じ着物を着ていて、スタイルは変わらないのだが、顔や手足は狸のそれだ。
 こいつは二度、俺の夢に現れた化け狸のクコリ。
 化け狐とは仲が悪く、狐と狸なのに犬猿の仲って感じだ。

『さっさと去れ!狸め!』

「ほほほ。今日の妾は招かれ人よ。
 この男に酒を飲みに来いと熱心に誘われてのぅ」

 クコリは俺に近付くと、片手を胸に置き、頬を寄せた。

『貴様!離れろ!』

 化け狐が噛み付きにいくが、クコリは袖を振ってひらりと避ける。
 まるで闘牛士のような身のこなしだな。

「ほほほ。ほれ、さっさと客を家に招き入れろ。
 妾は旨い酒を所望する」

『貴様なんぞに我の酒を一滴たりとも飲ませるか!』

 クコリに背中を押されて、家の中へと押し込まれる。

「ほう、なるほどのぅ」

 何に納得したのかはわからないが、そう呟いたクコリは囲炉裏の傍に腰を下ろした。
 あそこはいつも化け狐がいるポジションだな。
 これは少々荒れそうだ。

『貴様!そこは我の場所だ!退け!』

「ほほほ。妾は客よ。この場所は妾に譲るが良い」

『ふざけるな!さっさと退け!』

 いつもはあんまり語気を強めない化け狐が、賑やかな事で。

「喧嘩するなよ。化け狐は俺の隣で良いだろ?
 それとも膝の上にでも座るか?」

『むぅ。お主がそう言うなら、別に良いが。
 膝の上は、今日は止めておく』

「ほほほ。仲が良くて羨ましいのぅ。
 それでは、妾が其方の膝の上に座るとしよう」

『貴様!それだけは許さんぞ!』

 うん、賑やか過ぎるぐらいに賑やかだな。
 二人のテンションに影響されて五人姉妹が追い掛けっこを始めたし、家鳴がバンバン家を叩くし。
 河童はキュウリ持ったまま入って来て、パリッと齧って出て行ったし。
 お前らは本当に何しに来たの?

 さっさと酒出して、二人を鎮めるとするかな。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

私の守護者

安東門々
青春
 大小併せると二十を超える企業を運営する三春グループ。  そこの高校生で一人娘の 五色 愛(ごしき めぐ)は常に災難に見舞われている。  ついに命を狙う犯行予告まで届いてしまった。  困り果てた両親は、青年 蒲生 盛矢(がもう もりや) に娘の命を護るように命じた。  二人が織りなすドタバタ・ハッピーで同居な日常。  「私がいつも安心して暮らせているのは、あなたがいるからです」    今日も彼女たちに災難が降りかかる!    ※表紙絵 もみじこ様  ※本編完結しております。エタりません!  ※ドリーム大賞応募作品!   

イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい

どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。 記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。 ◆登場人物 ・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。 ・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。 ・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。

少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜

西浦夕緋
キャラ文芸
15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。 彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。 亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。 罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、 そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。 「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」 李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。 「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」 李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

処理中です...