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case1-1
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私の名前は佐々木宏太。
しがない会社員をしている。
ここ最近、私の身に変調が起きている。
初めて変調に気付いたのは、結婚記念日に妻と焼肉を食べに行った時だった。
今思い返せば、もっと前から症状は表れていたのだろう。
しかし、はっきりと症状を認識をしたのはあの時が初めてだ。
店に入った瞬間から妙な不快感は感じていた。
注文を済ませてサラダをつまみ、ビールを飲みながら肉が運ばれてくるのを待つ。
テーブルに運ばれた肉を炭火で焼いて、肉の香りに強く食欲をそそられる...はずだったのだが。
その日の私は、見るからに美味しそうなタン塩の香りが酷く不味そうに思えてしまった。
「肉から変な匂いがしないか?」
「いいえ、美味しそうよ?」
そんなやりとりを妻と小声でしてから周囲を見ても、異臭に気付いている者はいない。
これはもしや自分の鼻がおかしいのか。
そう納得させて、片面だけ焼いたタン塩を口に入れた。
すると上に載ったネギは美味しいのにタンがあまりにも不味く感じて、私はすぐさま口の中にあるものを吐き出してしまった。
まるで三角コーナーに放置された生ゴミでも食べているかのような強烈な不快感があった。
食べた肉を吐き出した私に、周囲の視線が集まる。
結婚記念日に選んだお高い焼肉店での所業だ。
妻は何事かと慌てた様子で私を心配し、その後店員や客に謝罪した。
それがきっかけとなったのかは定かではない。
私は全ての肉から異臭を感じて、それ以降は肉を食べなかった。
妻はそうは感じずに、とても美味しかったと話していた。
あの一件から、私は一切肉を口に出来なり、それから程なくして魚も口に出来なくなった。
今の時代、食べ物の選択肢は幾らでもある。
まさか自分がヴィーガンになる日が来るだなんて思ってもみなかったが、大豆を使った代替肉なんかもあるし無理をしてでも肉を食べなければ死んでしまう訳でもない。
日本には精進料理なんて素晴らしい料理も存在しているし、そんな食生活も始めてしまえば案外気にならないものである。
料理を作ってくれる妻には申し訳ない気持ちだが、彼女は嫌な顔一つせずに私に笑顔を向けてくれていた。
愛する妻には心底感謝の気持ちしかない。
結婚記念日から3ヶ月が経った頃、妻の妊娠が発覚した。
あの焼肉屋での一件以来、私は妻に対して改めて深い感謝と愛情を持っていた。
妻を愛しく思っていたし夜の方も結婚当時の様に盛んだったから、結果として子供が出来たのは自然な事だった。
私は幸せの絶頂にいて、あの日の嫌な思い出などどこかに吹き飛んでしまった。
少しの躓きはあったが、私の人生はこれから素晴らしいものになる。
愛する妻と、これから生まれてくる子供を私が守って幸せにしていくのだ。
そんな風に考えていた私が代替肉にも強烈な不快感を抱くようになったのは、それからすぐの事だった。
しがない会社員をしている。
ここ最近、私の身に変調が起きている。
初めて変調に気付いたのは、結婚記念日に妻と焼肉を食べに行った時だった。
今思い返せば、もっと前から症状は表れていたのだろう。
しかし、はっきりと症状を認識をしたのはあの時が初めてだ。
店に入った瞬間から妙な不快感は感じていた。
注文を済ませてサラダをつまみ、ビールを飲みながら肉が運ばれてくるのを待つ。
テーブルに運ばれた肉を炭火で焼いて、肉の香りに強く食欲をそそられる...はずだったのだが。
その日の私は、見るからに美味しそうなタン塩の香りが酷く不味そうに思えてしまった。
「肉から変な匂いがしないか?」
「いいえ、美味しそうよ?」
そんなやりとりを妻と小声でしてから周囲を見ても、異臭に気付いている者はいない。
これはもしや自分の鼻がおかしいのか。
そう納得させて、片面だけ焼いたタン塩を口に入れた。
すると上に載ったネギは美味しいのにタンがあまりにも不味く感じて、私はすぐさま口の中にあるものを吐き出してしまった。
まるで三角コーナーに放置された生ゴミでも食べているかのような強烈な不快感があった。
食べた肉を吐き出した私に、周囲の視線が集まる。
結婚記念日に選んだお高い焼肉店での所業だ。
妻は何事かと慌てた様子で私を心配し、その後店員や客に謝罪した。
それがきっかけとなったのかは定かではない。
私は全ての肉から異臭を感じて、それ以降は肉を食べなかった。
妻はそうは感じずに、とても美味しかったと話していた。
あの一件から、私は一切肉を口に出来なり、それから程なくして魚も口に出来なくなった。
今の時代、食べ物の選択肢は幾らでもある。
まさか自分がヴィーガンになる日が来るだなんて思ってもみなかったが、大豆を使った代替肉なんかもあるし無理をしてでも肉を食べなければ死んでしまう訳でもない。
日本には精進料理なんて素晴らしい料理も存在しているし、そんな食生活も始めてしまえば案外気にならないものである。
料理を作ってくれる妻には申し訳ない気持ちだが、彼女は嫌な顔一つせずに私に笑顔を向けてくれていた。
愛する妻には心底感謝の気持ちしかない。
結婚記念日から3ヶ月が経った頃、妻の妊娠が発覚した。
あの焼肉屋での一件以来、私は妻に対して改めて深い感謝と愛情を持っていた。
妻を愛しく思っていたし夜の方も結婚当時の様に盛んだったから、結果として子供が出来たのは自然な事だった。
私は幸せの絶頂にいて、あの日の嫌な思い出などどこかに吹き飛んでしまった。
少しの躓きはあったが、私の人生はこれから素晴らしいものになる。
愛する妻と、これから生まれてくる子供を私が守って幸せにしていくのだ。
そんな風に考えていた私が代替肉にも強烈な不快感を抱くようになったのは、それからすぐの事だった。
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