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第22話 親の心配、息子の心配

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 あやかしを見える人間と見えない人間ははっきりと分かれている。
 見える側の俺はあやかしを側に置いていると存在があやかしに引っ張られてしまう。

 しかし見えない馬鹿息子はあやかしが側にいようとも大きな影響を受ける事は殆んど無い。
 だから例え囲炉裏の前に座る馬鹿息子の左右を一子と二子が固めて、膝の上に三子が座っていて、首に腕を回して四子が後ろから抱き着いていたとしても、気付く気配はまるでない。
 若い娘達に溺愛されるパパみたいな、見る者によっては大変にうらやまけしからん状況であったとしても、馬鹿息子は全く気付かない。

 因みに五子は俺の膝の上に乗っかっていて、爺ちゃんと孫って絵面なので犯罪臭はまるでしないな。

『酒を飲みたい。グラスを用意しろ』

 こんな事を言ってくる化け狐の声も、当然馬鹿息子には聞こえていない。
 どちらが良いのかは難しい所だが、俺はあやかしが見えた方が日々バラエティに富んだ驚きがあって楽しいと思っている。 

 だって美少女に囲まれる馬鹿息子の図が、犯罪臭しかしなくて面白過ぎる。
 純日本人の俺ならまだしも、血の繋がりをまるで感じないからな。
 娘でない少女に囲まれる坊主って生臭坊主どころか犯罪坊主だろこれ。

 こっそりと化け狐のグラスを用意しながらプークスクスしていると、馬鹿息子が真面目な顔をして俺の顔に目を向けた。
 この顔は、どうやら何か話でもあるのかもな。

「親父さ、山なんか籠ってないで結婚相手探せよ」

 唐突に馬鹿息子がそんな事を言ってきた。
 まぁ結婚相手を探せってのは何年も前から言われていたから驚きは無い。

「俺は結婚はいいんだよ。
 こんな老い先短い爺と結婚したいお姉ちゃんなんていねぇだろ」

 俺の返事は毎回同じだ。
 そもそも毎晩バンバン家が叩かれてる音がするとか、マトモな神経してたら逃げ出すだろう。
 見えない側の人間は直接の影響は無くとも、自分以外への物理的な影響に関しては例外だ。

 あやかしが家を叩く音は聞こえるし、木が倒れる音なんかも聞こえる。
 特にうちのあやかしは音だけじゃなくて、リアルに木を倒してまとめておいてくれたりするので、不可思議現象のオンパレードだ。
 そんな家に住みたいのはオカルトが大好物な電波系女子だけだろう。
 そういうタイプはちょっとご遠慮願いたい。

 どちらにしても俺は、結婚する気はないけどな。

「いや、何人か寺にも若い女の子が訪ねて来たぜ?
 奥さんがいれば何かあった時も人呼べるしさ。」

 そいつは光栄な話だが、どちらかと言えば金を落とす常連に戻って来て欲しいって事だろう。
 聞いた所で俺の決意を揺るがす程の話ではないな。
 俺の心配をするのは良いが、寧ろ俺の気掛かりは馬鹿息子の方だ。

「そんな事よりお前だろう。 
 さっさと結婚しろよアラウンドフォーティー童貞坊主が」

 こいつは俺と違って夜の街に繰り出してお姉ちゃんと遊んだりしないんだよな。
 浮いた話の一つも聞いた事がない。
 だから実は魔法使いなんじゃないかって疑惑を持っている。

「童貞じゃねぇし!親父が再婚してからって考えて機を窺ってただけだし!」

 必死に否定するのが嘘臭いな。
 と言うかこいつ、そんな事気にしてたのかよ?
 馬鹿みてぇだな。

「だったらもう結婚出来るだろう。
 お前は養子だし俺は未婚だぜ?
 俺が生きてるうちに孫ぐらい抱かせろよ」

 こいつは放っておくと俺みたいに結婚しなさそうだからな。
 爺っぽい事を言ってケツを叩いとく。

「ああ、うん。まあ、そうだな。
 血の繋がりも無いのに育てて貰った事は感謝してるよ。
 親父がくたばるまでには結婚するわ」

 そう言って馬鹿息子は布団も使わずに囲炉裏の側で寝た。
 うちの座敷童四人娘に添い寝されて、犯罪臭が部屋中に充満してるのが面白過ぎる。

 しかし俺が生きてる内に結婚するか。
 どんな面白い嫁を見つけるのか、少しばかり期待をしておく事にしよう。
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