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第3章 異世界で領地を経営します

63 年末年始のパーティ

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 ハーマルでのパーティには、ノルン地方の領主と各界の有力者を招待している。
 そして招待したお客は全て出席していると報告を受けた。

「閣下、ご面倒でもなるべく多くのお客様と挨拶を交わして下さい。皆閣下との交流を望んでいるのです」

「うむっ、光栄な事であるな」

 俺とユキは正面奥の椅子に腰を掛け、挨拶を順番に受ける。
 身分の高い者から順に並んで待っているらしい。

 俺の両横には、ナカハラ宰相とローグ将軍(オゥちゃん、オログ=ハイ)、エムジェイ魔術師団長(ジュンちゃん、ファフニール)に立って貰っている。


 最初に挨拶に来たのは、ノルン地方の領主アスロ伯爵夫妻だった。

「ご無沙汰しております。ノルマンド公爵閣下、公爵夫人。領地を安堵して頂き恐悦至極で御座います」

「ご健在で何よりです」


「閣下は素晴らしい人材を揃えて居りますな。……オゥログ=ハァイ様お久しぶりです」

「アスロ伯爵久しぶりだぁ。戦争が終わってから初めて会っただぁ」

「そうですな、オゥログ=ハァイ様の攻城突撃は最高でした。城攻めでは誰もかないませぬ」

「そんな事ねえだぁ。ハ~ハッハッハ~」


「ブリュンヒルデ様の【幻麗流紅一閃】げんれいのながれべにいっせんも、瞼に焼き付いて離れません。まるで昨日の事の様です」

「……さぁ? 私には何の事だか分かりませんが……」
 ユキの顔が紅潮した。

「はははっ、これは失礼しました。無粋な戦争の話は此処ここまでとしましょう。ところで、お子様がお生まれになったと聞きました。おめでとう御座います」

「「有難う御座います」」


「私にも子供が沢山いますが、いずれ交遊が持てると嬉しいですな」

「そうですわね」


「オッと後がつかえてますな、又後ほど、失礼致します」

「「御機嫌よう」」

 こんな調子で、ベルゲン伯爵、クリスティ子爵、スタバゲル子爵と続いた。


「貴族達は、ユキやオゥちゃんの正体を判ってる様だね」

「はい……オゥちゃんは、自然体で全然気にしてませんからね。私は素知らぬ振りを続けるしかありません」


 貴族の挨拶の後には、ノルン地方各街の有力者からの挨拶が続いた。
 成人前の子供は出席していない。貴族はデビュー後に社交界に登場する事になっているらしい。

 豪華な料理と酒、華やかなドレスの令嬢とのダンス等できらびやかにパーティが進んだ。


 俺はチヨを護衛騎士筆頭にしようと思ったが諦めた。他の護衛騎士達が貴族なので、身分が逆転するのは拙いらしい。最初のパーティの後に苦情を言われたのだ。

「閣下、チヨは護衛でも奴隷なのですから、末席としてください。そもそも奴隷は騎士になれません。そして、パーティ会場の護衛は、貴族の護衛騎士に任せて下さい。我々にも面子が有ります。家族も来るのですから」

「ふむ、そうであるか」


 チヨは奴隷登録してあるので貴族にする事は出来ない。しかし、側に置かなければいけないと宰相は言う。

「やっぱりチヨには離れて守って貰おうよ」

「は~っ、貴族の護衛騎士達は側に控えていても、暗殺者から閣下を守れないと思います。チヨ、どれ程の距離なら閣下を守れますか?」
 ミサエ・ナカハラ宰相が奴隷護衛のチヨに聞いた。

「はい、パーティ会場等では、直ぐ側にいる必要があります。暗器での暗殺に対応する為です」


「チヨを奴隷から開放してあげれば良いと思うよ」

「閣下を殺そうとした者を奴隷から開放して近くに置く事は出来ませんっ! まだ信用に値する仕事を何もしていないのですよっ!」

「そうだよねぇ」


「あのぅ……【忍術】スキルの【影鬼】を使えば、ご主人様の影に隠れる事が出来ますが」

「なんですって! そのスキルを今迄使わなかったの?」

「使ってましたけど、【転移】や空を飛ばれると解除されてしまいますから、ご主人様には難しかったのです」

「じゃあ俺が飛ばなければ、パーティの間も俺の影に、隠れ続ける事ができるのだね?」

「はい」


「今やって見せてくれるかい?」

「はい」

 シュンッ!

「ハヤッ! 一瞬で消えちゃった!……もしも~し、聞こえますか~」

『はい、聞こえます』
 狭いスタジオで喋ってる様なチヨの声が、耳に響いて聞こえた。


『影の中に居るときは、単一指向で声を伝えられます。ご主人様にしかチヨの声は聞こえません』

「チヨの1人称は『チヨ』なんだね」

『はい』
 チヨは2人だけ密室で会話をしてる様でドキドキした。しかも、影とはいえ密着した状態で『チヨ』と呼ばれて。


「チヨ、迎え撃つのも良いけど、こちらから暗殺者ギルドに出向いても良いのではないかな」

『いけません。ご主人様が危険にさらされます』

「チヨより強い暗殺者が居るのかい?」

『基本的に、それぞれが秘密主義者なので分かりません』



 話をパーティ会場に戻す。
 俺はノルン地方の領主達に軍艦(海賊船)建造について聞いた。

何方どなたか海賊船を一艘作る迄、船大工の棟梁を貸してくれないでしょうか?」

「私がお貸ししましょう。棟梁だけで宜しいのですか?」
 クリスティ子爵が応えた。

「はい。漁船の船大工ならトロルヘイムにも居ますし、私も手伝う予定です。 クリスティ子爵の船を修理をする時は、棟梁を直ぐに返しましょう」

「分かりました、早速派遣いたしましょう」

「有難う御座います」


「ノルン海賊の仲間同士の約束事が有るので、船長が決まったら、海賊会議に出席して下さい」
 とアスロ伯爵に言われた。

「通常海賊会議は年2回開かれてますが、公爵の船長が加入する時は臨時召集致します」

「有難う御座います……私も出席して良いですか?」

「はい、その時は私が同席しましよう」

「有難う御座います」


「ノルン海賊ギルドも有りますから、そちらもノルマンド公爵の船長に加入して貰いましょう」

「はい、分かりました」


 船長は、トロルヘイムの船乗りの中から推薦される者にしよう。
 そして海賊船だが普通の物では詰まらないよね。外観は普通で、実は中身は桁違いに優れてる物にしようと思う。
 外観は木造船に見えて、ほとんどが鉄製の船体にする。
 砲門を船の横っ腹に並べるのでは無く、船首と船尾に回転式の大口径連射機銃を設置する。
 銃身の内側にライフリングと言う螺旋状の溝を刻み、弾丸は団栗どんぐり型にしょう。命中率と飛距離が格段に上がるはずだ。
 船首は、突貫攻撃をして敵艦を撃沈出来る構造にしたいから、オリハルコン製にしよう。



 チヨには、親が決めた婚約者がいた。親にとって大事なのは千代の人生ではなく家の存続だったらしいのだ。
 チヨの1番重要な役目は、望月家に跡継ぎの娘を産む事だった。

 チヨは服を持っていなかった。着の身着のままで異世界に転移して、生活も厳しかったから。
 冬のコミケに行った時に服も沢山買って貰った。


「チヨ、異世界転移をしょっちゅうする訳にもいかないから、纏め買いしておくれ」
 似勢丹の売場に、皆で買い物に出かけていた。

「お兄ちゃん、私〈えりな〉とルミちゃん〈スクルド〉も買っていいよね~」

「しょうがないなぁ。 折角ここまで来たのだから、皆も服を買って良いよ」

「私も良いですか?」
 ミサエ・ナカハラが聞いた。

「勿論っ、遠慮しなくて良いよ」

「はい、有難う御座います」

(しまった。又、女子の買い物タイムに巻き込まれてしまった!)


「お兄ちゃ~ん、どっちが良~い?」

「始まったぁ、俺に聞かないでよ~。高くても良いから、好きなのを選んで良いからさぁ」

「そんなこと言わないでちゃんと見て~」

「はいはいっ、そっちそっち」

「お兄ちゃんっ! ほんとーにーっ! もうっ、なんですからーっ!!」

「はいはいっ」


 似勢丹の売場に、半日拘束されてしまった!

「無限ループに嵌ってしまう~っ!」
 と思った頃にやっと開放された。


「皆、似勢丹の買い物袋を沢山抱えているね、ナカハラさんとモチヅキさんは俺のインベントリーに入れてあげるね」

「お兄ちゃん、私達の買い物袋も入れてちょうだいっ!」

「なんでぇ? エリナ達は自分のインベントリーがあるでしょう?」

「こういう時は甘えさせて貰いたいのっ!」

「分かったよ、もぅ、しょうがないなぁ」


 エリナとルミナの袋を回収すると、ユキ(ブリュンヒルデ)も恥かしそうに差し出した。

「勿論、奥様もどうぞ。お持ちしましょうねぇ」

「ヒュ~ヒュ~ッ。 甘いなぁ~、お兄ちゃん!」

「も~ぅ」
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