カニバリズム症候群~人類を滅亡に向かわせる最悪の感染症

張形珍宝

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 場面が切り替わった。
 コードは中央アジアの民族衣装の様な格好をしている。
 強い日差しに照らされながら颯爽と歩くコードを正面やや右側からの画角でカメラが収めている。

「今日は俺が肉を仕入れる所を撮りたいんだとさ。こっちだ」

 そう言って薄暗い裏路地に入ったコード。
 一気に人通りが減った粗雑で雑多な建物が並ぶ街並みにも、迷う様子は見せない。
 まるで職場にでも通う様に自然な足取りで歩くコードの目元は笑っている。

「ここは見ての通りの貧民街だ。
 住民は誰もが金を求めていて、誰もが腹を空かせている。
 体を売って稼いでる奴らも多いからな。
 ここまで言えば、言いたい事はわかるだろ?」

 コードはそんな説明をしてから一軒のあばら家に入った。
 薄暗く、灯りもないので崩れた天井の隙間から射し込む日光の近くしかカメラには映らない。
 その灯りを頼りに注意深く見てみると、顔を隠した性別不明の大人が一人と少年少女が五人並んでいるようだ。

「右から二番目の奴だな」

 そう呟き、コードは現地語で大人との交渉を始めた。
 交渉は画角の外で行われていて、カメラは少年少女を映し続けている。
 右から二番目の少女は何食わぬ顔で口笛を吹いている様に見える。

 交渉は10数分掛かって成立したらしい。

「ここはちゃんと撮っておけよ」

 残念ながら暗くてはっきりは見えないが、少なくない金のやりとりがあった事は窺える。
 それだけ分厚い金の束を手渡していた。
 そして少女の耳元で何か声を掛けた所で映像が終わり、また場面が切り替わった。

「おい、今度はちゃんと撮れてるんだろうな?」

 不満気な様子を見るに機材トラブルかバッテリー切れなどの初歩的なトラブルでもあって、想定外に撮影が途切れたのだと予想される。
 場所は泥棒にでも荒らされた後の部屋の様に物が散乱しているが、全容までは映っていない。

「まあ良い。これから実演だ。
 目の前で普通に喋ってて怖がられないのかって?
 あそこにいる奴らの殆んどは英語なんて理解しちゃいないよ。
 知ってる単語は金と回数と数字ぐらいなもんだ」

 薄汚れたベッドに座っているコードは少女を膝の上に乗せて服を脱がせた。
 下着を身に着けていない少女はワンピースタイプの服を脱いだだけで浅黒い肌を全て晒した。
 それでも平気な顔をしているので、それが何度も経験した行為である事が窺える。

「シャチョサン、シャチョサン。アハハハハ!」

 少女は楽し気に、小馬鹿にした様に笑う。
 パタパタと足を振って燥ぐ様子から、これから自分の身に何が起こるかは理解していないのだろう。
 そんな少女に微笑まし気な目線を送っていたコードは、口元を隠していた布をずらして素顔を晒し、酷く醜い笑みを浮かべた後で少女の首にナイフを当てた。
 そしてナイフは少女の頸動脈を切り裂く。

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!」

 少女の顔色が恐怖に染まって絶叫を上げるが、コードは構う様子もなく少女の首筋に吸い付いた。
 頸動脈を切られて、血が吹き出す傷口からゴクゴクと盛大に喉を鳴らして血を飲むコード。
 まるでおとぎ話のヴァンパイアの様な姿に、誰かわからないが男の声で「ひぃ」と小さな悲鳴が入った。

「タスケテ!タスケテ!」

 現地語で助けを求める少女の声に誰も応える事は無く、小さな体で逃れようと暴れていた少女は次第に静かになって動きを止めた。
 そしてコードはグッタリとして動かなくなった少女をベッドの上に置いてカメラに目線を送る。
 その恍惚とした表情は何とも表現しがたい多幸感に満ちていて、宗教にどっぷりと浸かりきった信者のような、混じり気の無い澄んだ瞳をしていた。

「うめぇぇぇええ!人間の生き血を啜るならこれが一番なんだぜ!はっはっはっはっは!
 後は好きに撮れ!」

 興奮した様子のコードはカメラの前で次々に少女の肉を食らい始めた。
 あまりにもグロテスクな映像に自重をしたのか、そこで場面は切り替わって安っぽいホテルの一室に戻る。

「今日は俺が肉を仕入れる所を見せた訳だが、考えてみたら俺はマシなやり方をしてると思うぜ。
 ちゃんと金を払って肉を買ってるんだからな。
 まあ、これだと足が付き辛いってのも大きいんだけどよ。
 カメラの向こうで、これを見てる奴らは楽しんで貰えたかい?」

 そう言ってコードは悪戯っぽく少女のものだったと思われる腕の断面を映した。
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