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第10話 生臭坊主、読経する
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「まかはんにゃぁはらみったしんぎょぉぅ。
かんじぃざいぼぉさぁぎょうじぃはんにゃぁはぁらぁみぃたぁじぃ」
何だか家鳴達が、予想外に気合いを入れて小屋を家にリフォームしてくれたので、気分の良くなった俺は、思わず十八番の歌を口ずさんでしまっている。
経は歌だぞ。
だってサブスクにだって経はあるじゃないか。
日本人はそうは思わないかもしれないが、海外から見れば日本の経は、日本の民族音楽だ。
日本人だって、チベットの経は仏教音楽として捉えるのだから、それと同じだ。
経と言えば仏具を。
特におりんと木魚を想像するだろうか。
経を唱える前にチーンとおりんを鳴らし、ポクポクと木魚を鳴らしながら経を唱える。
知らない者からしたら、坊主が経を唱える場合の作法として、あれらの仏具は特別な意味を持つ必須アイテムだと思うだろうか。
実際のところ、あれらの仏具は経を唱える上では、大して重要な意味は無い。
あくまでも経を唱える上で、であって、仏壇の前で手を合わせる時におりんを鳴らすのには、意味があるのだが。
経を読む上でおりんを鳴らすのは、経の調子を合わせる目的だ。
チーンと鳴らした音程に合わせて経を唱える。
だから楽器で言うところのピッチパイプや、ピッチフォークのような物だと考えれば良い。
故にお洒落でやたらと高音の鳴るおりんが置かれていたりすると、幼児向けの音程で始めなければならなくて、ちょっとばかり困っちゃったりする。
俺はおりんの音程を無視して、いつもの調子で唱える派だったが。
そして木魚の方だが。
木魚叩く目的はリズムをとるのと、眠気覚ましだ。
つまり木魚は、ほとんどドラムみたいなものである。
おりんは調子を整える為、木魚はリズムを刻む為。
この二つの仏具は、経を唱える上で用意出来ていたら理想的だが、経を唱え慣れている坊主からしたら、別に無くても構わない楽器である。
『お主は本当に風情が無いな』
なんて事を言ってくるのは、あやかしである化け狐だ。
あやかしが経に風情を求めるなんて、馬鹿げているとしか言いようが無い。
因みに一般的な認識では、死者を成仏させるのに経を唱えていると思われがちだが。
『そんな効果がある筈なかろう。
経であやかしや霊を祓う事が出来るのならば、我の仕事は随分と楽になったであろう』
そういう事だ。
そもそも経は、お釈迦様の教えをまとめたものであって、死者や霊の類を成仏させるだなんて何処にも書かれていない。
もしもそんな効果があるのだとしたら、住職の俺の周りは霊にとっての成仏聖域となっている筈。
今頃は、徳がスカイツリーの如く積み上がっていた事だろう。
『しかし、お主が真面目に経を唱えるとは珍しいな』
寺で住職をしている間は、毎朝唱えていただろうが。
『半分寝ながらだったがな』
寝ながら経を唱えられる様になって、初めてプロの坊主になれるんだよ。
『この生臭坊主め。
まあしかし、我はお主の経が好きだぞ。調子が良い』
そうかい。
だったらくたばるまでは毎朝経を唱えようかね。
『うむ、そうすると良い』
坊主ってのは、こんな風に化け狐と頭の中で会話しながらも、普通に経を唱えられてこそだよな。
因みに俺は死んでも、極楽浄土になんて行く気は無い。
だから、本当の意味での生臭坊主かもしれんな。
かんじぃざいぼぉさぁぎょうじぃはんにゃぁはぁらぁみぃたぁじぃ」
何だか家鳴達が、予想外に気合いを入れて小屋を家にリフォームしてくれたので、気分の良くなった俺は、思わず十八番の歌を口ずさんでしまっている。
経は歌だぞ。
だってサブスクにだって経はあるじゃないか。
日本人はそうは思わないかもしれないが、海外から見れば日本の経は、日本の民族音楽だ。
日本人だって、チベットの経は仏教音楽として捉えるのだから、それと同じだ。
経と言えば仏具を。
特におりんと木魚を想像するだろうか。
経を唱える前にチーンとおりんを鳴らし、ポクポクと木魚を鳴らしながら経を唱える。
知らない者からしたら、坊主が経を唱える場合の作法として、あれらの仏具は特別な意味を持つ必須アイテムだと思うだろうか。
実際のところ、あれらの仏具は経を唱える上では、大して重要な意味は無い。
あくまでも経を唱える上で、であって、仏壇の前で手を合わせる時におりんを鳴らすのには、意味があるのだが。
経を読む上でおりんを鳴らすのは、経の調子を合わせる目的だ。
チーンと鳴らした音程に合わせて経を唱える。
だから楽器で言うところのピッチパイプや、ピッチフォークのような物だと考えれば良い。
故にお洒落でやたらと高音の鳴るおりんが置かれていたりすると、幼児向けの音程で始めなければならなくて、ちょっとばかり困っちゃったりする。
俺はおりんの音程を無視して、いつもの調子で唱える派だったが。
そして木魚の方だが。
木魚叩く目的はリズムをとるのと、眠気覚ましだ。
つまり木魚は、ほとんどドラムみたいなものである。
おりんは調子を整える為、木魚はリズムを刻む為。
この二つの仏具は、経を唱える上で用意出来ていたら理想的だが、経を唱え慣れている坊主からしたら、別に無くても構わない楽器である。
『お主は本当に風情が無いな』
なんて事を言ってくるのは、あやかしである化け狐だ。
あやかしが経に風情を求めるなんて、馬鹿げているとしか言いようが無い。
因みに一般的な認識では、死者を成仏させるのに経を唱えていると思われがちだが。
『そんな効果がある筈なかろう。
経であやかしや霊を祓う事が出来るのならば、我の仕事は随分と楽になったであろう』
そういう事だ。
そもそも経は、お釈迦様の教えをまとめたものであって、死者や霊の類を成仏させるだなんて何処にも書かれていない。
もしもそんな効果があるのだとしたら、住職の俺の周りは霊にとっての成仏聖域となっている筈。
今頃は、徳がスカイツリーの如く積み上がっていた事だろう。
『しかし、お主が真面目に経を唱えるとは珍しいな』
寺で住職をしている間は、毎朝唱えていただろうが。
『半分寝ながらだったがな』
寝ながら経を唱えられる様になって、初めてプロの坊主になれるんだよ。
『この生臭坊主め。
まあしかし、我はお主の経が好きだぞ。調子が良い』
そうかい。
だったらくたばるまでは毎朝経を唱えようかね。
『うむ、そうすると良い』
坊主ってのは、こんな風に化け狐と頭の中で会話しながらも、普通に経を唱えられてこそだよな。
因みに俺は死んでも、極楽浄土になんて行く気は無い。
だから、本当の意味での生臭坊主かもしれんな。
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