異世界ダンジョン【ラブホテル】~ダンジョンマスターに転生したので異世界でラブホテル経営してみる。破茶滅茶転生者のちょっとエッチなスローライフ

張形珍宝

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ラブホテル in エライマン

商人娘とその恋人は愛の巣をつくりたい②

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 店内に客の姿は無く、並んでいる葉野菜は萎びていて。
 肉は黒ずんで、腐ってはいないだろうが強い臭気を放っている。
 熟成肉とかいう概念が存在しないので、ストレートに腐りかけという評価が下る状態だ。
 食材の鮮度が明らかに悪く、本来は木箱からやや商品が顔を出す程度に陳列されている筈が、崩れそうなぐらいに積み上げられていた。

 この惨状を見て誰がテーラ商会と勘違いしてくれようか。

 エリックの目論見はガラガラと音を立てて崩れ去った。
 いや、少しずつ崩れていたのに気付かなかっただけか。

 エリックは店番をしている男性従業員を見付けると近付いて捲し立てる。

「どうしてこんなに状態の悪い商品ばかり並べているんだ!三日に一度は新鮮な商品が入荷する筈だろう!」

 木箱の上に積み上げられている野菜を見る限り、どう見ても10日以上は経った商品が並んでいる。
 つまりはテーラ商会が出て行く時に持って行けないからと捨て値同然で買い取った食材がそのまま並べられているのだ。
 顔を赤くして捲し立てるエリックの様子に男性従業員は怯えた様子で。

「す、すみません。早く売っちゃわないと悪くなっちゃうかなと思いまして」

 エリックは男性従業員の言葉に絶句した。

 思い返せばタスケはテーラ商会の商会長にも関わらず、日に何度も店に顔を出していた。
 エリックはそんな誰にでも出来る仕事は下の者に任せてタスケにしか出来ない仕事をやれば良いのにと思っていたのだが。
 店に顔を出したタスケは店内の状態を確認して、威圧的な態度にならない様に気を付けながらさりげなく商品の入れ替え指示を出していた。

 店には常に新鮮な商品が並び。
 鮮度の落ちた物は安値で飲食店や屋台を営む者達に卸していた。
 エリックは大した金にもならないのだから手間を考えたら捨ててしまえば良いのになどと思っていたが。

 テーラ商会本店はタスケの気配りによって成り立っていたのだと、エリックはこの時初めて気付いたのであった。
 もしもタスケが自分と同じ状況にあったなら。
 タスケは執務室に引き籠って恋人とイチャコラしたりはしていないだろう。

 正直に言って、商売なんてタスケの代わりに自分がやっても上手くいくだろうと。
 寧ろ自分がやればもっと商会を大きく出来るだろうと自惚れていたエリックはタスケとの決定的な差を思い知ったのであった。

 そもそも普通の商人であれば執務室にオープンから10日も引き籠ったりしないのだが。
 どうやらエリックには商人としての才能が足りていない様である。

 実を言うとタスケはエリックの欲望に忠実で楽観的で注意不足な所を危惧していた。
 だが物を見る目は確かなので、あと10年も自分の下で基礎から教え込めば良い商人になるだろうと考えていた。
 そんなエリックだから愛娘を嫁にやるのは反対だった。

 10年。
 一人前の商人になるまで10年だ。
 10年も経ったらメアリーは世間的に見て、完全なる行き遅れになってしまう。

 才能はある。
 しかしどう考えても大器晩成なタイプだ。
 そして物事を軽く考える節があるので確実に、一人前になる前に独立をすると言い出す。
 隙あらば独立というタイプだ。
 そんな男に娘をやったらどうなるか?
 しなくて良い苦労をして不幸になるのは目に見えている。

 だって甘やかして育てた娘なんだもの。
 商売に失敗した後の貧乏生活に耐えられるとは到底思えない。

 勿論エリックが独立して成功を収める可能性もあるだろうが、タスケはその可能性を低いと見積もっていた。
 実際に今の惨状を見れば、その考えは正しかった事が理解出来るだろう。

 木っ端の従業員は上からの指示がなければ適切に動いてはくれない。
 そんな基本的な事がすっぽりと抜け落ちていて、全てを任せてしまっていたのだから。

「今すぐ商品の入れ替えだ!新鮮な物を並べて古くなった物は取り敢えず倉庫の中へ!後で選別して廃棄する物と売れる物とに分ける!それが終わったら店内の掃除だ!急げ!」

「は、はいぃ!」

 エリックは男性従業員に指示を出し。
 自らも体を動かして商品の入れ替えを行った。
 従業員全員と、途中から様子を見に出て来たメアリーで商品の入れ替えを終わらせてから店内の掃除を行い。
 一日がかりでどうにかテーラ商会だった頃と遜色ない状態まで持っていった。

 忙しく体を動かしている時にもベッタリとくっついて離れようとしなかったメアリーには流石に空気を読んで欲しいと思ったものの。
 愛するメアリーと触れ合えて嬉しくない筈が無いのでエリックはさっさと子供作って自分のものにしちまおうかなという考えが頭を掠めたのであった。

 テーナ商会を立ち上げてから2週間。
 商品を入れ替えて掃除もして。
 従業員の再教育も行って、エリックが定期的に店に顔を出して。
 テーラ商会の頃と遜色ない状態までどうにか持っていったテーナ商会は。

 特に上昇気流に乗る事も無く不順に売り上げを落としていた。
 仕入れにかかる支出を考えると余裕で赤字である。
 そこに更に従業員への給料も払わなければならないのだから、最早死に体である。
 物事を軽く考えるタイプのエリックが“割と終わってんな”と考えるぐらいの死に体である。

「大丈夫よ。まだまだ私の貯金があるし。エリックならここから幾らでも立て直せるわ!」

 メアリーは非常にポジティブな言葉をかけてくれるが。
 どう考えたってここからの上がり目が見えない。
 街に出て調査をしたら既にテーラ商会の常連だった客が他の店に流れてしまっているのだ。
 タスケやミキャエラが戻って来たならば別かもしれないが、エリックの力で客を戻って来させるのはかなり難しいだろう。

 無理だよ。
 もう終わりだよ。

 そんな風にエリックが弱気になっている所に追い打ちをかける様に。

「おうおう順調そうじゃねぇか!ヤーサンで商売やってんだからきっちりみかじめ料を払って貰わねぇとなぁ!」

 ヤーサン男爵の抱えるチンピラ三人がテーナ商会を訪ねて来た。
 みかじめ料というヤーサン独自の集金システム。
 これはヤーサンで商売をする者が一律で金を納める事で、店への直接的な嫌がらせや暴力事件などが起こった時にチンピラがやって来て店を守ってくれるシステムなのだが。
 その実、店に嫌がらせをするのもヤーサン男爵の息のかかった者達なので、実質的には半強制的に金を吸い上げるシステムである。

 テーナ商会は商会立ち上げの申請をしたので、それを把握して訪ねて来たのだろうとは思ったのだが。

「はあ!?売り上げの3割は幾ら何でもやり過ぎでしょう!」

 チンピラがとんでもない事を言い出して流石にエリックは声を荒げた。
 これまではどんな規模の店でも一律で月に小金貨3枚だったのだ。
 それが利益の1割になりそうだとタスケから話には聞いていたが。
 利益の1割どころか売り上げの3割というのはどう考えたっておかしい。
 売り上げという事は仕入れ値や人件費を考慮されずに売値の3割を持って行かれるという事だ。
 テーナ商会で扱っている商品で言うと、生活の必需品であるクロムギの原価率が7割である。
 つまりクロムギはどれだけ売っても銅貨1枚の利益にもならず、人件費を考えたら余裕で赤字だ。

「親父の決定に文句があるってのか!ああん?」

 チンピラが木箱を蹴り上げて中の商品が床に転がる。
 ついでにチンピラも足を押さえて床に転がる。
 バキッ!って言ったから多分折れたんじゃないだろうか。

「お、覚えてやがれ!」

 特にエリック達が何かをした訳でも無いのだが。
 チンピラ達は捨て台詞を吐いて店から出て行った。
 エリックは従業員と商品を木箱に戻しながら考える。

 売り上げの3割もみかじめ料を取るとなれば多くの商会がヤーサンから撤退するだろう。
 市場で商売をする者達にも出て行く者が現れるかもしれない。
 そうなれば買い物をする店の選択肢が今よりも狭まるのだから価格は吊り上げ放題だ。
 テーラ商会と同じくヤーサンで一番の商会になるのは容易くなる。
 しかし売り上げの3割は持って行かれるのだから思った程は儲からないだろう。

 商会に箔を付けるとしても。
 そんな状況のヤーサンで一番の商会になった所で大した影響力が生まれるとは思えない。
 寧ろ馬鹿にされて蔑まれるのではないかとさえ思える。

 エリックは冷静に状況を見極め、思考を巡らせて。

「すまないがヤーサンでこれ以上商売をするのは不可能だ」

 商会を取り潰してヤーサンから撤退する事を決めたのであった。
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