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ラブホテル in ヤーサン
祝杯を上げよ!
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蒼剣の誓いが無事に冒険者ギルドへ帰って来た。
ギルドとしてはヤーサンを拠点とする冒険者パーティーの中で最高のCランクである蒼剣の誓いを信頼して調査を依頼したのだが。
新たに出現したダンジョンはモンスターの分布も罠の質も難易度も。
何もかもが未知なので職員が不安を感じていたのも無理はない。
それも思っていた数日掛かるかと思っていた所を。
調査に向かった当日に内に帰って来たのだから何か確信を持って調査の結果を伝えに来たのだろう。
「蒼剣の皆さんお帰りなさい。早速ギルドマスターに報告をお願いします」
ダンジョンの調査結果についてはまずヤーサンの冒険者ギルドを取り仕切るギルドマスターへと伝えられ。
その調査結果から精査した内容が冒険者へと伝えられる。
やけに肌が艶々した蒼剣の誓いは出迎えた受付嬢の後に続いてギルドの執務室へと通されたのであった。
「早かったな。それでは調査内容を聞こうか」
白髪交じりの茶色い髪をオールバックにした男が蒼剣の4人をソファーへの着席を促す。
蒼剣の4人は皮張りの高級ソファーへと腰を下ろし。
((((硬っ。ラブホテルのソファーと比べたら殆んど木のベンチじゃん))))
4人揃って非常に失礼な感想を抱いたのであった。
しかしそれを口に出すことは無い。
今でこそ威圧的な印象は鳴りを潜めたものの。
現役の頃は返り血に塗れながら斧を振る様子から血鬼バルナバスと呼ばれていた超恐い方の冒険者だったのだ。
恐らく血鬼が用意したのだと思われるソファーを貶す様な発言をしたら超怖い血鬼が顔を出しかねない。
4人は確りと言葉を飲み込み。
リーダーのネイトが代表して報告を始める。
受付嬢も興味があるのかそのまま執務室に残っているが。
バルナバスが何も言わないので気にしない事にした。
「昨日出現したあの塔。あれは確かにダンジョンだった」
「ほう」
ネイトの発言に口の端を上げたバルナバス。
ダンジョンはモンスターが無限に湧き。
貴重で希少なアーティファクトと呼ばれるアイテムを生み出す。
冒険者ギルドからすれば素晴らしい資源になりうる存在なのだ。
勿論それにより犠牲になる者も出るのだが。
「ダンジョンだったが普通のダンジョンでは無かった。はっきり言ってあれはダンジョンと言って良いのかわからない」
「それはどう言う意味だ?」
バルナバスは心底分からないといった顔でネイトに問う。
「あの塔はダンジョンなのは間違いないが宿だった。顔は見えなかったが人種族の女が普通に受付をしていた。女が言うには休息宿らぶほてると言うなの宿で。俺達は部屋を幾つか見て回ったが特に危険を感じる様な事は無かった」
ネイトの説明に首を傾げるバルナバス。
ダンジョンはダンジョンマスターと呼ばれるモンスターが管理する不可思議な場所だ。
ダンジョンマスターはダンジョンによって種族や個体が異なるので内部に違いが生まれるのは当然だが。
宿屋などと言う人種族じみた事をするダンジョンはこれまで存在しなかった。
ならば罠を疑うか。
若しくは蒼剣の誓いがダンジョンに取り込まれたり洗脳されている事も考えなければならない。
しかしどうにも洗脳されている様子は見えず。
寧ろ羨ましいぐらいに清々しく。
晴れ晴れとした顔をしているのが気になる。
ギルドマスターとは日々書類仕事や冒険者の持ち込む厄介事を処理する。
異常なまでにストレスの溜まる仕事なのだ。
「成程な。理解は出来ないが理解した」
そう言ったバルナバスに。
「いや、ギルマス。あんたはラブホテルの何たるかを何も理解しちゃいない。俺達にもあそこを詳しく説明するのは無理だが。今回の依頼の報酬はいらない。だがこれだけは言わせてくれ。ギルマスは元冒険者の奥さんをラブホテルに連れて行ってみろ。自分の目でラブホテルを見て。感じて。それでラブホテルをどうするのか判断してくれ。良いか?必ず奥さんを連れて行くんだ。仕事が終わってからで良い。街を出て。塔に向かって。ラブホテルで宿泊を選べ。ついでに言っておくが部屋は一番高い部屋を選ぶんだ。いいか。一番高い部屋だ。一番高い部屋も幾つかあるのだが。受付の顔の隠れた女が詳しく説明してくれるから。その中で奥さんが選んだ部屋を選ぶんだ。料理も酒も何が何だか分からないから部屋に入ってから受付の女に聞いてみろ。電話とか言う離れた所にいる人間と会話出来るアイテムの使い方は書いてあるから安心だ。いいか。必ず奥さんを連れて行け。奥さん以外の女を連れて行くのは止めておけ。必ず。必ず奥さんと言ってその目で。耳で。鼻で。手で。ラブホテルを体感してラブホテルをどうするのか判断してくれ。いいか?絶対にあそこを攻略何てしようとするな。絶対だ。絶対にだ。頼んだぞ」
「お、おう。お前が言うのなら分かった。但し報酬は受け取ってくれ。調査依頼は達成したのだからな」
あまりにも。
あまりにも熱の籠ったネイトの言葉に血鬼も若干引き気味である。
しかしながら蒼剣のメンバーもネイトに同意している様子だし。
バルナバスの妻は今は引退しているが血鬼とコンビを組んでいた元高ランク冒険者だ。
正面からやりあっても血鬼が半殺しにされるぐらいに強い元冒険者だ。
今でも時折半殺しにされているが。
バルナバスはあまりにも必死なネイトの様子に。
今晩にでも妻を連れて塔を訪れる事を決めたのであった。
そうすれば残業せずに書類仕事から逃げられるので。
「それでは異世界ダンジョン【ラブホテル】の順調な出だしを祝って。「かんぱーい!」おい、言わせろ。そこは言わせろよエマよ。かんぱーい!」
蒼剣の誓いが帰った後。
アイトは従業員を集めて祝いのシャンパンを開けていた。
今日はもう客は来ないだろうと踏んでの事なのだが。
残念ながら夜にばっちりギルドマスターと言う客が来店予定である事は知る由も無い。
場所はダンジョン内に作られたパーティ会場。
そこにダンジョンマスター。
フロアボス一名。
従業員一名。
モンスター多数。
以上のメンバーでお届けする次第である。
因みに調理オーガのヤマオカは調理も。
レイスは給仕も担当している。
「ほら、ワンポもたまには美味しいのもお食べ」
「わん!」
エマがワンポと言う名の勝色の大型狼の口にサーロインステーキを放り込んだ。
嬉しそうに咀嚼してステーキを飲み込んだワンポの口に次々にステーキを放り込む。
ワンポは満足するまでステーキをパクつくと頭をエマの足に擦り付けてじゃれついた。
エマに普通に懐いているが。
結構ヤバ目のモンスターである。
「ジャパーン!シャンパーン!」
訳の分からない謎のテンションでシャンパンを開けまくるアイトと。
アイトの開けたシャンパンを次々に空けるヒショ。
普段はお澄まし顔の美人秘書をやっているが。
結構ヤバ目の酒豪である。
「ウォウ!」
「ウォウウォウ!」
カパカパ酒を空けていた二体のオーガが殴り合いの喧嘩を始める。
他のオーガ達が二体を囲む様に輪を作って即席のリングが出来。
ルール無しのダンジョンファイト(ストリートファイト的な何か)が開幕した。
普段は仲良く仕事に励んでいるが。
結構ヤバ目の戦闘民族である。
カオス。
非常にカオスな状況である。
しかしレイスは動じない。
滅茶苦茶気が利く給仕に徹している。
但し殴り飛ばされたオーガに給仕を邪魔された時には。
滅茶苦茶怒って呪詛の言葉を吐くのでオーガ一同土下座をして謝るのだが。
カオス。
非常にカオスなパーティだ。
「「「王様だーれだ?」」」
「はーい!」
アイトの一声でカオスパーティが一旦中断されてレクリエーションゲームが始まった。
ゲームの内容は参加者全員が番号の書かれた割り箸を引いて。
1本だけ混ざっている先っちょに赤い印の付いている割り箸を引いた者が王様となり。
印の無かった愚鈍な平民共に命令を下せる。
所謂王様ゲームと呼ばれるお遊びである。
そして見事に一発目の王様となったのはダンジョンマスターアイトだった。
ダンジョンマスターへの忖度が働いた訳ではなく。
これは単なる偶然である。
「それじゃあ3番が12番にしっぺで」
こういったゲームは徐々に命令をエスカレートさせていくのが盛り上げるコツである。
この世界においては王様ゲーム熟練者であるアイトはしっぺと言うちょっと痛いだけの些細な命令を下し。
ビシュ!
バキッ!
「グアァァァアア!」
オーガがオーガに全力のしっぺをお見舞いして手首が曲がっちゃいけない方向へと曲がったのであった。
悶絶するオーガ。
キャッキャと燥ぐオーガ。
ドン引きのその他大勢。
王様ゲームは危険との判断が下され。
始まって2ゲーム目にして次を最後とする事に決定した。
「「「王様だーれだ」」」
「はーい!」
2ゲーム目の王様として名乗りを挙げたのはエマである。
これはある意味で最も安全な人選である。
もしも2ゲーム目の王様もアイトであったとしたら。
つい先ほどの手首破壊しっぺ事件でドン引きしたにも関わらず。
もう一度しっぺの命令を下してワンモア手首破壊を狙いにいっただろう。
所謂天丼と言うやつである。
もしも2ゲーム目の王様がヒショであったとしたら。
アイトに忖度して天丼を幇助するか。
致死量寸前まで酒を飲ます極致的アルコールハラスメントな命令を下したであろう。
どちらにしても犠牲者が出る事は確実であった。
そこへいくとエマは無茶な命令を下す様な鬼畜ではない。
確実に前フリとなった手首破壊しっぺ事件よりも温い命令を下すのは目に見えている。
因みにオーガ達は王様と〇番が喧嘩するとかだろうし。
レイスは〇番の肉体を一日借りるとかだろうし。
ワンポはスイーツが食べたいとかなので。
王様ゲームのフィナーレとしては微妙である。
しかしエマの命令が予想外に盛り上がる結果を生もうとは。
この時誰も予想していないのであった。
エマの命令とは。
「それじゃあ。1番と19番がボッキーゲームで!」
ボッキーとは小麦粉などから作った細い棒状の焼き菓子をチョコレートでコーティングしたチョコレート菓子である。
因みに手で持ちやすい様に一割から二割は素肌を晒したズル剥けだ。
見事なズル剥けチョコレート菓子なのだ。
ボッキーゲームはそのチョコレート菓子を二人で咥え。
端と端から齧っていき。
上手くいくと唇と唇が触れ合ったりしちゃったりする。
ドキドキワクワクのラッキースケベゲームである。
「若い娘が大声で勃起とか言うな」
アイトの指摘に。
「ボッキーだよ!ボッキー!オーナーが用意してるお菓子なんだから知ってるでしょ!」
エマが言い返し。
「勃起ー?そんな風に勃起勃起言う女の子は将来が心配です」
ヒショがアイトに追随し。
「ボッキーだよ!ヒショ姉もマドラー代わりに使ってるんだから知ってるでしょ!」
ヒショにも事実を指摘して言い返す。
知らない振りをしているが今ヒショが手に持っているウイスキーのグラスに。
思いっきりボッキーが刺さっているのだから言い逃れは不可能だ。
「あ!二人ともはぐらかそうとしてさ、実は二人が1番と19番なんでしょ!オーガさん達!取り押さえて!」
普段であれば絶対的な上司であるアイトやヒショに逆らう様な真似はしないのだが。
なんだか面白そうな空気を感じ取ったオーガ達はエマの指示に従ってアイトとヒショを拘束した。
アイトの方はまだしもヒショの方は4体がかりでも拘束出来ているか微妙だが。
倒れる度に別のオーガが代わる代わる拘束しに行ってもオーガ達の傷が増えていくばかりだし。
「まずはオーナーからね!ほら、やっぱり1番だった!」
ヒショと違って大人しく拘束されているアイトの割り箸をエマが見ると。
そこには1の数字が書かれていた。
後はヒショが大人しく割り箸を渡してくれるかだが。
「あっ」
群がるオーガ達に抵抗していた。
何も知らずに傍目から見たらこれからすけべな展開でも起こるのでは無かろうかと言う状況を生み出していたヒショが1体のオーガを殴りつけた時に。
手を滑らせて床に転がった割り箸をエマが拾い上げる。
そこに書かれていた番号は。
「やっぱりエマ姉が19番だ!オーナーとエマ姉でボッキーゲームね!はい、ボッキー!ボッキー!」
巻き起こるボッキーコール。
そうは言ってもオーガは人族の言葉を喋れないのでウガウガ言っているだけだが。
それでも合いの手をしていて心は一つである。
因みにレイスも面白そうな気配を感じて念動力で持ち上げたしゃもじで合いの手に合わせ。
ワンポは腹を見せて眠っている。
「くっ!謀ったな!」
ボッキーコールが一旦止まり。
「いやいや。謀ってないし王様の命令は絶対ですから。て言うかお二人は付き合いが長いんだしボッキーゲームぐらい余裕でしょ?」
エマの最もな指摘に。
「いや、付き合いが長過ぎてな?」
「今更お互いの顔を近付けると言うのもこっ恥ずかしいですよね」
そう言ってどうにも落ち着かない様子の二人。
「やるまで終わりませんからね?はい、ボッキー!ボッキー!」
再度始まったボッキーコール。
その熱の入ったコールに逃げられない事を悟った二人。
アイトのアイコンタクトでヒショがアイトの考えを読み取り。
長い付き合い故の以心伝心で頷き合った二人。
ヒショはチョコレートの付いていない方を好むので。
チョコレート側を口に咥えたアイトがヒショの口元にボッキーの反対側を持ってきた。
「きゃーーー!」
一人テンション駄々上がりのエマ。
オーガ達もそれに追随する様にウガウガ言っている。
しゃもじでお目目を隠す(全然隠せていない)レイス。
腹を見せて鼾を掻いているワンポ。
4者4様のリアクションを見せつつ。
サクサクとボッキーを噛む二人の顔は近付いていき。
アイトはズキュウウウンと効果音でも鳴りそうな勢いでヒショの唇を奪った。
「きゃーーー!」
テンション駄々上がりのエマ。
突然目を逸らし始めたオーガ達。
しゃもじを放り投げてガン見のレイス。
寝っ屁を扱いたワンポ。
4者4様のリアクションを見せる。
ヒショは嫌がる様子も無くアイトにされるがまま。
そのまま謎に開始されたキス耐久レースは3時間にも及び。
観客達は二人の様子に最早呆れて順次持ち場へと戻って行ったのであった。
「勝ったな」
「流石はマスターです」
他に誰もいなくなったパーティ会場で勝ち誇るアイトと。
賞賛するヒショ。
恥ずかしい事をする時は全力で振り切った方が逆に恥ずかしくない。
アイトの作戦の勝利であった。
あまりにも振り切り過ぎていて後から揶揄い半分にネタにされる心配も無いだろう。
エマが一番引いていたし。
「お?ワンポはまだいたのか。仕方ないから犬小屋まで運んでやるか」
「そうしましょうか。私はお運びしますよ」
重そうなワンポの巨体をひょいと持ち上げたヒショ。
二人隣り合って歩くその姿は。
まるで金婚式を迎えた熟年夫婦の様である。
ギルドとしてはヤーサンを拠点とする冒険者パーティーの中で最高のCランクである蒼剣の誓いを信頼して調査を依頼したのだが。
新たに出現したダンジョンはモンスターの分布も罠の質も難易度も。
何もかもが未知なので職員が不安を感じていたのも無理はない。
それも思っていた数日掛かるかと思っていた所を。
調査に向かった当日に内に帰って来たのだから何か確信を持って調査の結果を伝えに来たのだろう。
「蒼剣の皆さんお帰りなさい。早速ギルドマスターに報告をお願いします」
ダンジョンの調査結果についてはまずヤーサンの冒険者ギルドを取り仕切るギルドマスターへと伝えられ。
その調査結果から精査した内容が冒険者へと伝えられる。
やけに肌が艶々した蒼剣の誓いは出迎えた受付嬢の後に続いてギルドの執務室へと通されたのであった。
「早かったな。それでは調査内容を聞こうか」
白髪交じりの茶色い髪をオールバックにした男が蒼剣の4人をソファーへの着席を促す。
蒼剣の4人は皮張りの高級ソファーへと腰を下ろし。
((((硬っ。ラブホテルのソファーと比べたら殆んど木のベンチじゃん))))
4人揃って非常に失礼な感想を抱いたのであった。
しかしそれを口に出すことは無い。
今でこそ威圧的な印象は鳴りを潜めたものの。
現役の頃は返り血に塗れながら斧を振る様子から血鬼バルナバスと呼ばれていた超恐い方の冒険者だったのだ。
恐らく血鬼が用意したのだと思われるソファーを貶す様な発言をしたら超怖い血鬼が顔を出しかねない。
4人は確りと言葉を飲み込み。
リーダーのネイトが代表して報告を始める。
受付嬢も興味があるのかそのまま執務室に残っているが。
バルナバスが何も言わないので気にしない事にした。
「昨日出現したあの塔。あれは確かにダンジョンだった」
「ほう」
ネイトの発言に口の端を上げたバルナバス。
ダンジョンはモンスターが無限に湧き。
貴重で希少なアーティファクトと呼ばれるアイテムを生み出す。
冒険者ギルドからすれば素晴らしい資源になりうる存在なのだ。
勿論それにより犠牲になる者も出るのだが。
「ダンジョンだったが普通のダンジョンでは無かった。はっきり言ってあれはダンジョンと言って良いのかわからない」
「それはどう言う意味だ?」
バルナバスは心底分からないといった顔でネイトに問う。
「あの塔はダンジョンなのは間違いないが宿だった。顔は見えなかったが人種族の女が普通に受付をしていた。女が言うには休息宿らぶほてると言うなの宿で。俺達は部屋を幾つか見て回ったが特に危険を感じる様な事は無かった」
ネイトの説明に首を傾げるバルナバス。
ダンジョンはダンジョンマスターと呼ばれるモンスターが管理する不可思議な場所だ。
ダンジョンマスターはダンジョンによって種族や個体が異なるので内部に違いが生まれるのは当然だが。
宿屋などと言う人種族じみた事をするダンジョンはこれまで存在しなかった。
ならば罠を疑うか。
若しくは蒼剣の誓いがダンジョンに取り込まれたり洗脳されている事も考えなければならない。
しかしどうにも洗脳されている様子は見えず。
寧ろ羨ましいぐらいに清々しく。
晴れ晴れとした顔をしているのが気になる。
ギルドマスターとは日々書類仕事や冒険者の持ち込む厄介事を処理する。
異常なまでにストレスの溜まる仕事なのだ。
「成程な。理解は出来ないが理解した」
そう言ったバルナバスに。
「いや、ギルマス。あんたはラブホテルの何たるかを何も理解しちゃいない。俺達にもあそこを詳しく説明するのは無理だが。今回の依頼の報酬はいらない。だがこれだけは言わせてくれ。ギルマスは元冒険者の奥さんをラブホテルに連れて行ってみろ。自分の目でラブホテルを見て。感じて。それでラブホテルをどうするのか判断してくれ。良いか?必ず奥さんを連れて行くんだ。仕事が終わってからで良い。街を出て。塔に向かって。ラブホテルで宿泊を選べ。ついでに言っておくが部屋は一番高い部屋を選ぶんだ。いいか。一番高い部屋だ。一番高い部屋も幾つかあるのだが。受付の顔の隠れた女が詳しく説明してくれるから。その中で奥さんが選んだ部屋を選ぶんだ。料理も酒も何が何だか分からないから部屋に入ってから受付の女に聞いてみろ。電話とか言う離れた所にいる人間と会話出来るアイテムの使い方は書いてあるから安心だ。いいか。必ず奥さんを連れて行け。奥さん以外の女を連れて行くのは止めておけ。必ず。必ず奥さんと言ってその目で。耳で。鼻で。手で。ラブホテルを体感してラブホテルをどうするのか判断してくれ。いいか?絶対にあそこを攻略何てしようとするな。絶対だ。絶対にだ。頼んだぞ」
「お、おう。お前が言うのなら分かった。但し報酬は受け取ってくれ。調査依頼は達成したのだからな」
あまりにも。
あまりにも熱の籠ったネイトの言葉に血鬼も若干引き気味である。
しかしながら蒼剣のメンバーもネイトに同意している様子だし。
バルナバスの妻は今は引退しているが血鬼とコンビを組んでいた元高ランク冒険者だ。
正面からやりあっても血鬼が半殺しにされるぐらいに強い元冒険者だ。
今でも時折半殺しにされているが。
バルナバスはあまりにも必死なネイトの様子に。
今晩にでも妻を連れて塔を訪れる事を決めたのであった。
そうすれば残業せずに書類仕事から逃げられるので。
「それでは異世界ダンジョン【ラブホテル】の順調な出だしを祝って。「かんぱーい!」おい、言わせろ。そこは言わせろよエマよ。かんぱーい!」
蒼剣の誓いが帰った後。
アイトは従業員を集めて祝いのシャンパンを開けていた。
今日はもう客は来ないだろうと踏んでの事なのだが。
残念ながら夜にばっちりギルドマスターと言う客が来店予定である事は知る由も無い。
場所はダンジョン内に作られたパーティ会場。
そこにダンジョンマスター。
フロアボス一名。
従業員一名。
モンスター多数。
以上のメンバーでお届けする次第である。
因みに調理オーガのヤマオカは調理も。
レイスは給仕も担当している。
「ほら、ワンポもたまには美味しいのもお食べ」
「わん!」
エマがワンポと言う名の勝色の大型狼の口にサーロインステーキを放り込んだ。
嬉しそうに咀嚼してステーキを飲み込んだワンポの口に次々にステーキを放り込む。
ワンポは満足するまでステーキをパクつくと頭をエマの足に擦り付けてじゃれついた。
エマに普通に懐いているが。
結構ヤバ目のモンスターである。
「ジャパーン!シャンパーン!」
訳の分からない謎のテンションでシャンパンを開けまくるアイトと。
アイトの開けたシャンパンを次々に空けるヒショ。
普段はお澄まし顔の美人秘書をやっているが。
結構ヤバ目の酒豪である。
「ウォウ!」
「ウォウウォウ!」
カパカパ酒を空けていた二体のオーガが殴り合いの喧嘩を始める。
他のオーガ達が二体を囲む様に輪を作って即席のリングが出来。
ルール無しのダンジョンファイト(ストリートファイト的な何か)が開幕した。
普段は仲良く仕事に励んでいるが。
結構ヤバ目の戦闘民族である。
カオス。
非常にカオスな状況である。
しかしレイスは動じない。
滅茶苦茶気が利く給仕に徹している。
但し殴り飛ばされたオーガに給仕を邪魔された時には。
滅茶苦茶怒って呪詛の言葉を吐くのでオーガ一同土下座をして謝るのだが。
カオス。
非常にカオスなパーティだ。
「「「王様だーれだ?」」」
「はーい!」
アイトの一声でカオスパーティが一旦中断されてレクリエーションゲームが始まった。
ゲームの内容は参加者全員が番号の書かれた割り箸を引いて。
1本だけ混ざっている先っちょに赤い印の付いている割り箸を引いた者が王様となり。
印の無かった愚鈍な平民共に命令を下せる。
所謂王様ゲームと呼ばれるお遊びである。
そして見事に一発目の王様となったのはダンジョンマスターアイトだった。
ダンジョンマスターへの忖度が働いた訳ではなく。
これは単なる偶然である。
「それじゃあ3番が12番にしっぺで」
こういったゲームは徐々に命令をエスカレートさせていくのが盛り上げるコツである。
この世界においては王様ゲーム熟練者であるアイトはしっぺと言うちょっと痛いだけの些細な命令を下し。
ビシュ!
バキッ!
「グアァァァアア!」
オーガがオーガに全力のしっぺをお見舞いして手首が曲がっちゃいけない方向へと曲がったのであった。
悶絶するオーガ。
キャッキャと燥ぐオーガ。
ドン引きのその他大勢。
王様ゲームは危険との判断が下され。
始まって2ゲーム目にして次を最後とする事に決定した。
「「「王様だーれだ」」」
「はーい!」
2ゲーム目の王様として名乗りを挙げたのはエマである。
これはある意味で最も安全な人選である。
もしも2ゲーム目の王様もアイトであったとしたら。
つい先ほどの手首破壊しっぺ事件でドン引きしたにも関わらず。
もう一度しっぺの命令を下してワンモア手首破壊を狙いにいっただろう。
所謂天丼と言うやつである。
もしも2ゲーム目の王様がヒショであったとしたら。
アイトに忖度して天丼を幇助するか。
致死量寸前まで酒を飲ます極致的アルコールハラスメントな命令を下したであろう。
どちらにしても犠牲者が出る事は確実であった。
そこへいくとエマは無茶な命令を下す様な鬼畜ではない。
確実に前フリとなった手首破壊しっぺ事件よりも温い命令を下すのは目に見えている。
因みにオーガ達は王様と〇番が喧嘩するとかだろうし。
レイスは〇番の肉体を一日借りるとかだろうし。
ワンポはスイーツが食べたいとかなので。
王様ゲームのフィナーレとしては微妙である。
しかしエマの命令が予想外に盛り上がる結果を生もうとは。
この時誰も予想していないのであった。
エマの命令とは。
「それじゃあ。1番と19番がボッキーゲームで!」
ボッキーとは小麦粉などから作った細い棒状の焼き菓子をチョコレートでコーティングしたチョコレート菓子である。
因みに手で持ちやすい様に一割から二割は素肌を晒したズル剥けだ。
見事なズル剥けチョコレート菓子なのだ。
ボッキーゲームはそのチョコレート菓子を二人で咥え。
端と端から齧っていき。
上手くいくと唇と唇が触れ合ったりしちゃったりする。
ドキドキワクワクのラッキースケベゲームである。
「若い娘が大声で勃起とか言うな」
アイトの指摘に。
「ボッキーだよ!ボッキー!オーナーが用意してるお菓子なんだから知ってるでしょ!」
エマが言い返し。
「勃起ー?そんな風に勃起勃起言う女の子は将来が心配です」
ヒショがアイトに追随し。
「ボッキーだよ!ヒショ姉もマドラー代わりに使ってるんだから知ってるでしょ!」
ヒショにも事実を指摘して言い返す。
知らない振りをしているが今ヒショが手に持っているウイスキーのグラスに。
思いっきりボッキーが刺さっているのだから言い逃れは不可能だ。
「あ!二人ともはぐらかそうとしてさ、実は二人が1番と19番なんでしょ!オーガさん達!取り押さえて!」
普段であれば絶対的な上司であるアイトやヒショに逆らう様な真似はしないのだが。
なんだか面白そうな空気を感じ取ったオーガ達はエマの指示に従ってアイトとヒショを拘束した。
アイトの方はまだしもヒショの方は4体がかりでも拘束出来ているか微妙だが。
倒れる度に別のオーガが代わる代わる拘束しに行ってもオーガ達の傷が増えていくばかりだし。
「まずはオーナーからね!ほら、やっぱり1番だった!」
ヒショと違って大人しく拘束されているアイトの割り箸をエマが見ると。
そこには1の数字が書かれていた。
後はヒショが大人しく割り箸を渡してくれるかだが。
「あっ」
群がるオーガ達に抵抗していた。
何も知らずに傍目から見たらこれからすけべな展開でも起こるのでは無かろうかと言う状況を生み出していたヒショが1体のオーガを殴りつけた時に。
手を滑らせて床に転がった割り箸をエマが拾い上げる。
そこに書かれていた番号は。
「やっぱりエマ姉が19番だ!オーナーとエマ姉でボッキーゲームね!はい、ボッキー!ボッキー!」
巻き起こるボッキーコール。
そうは言ってもオーガは人族の言葉を喋れないのでウガウガ言っているだけだが。
それでも合いの手をしていて心は一つである。
因みにレイスも面白そうな気配を感じて念動力で持ち上げたしゃもじで合いの手に合わせ。
ワンポは腹を見せて眠っている。
「くっ!謀ったな!」
ボッキーコールが一旦止まり。
「いやいや。謀ってないし王様の命令は絶対ですから。て言うかお二人は付き合いが長いんだしボッキーゲームぐらい余裕でしょ?」
エマの最もな指摘に。
「いや、付き合いが長過ぎてな?」
「今更お互いの顔を近付けると言うのもこっ恥ずかしいですよね」
そう言ってどうにも落ち着かない様子の二人。
「やるまで終わりませんからね?はい、ボッキー!ボッキー!」
再度始まったボッキーコール。
その熱の入ったコールに逃げられない事を悟った二人。
アイトのアイコンタクトでヒショがアイトの考えを読み取り。
長い付き合い故の以心伝心で頷き合った二人。
ヒショはチョコレートの付いていない方を好むので。
チョコレート側を口に咥えたアイトがヒショの口元にボッキーの反対側を持ってきた。
「きゃーーー!」
一人テンション駄々上がりのエマ。
オーガ達もそれに追随する様にウガウガ言っている。
しゃもじでお目目を隠す(全然隠せていない)レイス。
腹を見せて鼾を掻いているワンポ。
4者4様のリアクションを見せつつ。
サクサクとボッキーを噛む二人の顔は近付いていき。
アイトはズキュウウウンと効果音でも鳴りそうな勢いでヒショの唇を奪った。
「きゃーーー!」
テンション駄々上がりのエマ。
突然目を逸らし始めたオーガ達。
しゃもじを放り投げてガン見のレイス。
寝っ屁を扱いたワンポ。
4者4様のリアクションを見せる。
ヒショは嫌がる様子も無くアイトにされるがまま。
そのまま謎に開始されたキス耐久レースは3時間にも及び。
観客達は二人の様子に最早呆れて順次持ち場へと戻って行ったのであった。
「勝ったな」
「流石はマスターです」
他に誰もいなくなったパーティ会場で勝ち誇るアイトと。
賞賛するヒショ。
恥ずかしい事をする時は全力で振り切った方が逆に恥ずかしくない。
アイトの作戦の勝利であった。
あまりにも振り切り過ぎていて後から揶揄い半分にネタにされる心配も無いだろう。
エマが一番引いていたし。
「お?ワンポはまだいたのか。仕方ないから犬小屋まで運んでやるか」
「そうしましょうか。私はお運びしますよ」
重そうなワンポの巨体をひょいと持ち上げたヒショ。
二人隣り合って歩くその姿は。
まるで金婚式を迎えた熟年夫婦の様である。
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だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
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