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第88話 かき氷

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「夏だよな」

『夏だな』

「かき氷とか食いたいよな」

『それは良いな』

「五子、かき氷機を選んで買っておいてくれ」

「うん!」

 五子にスマホを渡して、NAMZONで注文して貰う。
 近頃NAMZONで物を買う時は、もっぱら五子がスマホを操作している。

 五子は見た目や行動から、普通の人間の女の子と錯覚してしまうが、俺の情報で登録されている生体認証を平気で突破するところを見ると、やはり不可思議なあやかしであるのだと実感する。
 そもそも体重が異常に軽いので、人間である事はまず、ありえないんだけどな。

 いつもの動けない日を挟んで、かき氷機が到着したので山を下りる。
 五子に任せておけば、NAMZONの段ボールを抱えて帰宅してくれるだろうが、たまには体を動かさないと気が滅入っちまう。

 納屋に置いてあった荷物は、想像よりもでかくて重かった。
 五子がどんなかき氷機を選んだのか、チェックしていなかったが、家に持って帰ってからダンボールを開けてみると、シロクマの形をした電動かき氷機だった。

「かわいいー!」

 箱を開けて中身を取り出してやると、五子が目をキラキラと輝かせる。
 目の前にいるのが年頃のお姉ちゃんだったら、「お前の方が可愛いよ」の一言でも言っているだろうが、六歳ぐらいの見た目をした五子に対してそれを言うのは、情緒が無いってものだろう。
 それに一子も二子も三子も四子も、全員がキランキランと目を輝かせてるからな。
 座敷童とは言っても、やはり皆、女の子だ。

『さっさと作らんのか?』

「はいはい」

 化け狐は、可愛いかき氷機には全く興味を示さずに、かき氷を作れと催促する。
 五人姉妹はシロクマかき氷機を見るのに忙しそうだし、ここは俺が新作スイーツを作ってやるとしますか。

 かき氷と言えば、氷を削ってシロップを掛けて食うのが一般的だろう。
 うちには氷関係には少しばかり長けている雪女がいるし、普通のかき氷ぐらいなら一瞬で作れる事だろう。
 しかし、俺の新作スイーツは、もっと贅沢で手間の掛かるものを作る。

 まずは家庭菜園で採れた立派なプリンスメロンを半分に切る。
 この赤肉メロンが、そのまま食っても尋常じゃなく甘くて旨い。
 だから半分、化け狐に食われた。
 まあ、メロンは余るほどにあるので、気にしない事にしよう。

 半分に切ったメロンはスプーンで種を取り除いて、更に四分の一にして、少し厚めに皮を剥く。
 皮が向けたら、四等分にカットしてボウルに入れ、全てを切り終えたら雪女に頼んで瞬間冷凍。
 これでかき氷の下ごしらえは完了だ。

「ふぅ、手間の掛かる料理だぜ」

『メロンを切っただけではないか』

 やってやった感ぐらい、出させてくれよ。

「氷の準備が出来たから使ってみようぜ」

 俺が声を掛けると、シロクマかき氷機を囲んで触っていた五人姉妹が、目を輝かせながら一列に正座をした。
 そんなに畏まって見る様なもんか?

 蓋を外して凍らせたメロンを入れ、受け皿を持ったらスイッチを入れる。
 ガリガリと削られたメロンが皿に落ちるので上手いこと受け皿を動かして、こんもりと氷の山を作った。
 スプーンで掬って食ってみると、シャリっとした食感と冷たさで、普通に食うのとはまた違った味わいを感じられた。
 練乳でも掛けてみようかと考えていたが、このままで十分に甘いから、掛けると甘くなり過ぎるかもしれない。

『普通に食うのと違って、これはこれで旨いな』

 化け狐も一口食ってから、目を細めてご満悦だ。

「おいしいね!えらいえらい!」

 五人姉妹は旨そうにかき氷を食ってから、揃ってシロクマのかき氷機をよしよしと撫でる。
 なんて微笑ましい光景なのだろうか。

 その後、五人姉妹はかき氷が余程気に入ったのか、少し教えただけで上手にメロンを切れるようになった。
 この経験を是非、普段の料理にも生かして欲しいものだ。

「私の分はどこだ?」

 すまん雪女、今日あったメロンは全部皆が食い尽くしたよ。
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