【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

張形珍宝

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第8話 あやかしは気持ちを汲む

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「俺と化け狐に座敷童が4人か。流石にちょっと狭いよな」

『追い払わなければ、これからもっと増えるぞ。
 改築するなり増築するなり、早くせんか』

 化け狐と座敷童の間に入って、囲炉裏を囲む。
 冷房は点けていないのだが、何故だか暑く感じないのは、姿を見せないあやかしが家の中を冷やしているのだろう。
 と言うか、床に漂うこの白い冷気みたいなのも、あやかしなんだろうな。

 基本的にあやかしは、俺の為に動いてくれるらしい。
 子供の頃から怖い思いは一度もした事がなく、化け狐と契約するまでは寧ろ快適で仕方が無かった。
 そうやってあやかしと触れ合う時間が長くなるから、自分の存在もあやかしに引っ張られていくんだろうが。

『童は特にこちら側に引っ張られやすい。
 あのまま我と契約しなければ数年も待たずにこちら側だ』

「はいはい。感謝してますよ」

 小屋まで背負ってきたリュックから、酒瓶とグラス二つを出して酒を注ぐ。
 化け狐は酒なら何でも好きだが、特に好むのはウイスキーだな。

「ああ、雪女とかいれば綺麗な丸氷も作って貰えるのか?」

『それは良いな。奴らも夏は暇しておるし、その内に寄って来るだろう』

「いや、あんまり何人も来られても困るんだけど。一人で良いぞ一人で」

 既に我が小屋には座敷童が4人もいるのだ。
 雪女まで何人も集まられたら堪らない。
 まあ、外にかまくらでも作って寝泊りするのであれば、何人いても別に構わないが。

『ふん。そうやって何でもかんでも受け入れるのは好かんがな。
 そんな事よりもさっさと酒を飲むぞ。
 お主が焦がれた隠居生活を祝って』

「これから先の楽しいスローライフを願って」

『「乾杯」』

 まだまだ昼にもならない時間から化け狐と酒盛りをして、案外と疲れていたのか、夜にはいつの間にか眠ってしまっていた。
 夜中に一度目を覚ましたら、化け狐の横っ腹を枕にしていたが、気持ちの良い感触で寝心地が良く、即座に二度寝してしまった。
 外が何だかカンカン煩かったが、それはあまり気にならなかった。

 それで翌朝の事だ。

「小屋の前が滅茶苦茶開けてるな」

『夜中にあやかしが何かやっておったからな』

 夜中にカンカンと木を切る様な音をさせるのは、古杣とかいうあやかしだろうか。
 しかしあれは確か、音だけ鳴らすあやかしだと聞いた筈なのだが。

「切った木が枝を落とされて、丸太に変わってるな」

『昨日我が改築を勧めて、お主が内心で同意したから頑張ったのだろう。
 お主は本に、あやかしに愛される体質だからな』

「そういうもんか?
 おい、木を切った奴はまだいるか?ありがとうよ。感謝する」

 そう言ってコップに酒を入れて翳してやったら、少しばかり嵩が減った。
 どうやらまだ残っていたらしい。

 俺にも見えないあやかしは、隠れてるか姿を現さない奴だ。
 そういう奴らには、こうして気持ちを汲んでくれたことに、感謝を伝えるしか出来ない。
 今まで化け狐に追い払って貰っていた分、隠居した身となったこれからは、化け狐以外のあやかしとも、ちゃんと付き合っていこうと考えている。

「ついでに皮剥いで、乾燥までやっといてくんねぇ?」

『おい!』

 化け狐からは、全てをあやかしにやらせるつもりかと怒られたが、昼には生材から乾燥材に変わっていた。
 どうやら俺の気持ちを汲んで誰かがやってくれたらしい。
 あやかしへの感謝は募るばかりだ。
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