異世界ダンジョン【ラブホテル】~ダンジョンマスターに転生したので異世界でラブホテル経営してみる。破茶滅茶転生者のちょっとエッチなスローライフ

張形珍宝

文字の大きさ
上 下
71 / 110
ラブホテル in エライマン

蒼剣リーダーは男を見せる②

しおりを挟む
 アンドレアがスミスの謝罪を受け入れて。
 二人は酒場のテーブル席に着いた。
 スミスは休息宿ラブホテルについてエライマンへ行った経緯を説明し。
 今は冒険者をしながらラブホテルの用心棒として働いているのだと話した。

 冒険者活動は殆んどしていないし、用心棒としても最近一度だけ迷惑客を取り囲んだだけで手を出さずに終わったけれども。

「あの塔の用心棒だなんて出世したのね。良かったじゃない」

 アンドレアはそう言って微笑んだ。

 金髪碧眼で前髪を掻き上げた長身美人。
 アンドレアは一見気が強そうに見えるが、見た目と違って性格は穏やかで優しい。
 年齢はスミスの方が上なのだが、同年代か少し年上と話している様な印象を与え。
 彼女の前だとスミスはいつもよりも饒舌になってしまう。

 見栄を張りたくて少しぐらいの嘘は口から漏れてしまうぐらいに。

「いや、ラブホテルは本当なら俺達なんていなくても問題はないんだよ。だから名ばかりの用心棒さ」

 但し、今日は申し訳ない気持ちの方が強いのでスミスも正直な様だが。

「ちょっと待っててくれる?」

 アンドレアはそう告げて席を立ち。
 酒場の厨房へと向かった。
 すると何かを焼く音が聞こえて来て、肉を焼いた良い香りもしてきた。

「お待たせ。早めの昼食の時間だったのよ。貴方もどうぞ」

 厨房から戻って来たアンドレアはウルフ肉のステーキが載った皿を二人分席に運んだ。
 ステーキと野菜のソテーと黒パンがワンプレートになっていて、ワインの入った木のジョッキも並ぶ。
 スミスは有難く頂く事にしてアンドレアとの食事を始めた。

 ウルフ肉のステーキはラブホテルで出て来る料理やマシマシオーク亭で食べられる料理と比べたらシンプルで味気無い味わいだったが、この時のスミスにとってはとても美味しく感じられた。
 とんでもないやらかしをした自分を責める事もせずに優しく許してくれたアンドレアが作った料理だからだろう。

「旨いよ。アンドレアは良いお嫁さんになるな」

 スミスが素直に感想を溢し。

「何言ってるのよ」

 アンドレアはスミスの肩を軽く叩いた。
 お世辞か冗談として流した風にも感じるが、少しばかり嬉しそうでもある。

 二人は丸テーブルに隣り合って座り、会えない間に何があったか。
 冗談なんかも交えながら楽し気に笑い合い語り合った。
 アンドレアはいつも食べている料理が、何だかいつもよりも美味しいと感じていた。

 食事が終わると、そろそろ昼の営業が始まる時間だ。
 スミスはまた夜に会おうと告げて店を出ようと考えたのだが。

「着いて来て欲しい所があるの」

 アンドレアはスミスの袖を引き。
 真剣な表情を向けた。

「ああ、それは構わないが。店の方は大丈夫なのか?」

 スミスは心配げに言い。

「店主に聞いてみるから」

 そう言って振り返ると、厨房の入口にスキンヘッドの男が立っていた。
 どう見ても堅気の人間には見えないが。
 彼がアンドレアの働く酒場の店主である。
 どう見てもヤーサン男爵に仕えるチンピラにしか見えないが。

「どうせ最近は客も減ったからお前がいなくても問題ない。行ってこい」

 ニカッと笑ってアンドレアを快く送り出した店主は。
 やっぱり堅気人間には全く見えなかった。

 酒場を出て。
 スミスはアンドレアの後をついて行く。
 二人の間に会話は無い。
 何故だかアンドレアは神妙そうな顔をしていて。
 先程までの楽し気に話していた時とは醸し出す雰囲気が異なるのだ。

 スミスはアイトの影響を受けているので、ちょっとユーモアを挟んでアンドレアを和ませようかとも思ったのだが。
 アイトと違って普通に空気は読むので下手にボケるのは止めておいた。
 アイトは空気を読めない訳ではなく、読んだ上で無視するのだが。
 あの境地にスミスはまだ達していない。

 言葉を交わす事なく歩いているので二人の歩みは早い。
 アンドレアは焦っているかの様に大股で歩いているし。
 スミスもそれに何も言う事なくついて行くからだ。

 ヤーサンの街の中心にある大通りから裏通りへと入り。
 止まる事無く細い裏路地も抜けていく。

 そしてアンドレアはスラム街に程近い薄汚れた通り前で立ち止まった。
 アンドレアの視線は一軒の古ぼけた集合住宅の前に立つ老夫婦に向く。
 老夫婦の間には二人と手を繋いでいる子供。
 2歳か3歳か。
 子供のいないスミスには判断が付かない。

 アンドレアは振り向いてスミスと向かい合い。

「あの子は私の娘なの。黙っていてごめんなさい。正直に言って、スミスがエライマン領に行ったって噂で聞いて。私は少し安心したのよ。これで私は綺麗なままで貴方の心の中に残れるって。本当の私は貴方にお金目当てで近付いた、心の醜い女なのよ」

 アンドレアは指で溢れる涙を拭って。

「ごめんなさい。私は貴方を騙していたの。子供さえ出来ちゃえば責任を取ってくれるかなって。貴方って凄く優しいんだもの。けれども人を騙すのって私には向いてなかったみたい。だってこんなにも貴方を好きになってしまったんだもの。会えない時間がとても寂しくて。何だか心に穴が開いたみたいで」

 アンドレアの涙が地面を濡らし。
 何度も鼻を啜って嗚咽を漏らし。
 それでもアンドレアは言葉を続ける。

「貴方は素敵な人だから。きっと素敵な女性と出会えるわ。今までありがとう。会いに来てくれてありがとう。最後にお別れを言えて良かった。こんな狡い女でごめんなさい。さようなら」

 子供が振り向いてアンドレアに手を振った。
 老夫婦もにこやかな笑顔を向け。
 アンドレアはスミスに背を向けて歩き出した。

 これでスミスとはお別れだ。
 スミスが自分の事をどう思っていたのかはわからない。
 けれど、それが本物の愛だったと自分に言い聞かせる事は出来る。
 そうすればスミスとの思い出は、何よりも素敵な思い出になるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...