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第44話 早過ぎる収穫

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 毛玉が仲間に加わってから二週間。
 我が家の家庭菜園が、またとんでもない事になっている。

「トマトがもう食えそうだな」

『良く熟しているから、甘くて旨いぞ』

 早速食ってるよ化け狐。

 毛玉が来た日に種蒔きをした訳だが、それらの野菜が既に収穫の時を迎えている。
 と言うか、これ以上放置するとトマトなんかは熟れ過ぎてグジュグジュになりそうだ。
 それだけ丸々と膨らんだで艶のある見事なトマトが生っている。

「俺も食ってみるか」

 旨そうなのを選んだら、ハサミでパチンと茎を切る。
 持っただけでもズシリと重みがあって皮の張りが凄い。

 作務衣で磨いてガブリと噛むと、中からジューシーな果汁が溢れ出した。
 普通のトマトの種を買って来た筈なんだが、甘みはフルーツトマトに引けを取らない。
 歯を立てればプツリと切れる皮、十分に熟れた柔らかい果肉。
 クニュンとしたゼリーは程好い酸味が果肉の味わいを引き立てていて、生のトマトで感じる青臭さは一切感じさせない。

「これは旨いな」

『そうであろう』

「どうしてお前が誇らし気なんだよ」

 畑作りの中心は加夫羅太伊。
 種蒔きは俺。
 成長の加速と味を良くしたのは、多分毛玉。
 化け狐はどう下駄を履かせても、スペシャルサンクスぐらいのポジションだろう。

「まあいいや。とりあえず気の済むまで食ったら収穫しちまおう」

 見た感じ、キャベツとダイコンとカブはもう収穫出来そうだ。
 ニンジンはもう少し掛かりそうで、ニンニクはまだまだだな。

 トマトだけ異様に早い気がするのだが、もしかしたら誰かさんの気持ちを汲んで、毛玉が成長を加速させてくれたのかもしれない。
 やっぱり化け狐はスペシャルサンクスで良さそうだ。

「トマト、無くなったな」

『旨いから仕方が無かろう』

 冬に家の外へ出られる様になった座敷童の五人姉妹は、今まで囲炉裏で調理した料理しか食わなかったんだが、トマトには興味を示して食い始めた。
 更にまた少し大きくなった狼もしれっと齧り。
 部屋からあまり出たがらない雪女まで、震々を引き連れて外に出て、トマトを捥いで食いだした。
 足下に何かいるなと思ったら、小さい鬼の見た目をした家鳴まで集まって数人でトマトを捥いで帰っていく。

 そんな感じで大人気のトマトは、まだ熟れていない青い実を残して、全て食い尽くされたのであった。
 最後の一個は五子が両手で掴んで、子供が大好きなお菓子を食べる様に、少しずつ大事そうに齧っている。
 やはり五子の笑顔はほっこりするな。

 トマトには目もくれずにキュウリをムシャる河童達だけはブレないよな。

 暑さでダウンした雪女以外の皆で、食べられそうな野菜を全て収穫した。
 外はまだまだ肌寒いぐらいなんだが、体を動かしたので体感温度は少し暑いぐらいだ。
 明後日以降に訪れるであろう筋肉痛が怖いが、たまには体を動かすのも悪くない。

 爽やかな春の空を見上げてみれば、橙色と青色の火の玉が幾つも浮かんでいる。
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