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第3章 異世界で領地を経営します

49 領主のお仕事

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 トロルヘイムの領都長が役員と一緒に、領主邸に尋ねてきた。

「初めまして、領都長のフロイスと申します。以後よろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 続いて役員達も紹介された。
 一連の挨拶が終わると、すぐに税金の話になる。

「御領主様、民は税金が高く生活に困窮しています。どうか税金を見直して頂けないでしょうか?」

「はい。 税金ですが、ホクオー国が毎年大銀貨1枚(日本で1万円ぐらいの感覚)を住戸税(国税)として徴収する事に成っています」

(家1軒に付き毎年大銀貨1枚で、住んでる人数に関係ない。徴収額を決めやすく徴収経費や人件費が少ないというメリットがある)


「御領主様は、領地(地方税)の税金をどれ程徴収される予定ですか?」

「徴収しません。 国の住戸税も今年度は免除して貰うつもりです」

「ざわざわざわざわっ……」


「そんな事が出来るのですか?」

「出来なかったら、私が皆さんの住戸税を払いましょう」

「ざわざわざわざわっ……」


ちなみに去年は、税金をいくら払っていましたか?」

「去年は一戸当り金1枚(日本で10万円ぐらいの感覚)です」

 異世界のトロルヘイム領は、日本に比べてGDPがかなり低いと思う。
 現金収入の大半は、漁師の魚の売上だろう。


「そんなに!……皆さん払えたのですか?」

「いいえ、借金をしたり子供を奴隷商人に売ったりした者もいました」

「それは酷い……領都長、売られた子供のリストと、借金の借用書を全て持って来て下さい。あと、奴隷商人と金貸しについても教えて下さい」


「何をなさるおつもりですか?」

「まだ分かりませんが、何が出来るか、これから良く考えます」

 ユウリは珍しく真剣な顔に成っていた。


「領都長、些細な問題でも全て私に報告して下さい。何時いつでも何回でも訪ねて来て下さい。貴方が民から話を聞いて、ここに報告に来るのです」

「分かりました、よろしくお願い致します」



 俺は領主邸前と領都長の家の前、それと中央広場に掲示板を立てて布告した。

『領内に於ける奴隷売買禁止』
『金融業を登録認可制とする』
『生活困難な民は、必ず領都長か役員に相談する事』


 次に事業計画案を立てて布告表明した。

『学校を建設して、国語と算数を義務教育とする』
『誰でも利用出来る図書館を建設する』
『絵本を出版して、子供が居る家に配布する』

 以上  領主ユウリ・シミズ・トロルヘイム


 後半は識字率と計算力を上げる為の物で、出版物にはコミケ出店の技術を流用する事にした。


 クレアとクララとマリウスは、研修所で使用人の勉強を始めている。
 教えるのはビアンカとコルデリアだ。

 俺は3人にも使用人用の装備セットを配った。

マジックバッグ……50種類のアイテム収納。
緊急転移リング……危険な時に研修所に転移。
無線ブローチ……スターとレックの様な物。
犯罪者撃退ボール……犯罪者に破裂し麻痺目潰し。
魔物除けネックレス……弱い魔物を寄せ付けない。
オウム型トーチ……肩乗せライト。
着替え用ワンタッチテント……女性キャンプ用品。
魔法の水袋……10リットルの水を入れる事が出来る。
シャベル・マグカップ・スプーン・歯磨きセット・ヘアブラシ・寝袋・折り畳みマット

 それと新たに「ベトネットガン」というものを従業員全員に配った。
 長さ20センチ幅3センチ程の円筒状の形で、発射すると蜘蛛の巣状のベタベタしてるネットが広がり、不審者を捕獲する事ができる。革のホルダーに入れて腰に着けれる仕様だ。

 無線ブローチは距離が離れると魔力マナの消費も増えてしまう。
 領主邸と研修所の距離では、数回で魔力が切れてしまうが。魔力のある者に充填して貰うか、魔石から充填する。

 転移部屋に転移魔道具を設置して、登録者以外ドアを開けられず、魔道具も発動出来ない様にした。
 領主邸と研修所の転移部屋間の移動しか出来ない仕様だ。
 従業員全員が、使用出来る様に登録しておいた。


 広い領主邸は掃除が大変だから、気が付いた時にスキルで一気にやってしまう。

「部屋の埃を全てインベントリーに収納!」

 焼却炉の前に行った時に、
「インベントリー内の埃を全て焼却炉に移動!」

 机の上を指でこすって確認したりしないけど、たぶんこれで大丈夫。




 領都長が奴隷商人に売られた子供のリストを持って来た。
 子供達は王都クベンヘイブンの奴隷商人に売られていたので、【転移】で奴隷商人の店に行き、全ての子供達を買い戻した。

 奴隷商人は俺の事を既に知っていて、

「全て買い戻してくれるなら」

 と言って、買値の1割増しで売ってくれた。通常は2割増し以上で売るのだと言う。


「安いですね」

「まだ教育してない奴隷は安いのです。仕事を仕込んでスキルや魔法も覚えたら、倍以上で売れますが……」


「領地の税務処理や事務処理が出来る奴隷はいますか?」

「1人だけ領主館で事務経験のある奴隷がおりますが……実は犯罪奴隷なのです。それでもよろしいですか?」

「トロルヘイムの領地邸で働くのに犯罪歴が有るのは、不味まずいかなぁ」

隷属れいぞくの首輪が着いてますので、主人の命令を破ったり、危害を加える事も出来ません。法律を犯しても首輪が締まりますし、主人がゆるめるまで苦しむ事に成ります」

「その人を見せて貰っても良いですか?」

「はい、連れて参ります。少々お待ちください」


 結構待たされたが、25歳ぐらいの女性奴隷がスーツ姿で奴隷商と入って来た。

「遅くなりました、化粧と服装を整えてましたので」

「大丈夫です、女性ならしょうがないですよね」

「自己紹介させますね」


「ミサエ・ナカハラ、24歳です。税務と簿記の経験があります」

「!」


「質問があったらどうぞ」

「はい……犯罪歴を聞いても良いですか?」

「横領です」


「幾らぐらい横領したのですか?」

「毎日パンを1個、銅貨3枚分です」


「……食事に困ってたのですか?」

「はい」


「何処で働いてたのですか?」

「トロルヘイム領主邸です」


「……それはどうも。 俺はそのトロルヘイム領の新領主で、ユウリ・シミズ・トロルヘイム男爵と言います」

「……にほ…ん…じん!?」


「貴方さえ良ければ、又トロルヘイム領主邸で働いてくれませんか?」

「私に選択する権利は有りませんが……又、働けたら嬉しいです」

「分かりました。ご主人この奴隷を買います」

「はい、有難う御座います。事務関係のスキルが高いので金貨3枚でございます」

 俺は奴隷商人に金貨3枚を即金で払った。

「有難う御座います。又のご利用をお待ちしております」



 俺は【転移門】で子供達とミサエ・ナカハラをトロルヘイムに連れて行き、屋敷で【洗浄】【乾燥】の魔法を全員に掛けた。
 病気の子供もいたので【完全回復】で治療してあげる。
 子供達全員にパンと小麦と大豆の入ったリュックサック(普通の物)を配った。

「領内での奴隷売買は禁止しました。食事に困った時は領主邸に来て、パンを無料で受け取りなさい。困った事が有る時は領都長か領主邸に相談に来なさい。俺が居ない時は手紙を置いていく事」

 そう言い含めて、一軒一軒、子供を親に帰して周った。


「ナカハラさんは、ここに住み込みで働いて貰います。3階の個室を使って下さい。すでに俺と家族が使ってる部屋以外から選んで下さいね」

「はい」


「事務仕事以外はしなくて良いです、1日8時間以上は働かないで下さい。2日働いて1日休みです。月1回連休と有給が有ります、溜めといて纏めて消化しても良いですからね」

「はい……でもそれは普通の従業員の場合で、奴隷は違いますでしょう?」

「貴方も普通の従業員として働いて貰います。全ての待遇も同じです」

「はい」


「食事と風呂と洗濯は【転移】してフォレブ草原の研修所で使用して下さい」

「はい」


「それでは一緒に転移部屋から転移しましょう。良く見て転移方法を覚えて下さい。簡単ですから」

「はい」


 一緒に研修所に転移して、食堂で夕食を食べる。テーブルを挟んで反対側に座って貰った。

「ナカハラさんは日本人ですか?」

「はい……御主人様も日本人なのですね」

「そうです。ナカハラさんはどうして異世界へ来たのですか?」

「災害で死んだらしいです、気が付いたら転生してました」


「日本に帰りたいですか?」

「はい勿論。しかし今の私は全く違う姿ですので、帰っても誰も私を知りません。たぶん家族も全員亡くなっています」

「そうなんですか」

「はい、転生した時に聞かされたのです。真っ白な世界で声だけが聞こえて、16歳の若さで転生しました」

「8年前ですか? 結構長く頑張ってましたね」

「日本で亡くなった時は26歳独身で、仕事は事務職でした」


「という事は、転生した時に10歳若返ったのですね?」

「はい。転生特典をくれると言うので、容姿も自分の望む姿にして貰いました」


「異世界小説に有る様な、チートスキルは貰わなかったのですか?」

「有ります、【絶対貞操防御】です。好きでない男から操を守れるのです」

「凄い、そんなスキルが有るんだ」

「はい……その為に前領主の誘いを拒否して、憎まれ罪人にされました」

「えっ……パン1個を盗んだと言うのは?」

「支給されてるパンを盗んだ事にされたのです」

「濡れ衣ってやつですか……」


「ご主人様も転生なのですか?」

「いいえ、この異世界には転移で来ています。家族は日本に住んでいて、【異世界転移門】の魔道術式で何度か往復しています」

「……往復!?」


「今度一緒に連れていって上げますね」

「……今、日本は何年ですか?」

「2019年です」


「私が転生当時の日本は1995年1月17日です。同級生は50歳に成っていますね」

「時間軸が違いますね……」

「はい、帰らなくても良いです……」


「まあ、深刻に考えないで、日本に行きたくなったら教えて下さい、旅行気分で行っても良いじゃないですか」

「……はい」


「冤罪なら奴隷からも開放しましょう」

「犯罪奴隷の身分解放は原則出来ません、隷属の首輪も原則外す事は出来ないのです」


「例外もあるの?」

「国に大金を払うか、ご主人様が亡くなり相続者が居なければ開放されます」


「結婚は出来ないの?」

「ご主人様が認めた相手となら出来ます」

「それじゃあ、相手が出来たら教えて下さい」

「……はい」



 領民達からの相談事は沢山有り、多義に渡っていた。
 仕事の事、家族の事、街の事。


 具体的には、

 漁師の船の修理。
 家の修理。
 家族の病気。
 子供の就職先。
 道路や橋の整備。
 港の改修。


 病気は回復魔法で治療する。
 各種修理はスキルを使用する。
 領主が直々に回復や修理をすると領民達は恐縮していた。

 整備はスキルと魔法で、地道に時間を掛けておこなった。大量の土砂を運び整地するのは、魔力が沢山必要だから。

 子供の就職先に関しては現地で取れる材料を使い、造船業と石工場と陶磁器工場を始めるつもりだ。
 海産物も豊富なので、漁師に成りたい者も手助けする。船、網、銛等を無償貸与する。
 現金は貸さない、借りは獲れた魚や製作物で帰して貰う。

 緑茶は16世紀後半ごろ日本からヨーロッパに伝わったと言われている。
 17世紀に入ってから、紅茶はヨーロッパ人の好みに合わせて緑茶から改良されたらしい。
 欧米の童話絵本を見るとティーポットとティーカップが書かれてるが、19世紀頃から使われる様になったらしく、それまでは日本の茶碗の様な物が使われていたと言う。
 その茶碗も日本が鎖国をすると輸入出来なくなり、中国から輸入するようになったと言う。
 ベルサイユ宮殿で王族が、ティーポットからティーカップに紅茶を注いで飲んでる描写は現代人の創作らしい。
 そもそもフランス人は紅茶を飲む習慣があまり無いらしく、もっぱらミルクを入れたカフェ・オ・レだと言う。
 実際に美術館で17世紀から18世紀頃に書かれた絵画を鑑賞すると、取っ手の無い丸い茶碗でお茶を飲んでる姿しか見られない。
 しかも当時のお茶を飲む時の作法として「ズッズッズッ」と音を立てて飲んでたと言われている。
(諸説あります)

 陶磁器工場を作って地元の人に就職して貰い、領の特産品としてティーポットとティーカップを作って貰おうと思っている。
 職人達にタブレットでビデオを見せるつもりだ。
 石工場や木工場や製鉄所でも同様に、現代日本の技術を職人達に見て貰う。
 彼らの製作意欲を刺激して、自分達で創意工夫をして貰い、金銭的にも芸術的にも豊かな人生を送って貰いたい。
 物作りで収入を得る喜びを領民達に味わって欲しい。
 彼らが子孫に残せる技術として、俺はなるべく手を出さず、アドバイスをするだけにしようと思う。


 妖精の森の恵み、討伐褒章、クエスト収入、魔物からのドロップアイテム、宿と雑貨店の収入、魔道具とポーションと武器防具の売上等、現金が有り余っているので、税金を当分徴収しなくても良さそうだ。
 スキルと魔法のお陰で、人件費、運送費、材料費、時間を節約出来るから、税金の使い道もあまり無い。
 しかも、賭博場で金貨360枚以上(日本で3600万円ぐらい)儲けてるしね。

 GDPは異世界の方がかなり低いみたいだ。
 直接為替交換出来ないから正確には分からないけど、単純に異世界の金(ゴールド)を日本に持ち込んだら、金貨1枚あたり10万円ぐらいに成りそうだ。

 暇な時や、ついでの時に採取した宝石と鉱物もイッパイ持っている。孤児院に寄付したり、ハンスの借金を払ったりしたけどまだ結構残っていた。

「異世界でチートで、俺金持ちぃぃ」って、言っても良いと思う。
「ノブレス・オブリージュ」って言葉も有るから、義務も果たさないとね。

 領地や領民に対して為すべき事は幾らでも有るけど、少しづつユックリ行政を行いたいと思っていた。
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