異世界ダンジョン【ラブホテル】~ダンジョンマスターに転生したので異世界でラブホテル経営してみる。破茶滅茶転生者のちょっとエッチなスローライフ

張形珍宝

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ラブホテル in エライマン

従魔はご主人様に恋をする①

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「足りてないなぁ」

 ここはラブホテルのあるダンジョンの最上階層マスタールーム。
 ダンジョンマスターのアイトは何やら首を傾げている。

「何がですか?」

 時間は昼下がり。
 フロント業務を終えたエマは3時のおやつのカステラを食べながら興味無さげに尋ねる。

「いや、何がってのはわからないんだけど何かトリッキーなイベントが起こりそうな予感がするんだよ」

 アイトはエマにそう言って説明をするが。

「ふぅん」

 エマは少しも興味が無さそうに返事をした。

「マスターの予感は当たりますからね」

 ヒショは顎を指で抓んで小さく頷く。
 アイトの予感が的中したケースは500回に1回ぐらいだが。
 そもそもの試行回数が多過ぎるので。

「そうなんだよ。何かイベントが発生しそうな気がするんだけど何なんだろうなぁ」

 アイトは真剣に悩んでいる様子で首を傾けるが。

「ふぅん」

 もう毛ほどの興味もないエマは適当に相槌を打ってワンポの口にカステラを投げ入れたのであった。


 従魔士という言葉をご存じだろうか?
 若しくは魔物使いでも良い。

 冒険者の中には従魔士と呼ばれる者達がいる。
 従魔士は魔物と契約を交わし魔物を従える者。
 契約を交わした魔物は従魔と呼ばれ。
 従魔との信頼関係を築き、従魔を育てて魔物と戦わせたり。
 人には不可能な範囲を従魔に警戒させたり。
 個人の力ではなく従魔の力を使って依頼を熟す者達の事である。

 ランドソープ王国のエライマン領都にもそんな従魔士の冒険者が存在する。

 従魔士の名はマイヤ。
 茶髪のおさげ髪で顔立ちは整っているが素朴な顔をした眼鏡の少女である。
 少女とは言っても成人はしているので女性と表現する方が正しいかもしれないが。

 マイヤは冒険者ギルドで受注した依頼を熟す為に森の中を移動していた。
 生成り色のシャツに濃紺のズボン。
 背中に麻布の背嚢を背負っているのがいつもの彼女のスタイルだ。
 装備は肘当てと膝当てに僅かばかりの膨らみしか無い急所を守る胸当てで、武器は持っていない。
 そして手には従魔に着けた首輪のリードを持っている。

 マイヤは依頼の場所まで従魔の背中に乗って移動をする。
 従魔に乗って移動する従魔士は多い。
 馬系の魔物は基本だが、狼系や犬系や猫系の魔物でもある程度大きな魔物になれば背中に乗る事が可能だ。

 魔物は動物よりもパワーがある。
 体内に魔石と呼ばれるエンジンを持っているので、動物とはそもそもの馬力が違う。
 だから人一人を乗せたところで。
 プニータくらいでかいとちょっと厳しいかもしれないが、人一人乗せるぐらいなら大した負担にはならないのだ。

 マイヤも人を背に乗せて歩けるタイプの魔物を従魔にしている。

 オークだ。
 マイヤの従魔はオークだ。
 二足歩行の豚面でお馴染みのオークだ。
 マイヤは豚面の背に乗って移動しているのだ。
 豚ではない。
 豚面だ。
 そこを間違えてはいけない。

 オークは人間の美醜の基準だと醜いと言われている魔物である。
 大柄の体躯にでっぷりと出た腹もそうだが。
 特に人に忌避されるのは凶悪そうな豚面だ。
 鋭い目に大きな口と鋭い牙。
 特徴的な潰れた鼻とダルんとした顔面の肉。

 オークの見た目は醜くもあり恐くもあり、戦いを生業にしない人間であればオークに睨まれれば腰を抜かして粗相をしてしまうだろう。
 失禁と言ってもお漏らしと言っても良い。
 とにかくそれ程に人に恐怖を与える顔面をしているのだ。

 マイヤのオークはにっこにこで随分と優し気な顔に見えるが。

 マイヤがオークと出会ったのは1年前のこと。
 当時マイヤは新しい従魔を探していた。
 それまではゴブリンを従魔にしていたのだが、ゴブリンは寿命が短いし乗れない。
 その上、隙を見せると乗ろうとしてくるので従魔としては非常に危うい魔物だった。
 寝ていると直ぐに乗ろうとしてくるから危険だった。
 乗れないくせに。
 代わりに簡単に従魔契約を交わせるのだが。

 第68代ゴブリンが死んだので新たな従魔を探していたマイヤだが、中々契約を交わせそうな魔物は現れなかった。
 どうせなら乗れるタイプの従魔が欲しかったし。

 そもそもマイヤの従魔士としての実力はそれほど高くはない。
 乗れるタイプの従魔となると体長2mぐらいは最低限欲しい。
 体長2m級で4足歩行で背中に棘とかが生えていない魔物を探して歩き回った森の中で。
 マイヤは条件に合致する魔物に出会った。

 醜い豚面で立派な体躯。
 しかし何処か優し気な表情をしていて這い這いしているその魔物に。
 マイヤは跨り、即座に従魔契約が結ばれた。

 マイヤは従魔にブッタと名付けた。

 そんな運命の出会いから早一年。
 マイヤとオークのブッタは仲良く冒険者を続けている。

 ブッタは優秀だった。
 這い這いなので移動速度はマイヤが歩くのと大差無いが、何より移動が楽になり。
 ゴブリンとは違ってそれなりに強い魔物なので仕事の幅が広がった。
 街から離れる程に魔物は強くなるのだが、ブッタが倒してくれるので行動範囲も広がり、受けられる依頼も随分と多くなった。

 オークは大柄で食費が掛かると思われがちだが、そこらで捕まえたゴブリンを丸ごと食べれば3日はもつので案外維持費は掛からない。
 ブッタは気性も穏やかだし、かと言ってマイヤに害をなす魔物には勇敢に立ち向かってくれるし。
 リードを引っ張って軽く首を絞めればスピードアップしてくれるし。
 マイヤにとっては理想的な従魔だった。

『そろそろ依頼の村だっぺ?』

「うん。ここからは歩いて向かおうか」

 従魔士には従魔と会話が出来る者がいる。
 数自体は多くないが、彼ら彼女らは従魔の話す言葉を理解して意思疎通が取れるのだ。
 この能力は従魔士に特別な力があるのではなく、従魔士と従魔の信頼関係や結びつきの強さで出来る様になるのだろうと言われている。
 マイヤとブッタの場合は契約から3日もすれば普通に会話をしていたが。
 それだけ1人と1体の相性が良い証明だろう。

「冒険者ギルドから魔物の討伐依頼で来ました」

「おう、助かるよ。ってうわぁ!く、食われるう!」

「この子は従魔のブッタです。大人しい子ですしゴブリンしか食べないので安心して下さい」

「ゴブリンは食うのかよ、、、」

「はい、そりゃあもう頭からゴリゴリと」

 エライマンの街では気にする者もいないが、依頼で初めて訪れた村だとこうしたやりとりが毎回起こる。
 一々説明するのは面倒なのだが、オークは村人にとって身近な驚異なのでこの反応になるのも仕方が無い。
 冒険者ギルドの定める討伐ランクでもDランクなので、村人風情が太刀打ちできる魔物ではないのだ。

「ありがとう助かったよ。そっちのオークも強いし礼儀正しいんだな」

「いえいえ。この子は優しくて良い子ですけど、普通のオークは危険な魔物ですから注意して下さいね」

 ダイジェストにする必要も無く、畑を荒らしていたボアをブッタがどっせぇい!してサラッと依頼は完了した。
 依頼票に完了のサインを貰う時に毎回オークに対する好感度が上がった様な発言をされるのだが、ブッタが特別なだけだと言って釘を刺すのを忘れない。
 従魔士にとって従魔の安全性を認識して貰うのは喜ばしい事だが、従魔でない魔物は多くが人間の驚異となるのだ。
 そこを勘違いされては困る。

 依頼を終えたマイヤはブッタの背に乗ってエライマンの街へと戻る。
 このままのペースだと野営になりそうなのでリードを引っ張るとブッタはブヒブヒ言いながら猛烈にスピードアップしてみせた。
 倍速以上のスピードだ。

 そんなに早く帰りたいなら背負って走れば良いじゃないか。
 おんぶでは駄目なのか。

 それでもマイヤは頑なに二足歩行をさせようとはしない。
 傍から見れば異常過ぎる光景だが、マイヤは気にする様子が無い。
 従魔士をしている限り他人から好奇の目を向けられるのは避けられないのだ。
 そんな事を気にしていたら従魔士なんてやってられない。

 マイヤの場合は連れているのがゴブリンやオークだから好奇の目を向けられているのだが。

 街が見える距離まで来たらマイヤはブッタの背から降りる。
 別にリードが無くてもブッタは逃げやしないがリードを引っ張って街へと向かおうとすると、ブッタはマイヤの正面に回って顔を見上げ。

『おで!おで、ご主人様が好きだ!』

 突然に、唐突にマイヤへの想いを告げた。
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