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第3章 異世界で領地を経営します

60 戦後処理と新領地経営

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 アストリアのヘイミル国王は、新領地の経営が安定してきた事を確認して、捕虜を解放する事を決めた。
 スラベニア元皇帝、アラン元王子、エルシッキ元辺境伯を開放して、それぞれの国に帰す。

 俺が【転移門】を開き、アロンソ将軍とラウダ魔術師団長が護衛する。
 アラン元王子とエルシッキ元辺境伯は西ホクオー国のユング新国王に引き取られた。
 それぞれの国での立場は、それぞれの国に任された。

 ヘイミル国王は、敗戦国と属国を含めて東ゴートン連合を立ち上げて、年1回東ゴートン連合会議をアンディーヌで開く事にした。


 俺は、ノルン地方の領主達に進められて、ハーマルを領都にした。
 元ハーマル侯爵はユング国王の下で、西ホクオー国のゴテボルグを領地とした。ゴテボルグは西ホクオー国第2の都市だ。


 東ホクオー国ではハンス第1王子が国王に就任した。

 ノルン地方の領主で、東ホクオー国か西ホクオー国に移る領主も居た。それらの領主は新領地を貰う約束で移った様だ。
 領地を持たない貴族達は、ほとんどが両ホクオー国の王都に移った。
 クベンヘイブンが占領された時点で、行き場が無くなっていたからしょうがない。

 一部の貴族はハーマルの城での仕事を希望したので、無条件で受け入れた。

 俺が直接経営する領地は旧ハーマル侯爵領と旧トロルヘイム男爵領になった。両方を併せてノルマンド公爵領に改名された。


 そのほかのスカジ半島西部の主な領主は、アスロ伯爵、ベルゲン伯爵、クリスティ子爵、スタバゲル子爵で、大きな港町を領都としている。彼らは漁業で大きな利益を上げていると言う。
 大きな声では言えないが、海賊稼業も行ってる様だ。当然ある程度の武力〈海軍兼海賊〉を保有している。
 自国周辺では海軍で、他国の外海に行ったら海賊という事らしい。

 写真もビデオも無いので、拿捕だほされなければ証拠は残らない。捕まった時はなるべく国籍を隠せば良いが。止む無く国籍を知られた時は、国家間で取引する。
 海上での出来事は、捕虜の交換等ほとんどは金銭で解決するらしい。



 スカジ半島西部では、国家間の武力衝突はほとんど無かったのだが。俺はヘイミル国王にお願いして、スカジ半島西部新領地の初年度の国税半額を願い出た。

義父様おとうさま、兵の損失をほとんどせずに領地を拡大したのですから、減税して民心を安らかにしましょう。きっと新領主や新国民の信頼を得られるでしょう」

「ノルマンド公が戦争を終結させたのだから、お主の言う通りにするとしよう」

「有難う御座います」


「それより孫達ともっと遊びに来なさい。王妃が心待ちにしておるぞ」

「はい、分かりました」

「ヒルドに似て、とても可愛いからのぅ」
 国王の目尻が下がり、口元がニへ~っと緩んでいた。


「私には、あまり似てませんか?」

「いや~、似とる似とる、美男美女じゃ!」

「はははっ、有難う御座います。催促したようですいません」

「魔力の多い可愛い孫達が居て、アストリアは当分安泰じゃ。はーっはっは~」



 俺は結構仕事が多くなった、新領都ハーマルを治めないとイケナイから。
 ただし、あまり乗り気ではない。上級貴族の仕事に興味が湧かないのだ。
 ハーマル城の運営は、元ホクオー国の貴族に、なるべく丸投げするつもりだ。

 俺は領内をなるべく歩いて周り、民の実生活を見て改善点を考えることにした。
 最低限の社会的生活を確保して、教育や衛生面を整備したい。

 言語と算数の勉強を無償義務教育として学校を作り、上下水道を整え、豊富な温泉を利用して公衆浴場や公民館を作る。公的施設には温泉熱暖房を整備した。


 スカジ半島西部はフィヨルドが沢山あるので、川の流れや渓谷を吹き抜ける風を利用して、水車や風車を設置して発電する。家庭用ではなく、街灯や公的施設の灯りと扇風機、穀物の脱穀等に使う予定だ。

 水車や風車は、ノルン地方で採掘された鉄や、伐採された材木を使い製作した。物置小屋ぐらいの大きさで、単純な構造の物を沢山作って、設置し易そうな場所を選んで建てた。

 電線は塩ビ管に通して、上下水道管の隣や地中を通す。そしてなるべく近くで電気を消費する。
 電線網の巨大ネットワークを作る心算つもりは無い。変電所や送電線は高価だしそれに関する知識も無い、維持するにも専門知識と技術が必要だからね。

 無償義務教育を終えた者は、希望する専門課程の教育を受けられる様にする。
 魔術学校、騎士学校、職業専門校〈冒険者、漁師、猟師、樵、細工、加工等〉。
 これらは有料とするが奨学金制度を作る。出世払いの税加算方式で長期分割としましょう。
 学校運営で利益は出さないよ。専門技術を身に付けた成功者からの税収が増える事を期待したい。


 日本からの転生者ミサエ・ナカハラを財務大臣に任命した、彼女はとても優秀で良く働いてくれているから。

「ミサちゃん、あまり働き過ぎないでね」

「はい、閣下がチート能力を使い過ぎるので、あまり仕事はありません。もっと家臣を使ってください、使用人たちも皆、暇を持て余しています」

「そうなんだ……じゃあ、ミサちゃんを宰相にするから、思い通りに差配さはいしてくれないかな?」

「私が宰相ですか?……」

「うん、俺は人を使うのが苦手だから。それにミサちゃんの給料も、それなりにちゃんと上げるからお願いします」

「この世界で女性が宰相になるのは、始めてかも知れませんね」

「ワオッ! 初女性宰相就任おめでとう。 平民が宰相じゃ不味まずいから、国王に許可を貰って子爵にでも叙爵するね」

「……有難う御座います」


「あと、ハーマルのトロルヘイム男爵領都邸を上げるから宰相邸として使ってね、男爵とは思えない程立派な屋敷だよ」

「閣下はどうするのですか?」

「俺は元ハーマル侯爵邸を使うから、遠慮しなくて良いよ」

「はい」


「マイペースで異世界の人生を楽しんでね、俺の力が必要な時は遠慮なく言うんだよ」

「有難う御座います」


「よ~しっ、ミサちゃんに領地経営を任せたから、俺は海賊船を建造するぞーっ!」

「はあ? 海賊船ですか?」

「俺は海賊公爵になるっ!」

 そこは、海賊王だろっ! って突っ込んでくれなかった。


「え~っと、他国の船を略奪したいのですか?」

「まさかっ! 海洋冒険をしたいだけだよ!」

「だったら、【飛行】スキルで飛んで行ったらどうですか?」

「それじゃあ浪漫がないよね~」

「……浪漫ですか?」

「うん、海賊船に乗り望遠鏡で眺めて、あれが宝島だ! なんて言ってみたいよね」


「閣下の持っている宝以上の物は、もはやこの世界の何処にも無いと思いますけど」

「そうなの? 他にもう無いのかな……」


「閣下は、ノルン地方の魔力源泉を支配していて、豊穣の女神フレイヤ様の寵愛も受けてるのですから、これ以上の恵みは無いでしょう」

「そうだよね~。でも、海洋冒険は男の浪漫だと思うんだぁ」


「わざわざ海に出なくても、陸地でも良いではないですか?」

「え~っ、ドラゴンも巨人も親友だしなぁ。陸地での冒険ってスリルと浪漫が残って無いよねぇ」

「は~っ、しょうがないですね。閣下は大きな港町をそのまま元の領主達に支配させてるのですから、トロルヘイムの造船所と港を軍艦用に整備しましょう」

「やっぱり、そうするしか無いよね」


「大規模な施設改造整備ですから、閣下のスキルを使わせて貰いますよ」

「オッケー。モチのロンだよ」


「……他に臣下がいる時は、そういう言葉使いにも気を付けて下さいね」

「はい……ミサちゃんは異世界の友達が少ない様だから、2人きりの時はワザと親友みたいに喋ってるんだよ」

「そうですか……」


「使用人はミサちゃんが自分の好みで選んで良いからね」

「お気遣い有難う御座います。ですが私は奴隷の身分から助けてくれた閣下に、忠誠を尽くす事しか考えていません。私の好みで使用人を選ぶ事などは致しません」

「はははっ、ありがとう。でも俺はミサちゃんに、もっと幸せになって欲しいなぁ」

「はい……」
(それなら早く私に手を付けてくれればいいのに、この唐変木がっ!)



 翌日午前中から、ナカハラ宰相とトロルヘイムに【転移】して、港と造船所を見学する。
【転移】の為に宰相に近づくと、

「閣下、離れているとふらついて【転移】するのが怖いですから、もっとギュッと抱きしめて下さい」

「了解。ユウリ、テレポーテーーション!」

 シュィイイイイインッ!


 トロルヘイムに続いて、ノルン地方各地の軍港と造船所も見て周る。
【転移】する度に、宰相をギュッと抱きしめたが。
 何度目かに「はぁぁ…」と色っぽい溜息を吐いていた。
 

 ナカハラ宰相と意見を交わし、施設改造の青写真を描く。

「ミサちゃん、今日は楽しそうだね?」

「はい、【転移】で彼方此方あちこち見て周るのは楽しいです」

「軍港と造船所だけで申し訳ないね」

「いいえ、本当に楽しいです」


 トロルヘイムに戻り、スキルを使い改良工事を始めた。

「じゃあとりあえず、やってみるね。土砂をインベントリーに回収、岸壁を整地硬化、道路を整地硬化、旧造船所施設を回収、建築資材を搬出、基礎を掘削、セメントを流入……」

 ブゥウウウウウウウウウウンッ!

「待って下さい、そこまでで良いです。後は人力で作業して貰います」

「はーっ、オッケー。資材にシートを被せて置くね」


「閣下お疲れ様です、魔力を使い過ぎです、人間離れしていてビックリです。やり過ぎです、ヤラカシテマスから」

「ゴメンゴメン、止めてくれて良かったよ」


「いつもこんな調子なんですか?」

「うん、そうだね」


「……もう1人お目付け役を誰か付けた方が良さそうですね」

「そうかなぁ」

「はい、暗殺者にも狙われてる様ですしね」

 俺は、何度か命を狙われていた。しかし【気配感知】【危険察知】のスキルで未然に防いでいる。


「ミサちゃんは気付いていたんだ?」

「そういう所は、ちゃんと報告して下さい。それに自ら対処するのは止めてください、公爵なんですから」

「そうだよねぇ」


「日本の忍者的な技術を持ってる者を秘書として就けましょう」

「心当たりがあるの?」

「はい」
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