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第29話 新年のご挨拶

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 年が明けた。
 結局ゆく年くる年ごっこをやったら直ぐに寝ちまって、目が覚めたら既に日が出ていた。
 昨年までは毎年毎年、日の出を見る羽目になっていたのを考えると、山暮らしを始めた事を改めて実感する。

 元旦の寺は多かれ少なかれ初詣に参拝客訪れるので、朝から賑やかになる。
 朝からというのは間違いだな。
 寺によっては年末の夜から参拝客が押し寄せるので、大変な混雑になっている。
 うちの寺はそこまででもないので、ここ二十年は馬鹿息子に投げっ放しだったが。

 それでも朝になればそれなりに賑わう。
 うちの寺では、年始はアルバイトを雇うのでグッズ販売やおみくじは全てアルバイトに任せてしまう。
 毎年来てくれるベテランスタッフに任せておけば上手く回してくれるので、殆んど問題は起こらない。
 御守りやら絵馬を売る事を“グッズ販売”と言ってるのは親父ぐらいだと馬鹿息子には言われたっけな。

 横のつながりがあって、坊主が浮いていると忙しい寺の手伝いに行かされる。
 なので上手いこと予定を入れて回避しつつ、年始はゆっくり過ごすのがうちの寺のスタイルだった。

『お主は童の頃から本当に狡賢かったな』

「煩いよ。世渡り上手ってやつだろう。
 元旦から面倒な仕事を押し付けられてたまるか」

 自分とこの寺と檀家は良いんだが、他人様のテリトリーってのは少しばかりやり辛いんだよ。
 何処に何があるかの把握も出来ておらず、道を聞かれたって正確には答えられない。
 参拝客からしたら、坊主は全員その寺の坊主だと思ってるからな。
 実は他の寺の坊主で、ヘルプに来てるんですよ、なんて言っても通じる筈もない。

 だから俺は出来るだけ他の寺へ手伝いに行くのは遠慮していた。
 他の寺を訪れる時には、帽子ぐらいは被りたいものだ。

 さて、別に必要も無いのだが、馬鹿息子にメッセージの一つでも送っといてやるか。

『謹んで新春のお慶びを申し上げます。
 酒を担いで山を登ると恋愛運が上がると胡散臭い占い師に聞いた事があるので、酒を持って来て下さい。
 何なら下まででも良いのでよろしく』

「送信っと」

 これで馬鹿息子への連絡は完璧だな。
 一応爺にも送っておくかな。

『謹んで新春のお慶びを申し上げます。
 ガソリンが切れそうなので少し買っといてくれると助かる』

「送信っと」

 ガソリンってのは酒の事だ。
 ずっと部屋に籠ってると、酒の消費が早くなっていかんよな。

 あとはお姉ちゃん達にも送っとくか。

『あけおめことよろ。
 馬鹿息子に寺を乗っ取られました。
 拙僧はもう一文無しなので、代わりに馬鹿息子と仲良くしてやって欲しい。
 馬鹿息子、結婚相手募集中。
 生活の安定は保証』

「送信っと」

 これで少しでも馬鹿息子がお姉ちゃん達と仲良くなってくれると、父親としては安心だ。
 金の掛かるお姉ちゃんばっかりだけどな。

 ピロン

 おっと、馬鹿息子から返信が届いた。

『謹んで新春のお慶びを申し上げます
 存在しない架空の占い師の話をしだしたら、親父ももうお終いだな
 酒は無いけど餅はあるが持って行くか?』

 餅か。
 餅は化け狐が好きだから貰っておくかな。

『冷凍出来るから軽トラに満載して持って来てくれ』

『そんなにあるか!
 時間がある時に爺さんに渡しておく』

 化け狐なら軽トラ一台分ぐらいはペロっと食いそうなんだが残念だ。

 ピロン

 今度は爺から返信だな。

『明けましておめでとう。今年もよろぴく。
 ガソリン補充済みオーバー』

『頼りになる爺だぜオーバー』

 酒が切れる前に一度山を下りるとよう。

 ピロン ピロン ピロン

 おっとお姉ちゃんから続々と返信が。

『息子君はケチだからちょっと、、、』

『嫌いじゃないけど男としてはみれないかなー』

『見た目は好きだけど性格が絶望的に合わないかも』

 息子よ。
 俺は力になれそうにないが強く生きろ。
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