異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助

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第3章 異世界で領地を経営します

58 ユウリの選択

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「戦争反対!」

 ユウリは対人戦をしたくなかった。


 マルモにいるユングから参戦の誘いがあった時も、嫌々ながら1人でマルモに向かった。
 まだ領軍を組織していないので、兵は1人も居なかったから。

「軍隊なんか作らない!」
 と考えていた。


 マルモには、まだ行った事が無いので、港町アスロに【転移】してから馬で向かった。
 しかしマルモに到着すると、ユングはトックフォルムに移った後だった。

 仕方ないので、今度は馬でトックフォルムに向かう。
 そして、道中で思わぬ人に出会った、アストリアのアロンソ将軍だ。

「ノルマンド公爵、トックフォルムに行かないで下さい。私は今ヘイミル王の勅使として、ユング王子と条約を結びに行く所ですから」

「はい?」

「貴方が居ると相手側が強気になり、条約を結べないかも知れません」

「はい」


「条約が結べないとユング王子は友好国が無く、孤立無援でいずれ滅ぶ事に成るでしょう」

「はい……」


「ノルマンド公は中立を保ち、何処にも返事をしないで欲しいのです」

「はい……」


「今はお互いに軍事衝突を避け、政略を以って体制の維持を図る時だと思うのです」

「はい……私はユング王子と交流があります。彼には不幸に成って欲しく有りません」

「分かりました任せて下さい。結果を必ず報告しますから、今は領地にお戻り下さい、お願いします」

「はい、分かりました。それでは帰ります【転移】!」

 シュィイイイイインッ!


 政略と駆け引きばかりで、民があまり犠牲になってなくて良かった。
 どちらかと言うと、俺はユングを助けてあげたい。



 俺は彼方此方あちこちと、様子を見に行きたくなった。
【転移】出来ない場所は歩いて行くか、【飛行】【浮遊】スキルもあるけど、グラーニに乗せて貰って飛んで行く事も出来る。たぶんそれが1番早い。

「ラナちゃんお願い、スカジ半島南東部に連れてって?」

「旦那様、そこは遠慮無く命令してください」

「だって、グラーニは神獣でユキの従魔でしょう?」

「お嬢様から旦那様に従うように言われていますから」

「そうなんだ、ありがとう」


 戦争状態の所に行くので、警戒されない様に薄暗い早朝に飛んだ。

 最初に、ユングが国王に成り王都に定めたトックフォルムに行き、次にエルシッキ、バロルトの帝都リーガ、スラベニアのペテルブルグと帝都モスコゥの順に行く事にした。
 長居はしない、安全で見付かり難い転移ポイントを確保出来れば良いのだから。


 明るくなってからは、スカジ半島東部のスラベニア軍が侵攻した街を周った。
 スラベニアの駐屯兵が居る所では、インベントリーを使い武器と輜重を奪い、【麻痺弾】や【風弾】で兵を戦闘不能にして拘束した。
 略奪物は町に全て返して、捕虜にした兵は適当な場所に拘留して貰った。後で馬車ごと【転移門】で移動する予定だ。
 小さい町ばかりなので駐屯兵も少なく、俺とラナちゃんで簡単に拘束してしまった。
 美人すぎるラナちゃんには、ベールで顔を隠して貰っていた。ユキと間違われても困るしね。
 えっ、俺は良いのかって。平凡な顔だし、今更隠してもね。

 拘束した兵達は、馬車でスラベニア国境間際まで乗せて行く。
 両手は農業用ズタ袋を被せて結わいてある、指が使えなければロープを解けないだろう。


「真っ直ぐ国境を越えてスラベニアに帰るんだよ。そうでなければ、今度は捕虜か奴隷に成ってしまうから」

 何人かの兵が物言いたげに、俺を見ている。
「あの~……」

「なんだい、言ってごらん」


「私達はスラベニアに戻れば処刑されてしまいます。旦那様の下で使ってくれないでしょうか? 勿論奴隷でも結構です」

「……う~ん、俺は便利なスキルのお陰で、人手に困らないのだけど……」

「「「お願いします」」」


「国に家族は居ないのかい?」

「妻や子も居ます。しかし、占領した町を奪われてスラベニアに逃げ戻れば、家族もろとも処刑されるでしょう。それなら戦死扱いにして貰った方が、家族は罰を受けないのです」

「分かった。とりあえず一般奴隷としてトロルヘイムに連れて行こう。まじめに働けば奴隷から開放して、家も支給して家族を連れて来てあげよう」

「「「おおぅ!」」」


「有難う御座います……あのぅ、旦那様の事を何とお呼びすれば良いでしょうか?」

「あぁ、えっとぅ……ノルマンドと呼んでくれ」


 結局捕虜全員を俺の奴隷として領地に連れて行く事になった。
 スラべニア帝国に占領されているスカジ半島東部の町を全て開放したら、奴隷が百人以上になってしまった。

「トロルヘイム領主邸に【転移門】テレポゲートオープンッ!」

 ブゥウウウウウンッ!


「「「おおぅ!」」」

「はーいっ、驚いてないでサッサとゲートに入ってね~」


 領主邸の庭に整列させる、百人ぐらい問題無く入れる広さの庭ですから。
 俺はクベンヘイブンの奴隷商人の店に【転移】して、『隷属の首輪』を人数分買ってきた。
 全員の首に嵌めて魔力を流し込み、一番拘束力の軽い一般奴隷の契約を結んだ。
 因みに『隷属の首輪』はその土地の支配者か、支配者の許可を受けてる者しか使用できない。
 勿論、俺は使用できた。

 ミサエ・ナカハラをトロルヘイム領の奴隷管理者に登録した。
 彼女はもう奴隷では無い。ホクオー国が瓦解して、俺のステータスの職業欄がトロルヘイム男爵からノルマンド公爵になった時、彼女の『隷属の首輪』の最高管理者がホクオー国王から俺に移ったからだ。俺は彼女の首輪をスグに外した。

「おめでとう、君は自由になったよ」

「有難う御座います。このまま引き続き、仕事をさせて貰えますか?」

「勿論お願いします」


 彼女は【簿記】【経営管理】【資金管理】【大阪商人】などのスキルを持っている。

「【大阪商人】って何だろうね?」

「私の両親は、大阪で手広く商売をしてましたから、その経験を受け継いでるのだと思います」

「そう言えば大阪出身だったね、技術的な物が何でもステータスに表示されるのだね」

「付随スキルとして【商売繁盛】と言うのもあります」

「【商売繁盛】って何が出来るの?」

「そのままです、儲ける事が出来ます」

「あっ、そぅ……頼もしいスキルだね」

「はい」
 ポッ! ミサエは頬を両手で覆った。


 彼女はロングヘアーをアップで纏めて、デキル子ちゃんスーツでビシッと決めて、ハイヒールを履いていた。
 彼女の誕生日に欲しい物を聞いて、プレゼントしてあげた物だ。
 魔力源泉から東京に【異世界転移】して、自分で選んで貰った。
 とても時間が掛かったが、女性の買い物に付き合うのは男にはキツイ!

「ミサちゃんま~だ~?」

「旦那様こっちとあっち、どっちが良いでしょう?」

「う~んっ、こっちかな~」


「旦那様こっちとそっち、どっちが良いでしょう?」

「う~んっ、そっちかな~」


「旦那様そっちとあっち、どっちが良いでしょう?」

「う~んっ、あっちかな~」


「もうっ、旦那様っ! 順番に回ってるだけですっ!」

「ゴメンゴメン、ミサちゃんが良いと思う物が良いよ」

 こんな具合で時間が掛かり大変だった。


「従業員達は女性ばかりだから、誕生日は大変だな~」
 仁勢丹にせたんの売場で1人呟いた。

 別に彼女だけで特別扱いでは無い、従業員達皆の誕生日を把握していて、欲しい物をプレゼントしている。
 プレゼントをあげて手作りケーキを一緒に食べるのは俺の趣味なんだ。

 えっ、領主がそんな事するのは可笑おかしいって。
 美味おいしい顔、喜ぶ顔を見るのが好きなんだからほっといてよ。

 ケーキやお菓子を作ってる時間が1番楽しいのだから。
 自分の思い描いたお菓子やケーキを作る感動は、男友達には理解して貰えないけどね。


 奴隷達の希望を聞いて、ステータスの適正も確認して、働く場所を振り分ける。
 製鉄所・陶磁器工場・木工所・石工所・革加工所・漁師養成所などに併設されてる寮に住まわせた。

 各工場は、経験者を募集してまだ始めたばかりなので、手探りで稼動している。
 指導者は、それぞれの分野で引退した老人に頼んでいた。
 ゆっくり経験を積んで、少しづつ営利が出る様に成れば良いと思っている。

 それと大き目の下水道を各施設に整備した。
 産業革命初期に工場周辺の未発達の下水道から、伝染病のパンデミックが起きてる事を大学の講義で勉強していたからだ。
 急速に人口が集中した工場地帯の下水からチフス等が蔓延したと言う。


「営利が出て、働いてる者の生活が向上して余裕が出れば、独立しても良いし。工場ごと引き取って貰って、稼いで貰っても良いよ」

 従業員と奴隷達にそう告げた。
 俺は工場の売上からの税金だけで良い。


「まじめに働き生活態度の良い奴隷は、早く解放して家族を連れて来てあげよう。 一個建ての家も建ててあげよう。注文住宅ではなく建売でね」
 住宅ローンは大銀貨1枚ずつぐらいなら徴収出来るかな。


 領主邸でも3人の奴隷を働かせることにして、文字が書けて計算が出来る者を選んだ。



 ホクオー国のアラン王子とユング新国王が対立してる為、スカジ半島の領主達はそれぞれの考えで行動している。まるで日本の戦国時代の守護大名の様だ。

 俺はノルン地方の魔力源泉を支配しているので、ノルン地方に住んでる者全ての魔力供給をコントロールできる。
 勿論そんな可哀想な事はしない心算つもりだが、ノルン地方の中に居る限り、怖い者無しに成ってしまっていた。誰かに魔力源泉を奪われれば別だけど。
 そんな理由もあって、俺は公にノルマンド公爵を名乗る事にした。
 ユウリ・ユリシーズ・ノルマンド公爵だ。


 それを聞いたアストリア王国のヘイミル王は狂喜した。

「皆の者、かつての繁栄を取り戻したぞ! ノルン地方とデマルク地方を取り戻し、ホクオー国とバロルト国を属国としたのじゃ!」

 アラン王子には悪いけど、ユングにホクオー国を継いで貰いたいと思っている。
 でも戦争で多くの人が犠牲になるのは避けたいから、ボスニア湾を境に2つの国に成っても良いかなとも思った。
 まぁ、民が犠牲に成らない様に、上手く妥協してくれると嬉しいね。



 スラベニア帝国はペテルブルグにマクシム将軍を常駐させて、バロルト、エルシッキ、アストリアの隙を狙っている。
 一時はバロルト国内に侵入して、略奪を行っていたが、アストリア軍が援軍に現われると、国境の川を渡りスラベニア国内に引き上げた。

「スラベニア帝国が元凶だよね、ペテルブルクの輜重を奪ってしまおうかな?……」
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