異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助

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第2章 異世界の研修所で働きます

45 田舎の領主ですか?

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 「そう言う事だったのか……」

 騎士団長ボアズは、壁が崩れた屋敷を眺めながらそう言った。
 俺達は賭博場と屋敷の間の路上に立って、被害状況を確認しているところだ。

「旦那様、孤児院出身のクレアが折檻されていたのは、この崩れた屋敷の中です」
 ラナちゃん(グラーニ)が教えてくれた。

「えっ、そうなの! じゃあこの屋敷と賭博場は、同じ家主かも知れないね」


「団長、ゴブリン以外の人族に被害は出ていません」
 騎士団員がボアズに報告した。

「はぁ良かった~。今度から町中でスキルを発動する時は気を付けるようにします」

「そうだね。ユウリくんの場合は、町中でスキルを使わない方が無難だね」


「ところで、賭博場やこの屋敷の持ち主は誰でしょう?」

「トロルヘイム男爵と言って、オダルスネ町があるトルブダレン領の北隣の領主だ」


「……コボルトの被害があった港町オダルスネの北隣の領主ですか?」

「そうだね、一緒に護衛任務で行った港町の北隣の領主がトロルヘイム男爵だよ。社交場も賭博場も彼のお気に入りのクァート商人が経営している。トロルヘイム男爵は、ハーマル侯爵の派閥に入ってるんだ」

「うっ、それは不味い事をしてしまいました」

「う~ん、大丈夫だよ。元々噂の多い男爵だったからね。 ゴブリンを雇ってたって事は、魔族と関係が有ったって証拠になるし、マンドレイクの大量採取、違法密造酒の販売も罪に問われるだろうから」


「ハーマル侯爵はどうなりますか?」

「たぶん、監督責任を問われて処分されるだろう」


「国王陛下とハーマル侯爵の関係はどうですか?」

「良いね……ホクオー国の首都クベンヘイブンは、海を渡った南に有る。だから国王は、ハーマルをノルン地方統治の重要拠点として考えているんだ。その為に、ハーマルに騎士団の支部を置いてるぐらいだから、ハーマル侯爵は国王派と言えるだろう」

「う~ん、国王の機嫌を損ねたくないですから……今回の事はハーマル侯爵の依頼で、俺が潜入捜査をしていた事に出来ませんか? そうすればハーマル侯爵の手柄に出来ますから、処分される事は無いですよね」

「ハーマル侯爵が魔族に関わって無ければ出来るだろう。オークやオーガがハーマル領の町を襲ったのだから、侯爵はこの事件に無関係だったのだろうが……しかし、このままユウリ君の手柄にすれば、かなりの褒美を期待出来るぞ」


「……私も妻もこの国の出身では有りませんので、褒美は結構です」

「たとえ元敵国の出身者でも、現在この国に貢献してるのだから構わないと思うが……」

「はい……」


「そもそも、ホクオー国は巨人族側に味方して領土を拡大した新興国だ。戦後の混乱期に、神族と巨人族が去ったスカジ半島に軍を進めて、戦わずして街々を占拠したのだから領主も民も他国者ばかりなんだ」

「はい……」

「ユウリ君は上級貴族をも超える魔力があるんだから、何処に行ってもいずれ貴族に目を付けられる。貴族は魔力量の多い者が尊ばれるのだからね……この際、国王に謁見して挨拶しといた方が良いんじゃないか?」

「はい……そうですね。
 ところで、トロルヘイム男爵とクァート商人はどうなるでしょうか?」

「厳しい裁きが下るだろうね」

「やはりそうなりますか」


「とりあえず王宮に帰って、今回の事件を報告してくるから。ユウリくんは心配しないで帰っていいよ」

「はい、急に呼んですいませんでした」

「いや、一気に一連の騒動を解決出来そうで、逆に感謝してるよ」

「はぁ……」



 騎士団長ボアズはハーマルの城に行き、侯爵に事件の概要を告げた。

「ふむ、トロルヘイム男爵が魔族の手引きをしていたのか……」

 ハーマル侯爵の顔色は冴えない。


「ユウリは、『ハーマル侯爵の依頼を受け潜入捜査をして、男爵の尻尾を掴んだ』と言っています」

「ふむ、そう言う事にしてくれると言うのじゃな。大きな借りになるのぅ」


「オークとオーガの侵攻を防ぎ、魔族と悪巧みを計った黒幕も捕らえる事が出来たのですから、それで良しとしませんか?」

「そうじゃな。兎に角とにかく、まずは国王陛下に報告に行こう、ハーマル領内だけの問題では無いのだから」

「はい」

「ユング第3王子も連れて行こうか?」

「はい、ユングはちょうど王宮に戻って居る筈です」



 2人は転移専用の部屋に入り、大きなクリスタルで出来ている専用魔道具に触り王宮に転移した。

 シュィイイイイインッ!!

 この世界のほとんどの城には転移専用の部屋が有り、守衛が必ず見張りをしている。
 転移先は魔道具に登録されてる任意の地点に限られていた。


 ハーマル侯爵とボアズ騎士団長はクベンヘイブン王宮でユング第3王子を呼び出して、3人で後宮を訪ねた。

「国王陛下に謁見したい」
 ハーマル侯爵が侍従に告げた。

「危急の御用件でございますか?」

「そうだ」

「わかりました、こちらでお待ち下さい」

 3人はホールのソファーに腰を掛けた。



「準備が出来ました。ご案内させて戴きます」

 3人は侍従に案内されて、王宮の執務室に連れて行かれる。
 近衛兵がドアを開けると、国王と宰相がソファーに座って待っていた。


「ハーマル侯爵、随分夜遅い来訪だな」

「はい陛下、この様な時間に申し訳ありません」


「緊急の用件なのだな?」

「はい。現場を確認してきたボアズ騎士団長から報告をさせます」

「御報告させて戴きます。事の成り行きは……」



「そうか、又ユウリが活躍してしまったか」
 国王陛下は溜息をついた。

「しかも、こちらを気遣い丸く治めようとするとはのぅ」


「陛下、トロルヘイム男爵とクァート商人は処罰しなければなりません」
 宰相が口を挟んだ。

「当たり前じゃ、極刑以外考えられぬわっ!」

「ははーっ」


「ハーマル侯爵よ、お主の指示で手柄を立てたと言うユウリに、トロルヘイム男爵領を与えるのだ。ユウリと刷り合わせをして、フレイヤ様の許可も貰うのだぞ。話が纏まったらワシがフレイヤ様に一筆したためようぞ」

「陛下、トロルヘイム男爵領は小さな町しかない貧しい領地です。土地は広いですが、ほとんどが岩山と針葉樹の森です。山にはドラゴンの巣が有り、森にはトロールが住むと言われています」
 とハーマル侯爵が言った。

「ふん、戦後に戦わずして支配したのだから、そんな物だろうよ」

「陛下~、そのような事を仰ってはなりませぬ」
 宰相が困った顔をした。


「それよりも、彼方此方あちこち何時いつ迄も空白地帯を残して置く方が問題じゃ。支配能力を内外に疑われてしまうわい。
 ドラゴンの山もトロルの森も妖精の森も、妖精王フレイとフレイヤの許可を貰い、ユウリを人族だけに対する領主としてしまえば良いのじゃ。
 フレイとフレイヤが納得する様に、ワシが密約書を書けば良い。兎に角とにかくスカジ半島の完全領土化を公に近隣諸国に認めさせるのじゃ」


「陛下、貧しい領地でも税金は徴収しなくてはなりませぬぞ」
 と宰相。

「漁師と猟師ぐらいしか居ないのだから、人族の住戸税だけで良かろう」

「一戸辺り、年に大銀貨1枚ぐらいでしょうか?」

「それで良い……町が発展した時に、改めて増税を考えようぞ」

「ははーっ」




 後日、ユウリはハーマル侯爵を公式に謁見して、賭博場の事件に付いて証言をした。
 ハーマル侯爵はホクオー国の事情をユウリに説明して、フレイヤに国王の親書を携え会いに行くよう依頼した。


『親愛なる妖精族の王妃フレイヤ様、スカジ半島の領主不在の空白地帯に、妖精族が納得できる人族の領主を置かせて頂きたいと思います。ユウリ・シミズを領主にと考えていますが、全てフレイヤ様のお気持ち次第と考えております。どうか御一考をお願い致します』

 フレイヤはホクオー国国王の親書を読んだ。

「ふむ……外交以外の策略は無いようですね。トロルヘイムと妖精の森を含めて、人族のユウリを領主と認めましょう。 これで妖精族は中つ国ミッドガルズの支配地を全て捨て、アルフヘイムに帰った事になります」


「妖精族はそれで良いのですか?」

「構いません。この混沌とした中つ国ミッドガルズ世界の支配権争いはもうウンザリです。それに私達はラグナロクで敗北したのですから。
 しかし一部の妖精族はこの地に残り、人族とも縁を結んで生活しています。ユウリが領主として、その者達の保護者となって下さい。私も妖精の森の魔力源泉管理者として、陰ながら応援しましょう」


「ホクオー国国王陛下はトロルヘイム領の人族から、住戸税大銀貨一枚を徴収すると言っていますが、妖精族からは住戸税を徴収しない事を約束すると言ってます」

「それは結構ですね、森深くに住んでる者達は、ホクオー国の通貨を持ってませんからね」

「そうですね。それなら人族と離れて暮してる妖精族からは、一切税を徴収しない事を国王に約束させましょう」

「ほぅ、貴方にその交渉が出来ますか?ユウリ!」

「はい、任せてください。出来なかったとしても、私が責任を持って代わりに税を払いましょう」

「ふふふ、そんなに気負わなくて大丈夫です。お互いに良く話し合って妥協して下さい。国王とユウリの気持ちは良く分かりましたから」

「有難うございます」


「ユウリ、トロルヘイムの地にも魔力源泉があります。かなり困難でしょうが、それを支配しなさい。そうでなければ、領主としてドラゴンやトロルを治める事は出来ませんよ」

「はい、分かりました。全てフレイヤ様の意に叶う様に致します」

「私の義理の息子が、人族の領主として妖精の森を治めてくれれば安心できます。頼みましたよ」

「はい」
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