異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助

文字の大きさ
上 下
39 / 75
第2章 異世界の研修所で働きます

39 焼肉パーティ

しおりを挟む
「ごめんよ驚かせて。だけど、僕もビックリしてるんだ」

 地面にヘタリながらコンちゃん(所長)が研修生達に謝っていた。

「コン先輩、取り敢えず立って下さい。余りのスペクタルに言葉も出ませんよ」

「ご免。腰が抜けちゃって立てないんだ!」


 俺(ユウリ)はコンちゃんを立たせて肩を貸して呟く。

「俺達も一緒にパーティ登録しておけば、君達にも経験値が入ったのになぁ……残念っ!」

「いえいえ、そこじゃなくて……今のはコンピュータゲームなんかじゃ無いですよね」

 シゲルが懸案だった疑問の核心に触れようとしてきた。


「うん、だとしたら何だと思う?」
 とコンちゃん。

「ここは本当の異世界なんですね」

「正解!はーはっはっはー!」

「「「「はぁ、はいはい」」」」


「コン先輩、最初からそう言って下さいよ! 全然隠しきれて無いですよ」

「そうです、アマアマです。どう見ても現実ですもの!」
 クルミが言った。


「犬人族に触った感触が生々しかったです」
 アイラが手をニギニギさせて思い出していた。

「モフモフ禁止と言っていたのに、ガマン出来なかったか~。残念」



「それで所長、これからどうしますか? とりあえず一旦研修所に戻りましょうか?」

「うん悠里くん、僕も腰が抜けちゃったし、研修生にも興奮が納まる迄ゆっくりして貰おうかな」

「じゃあ、今日は特別な日と言う事で、皆で草原でバーベキューでもしましょうね」


 俺は無線ブローチで研修所に居る侍従のビアンカに、バーベキューの準備をするように頼む。

「ビアンカ、宿泊者も従業員も全員が食べれるように、草原にバーベキューを準備しておくれ」

「畏まりました」


「冷蔵庫の牛肉とオーク肉をバーベキューソースに漬け込んでおいてね」

「畏まりました」


「大判振る舞いで、バンバン焼いてね」

「畏まりました」


「ビアンカは冷静だね」

「ユウリ様、早く準備に取り掛かりたいのです」

「ご免、よろしく頼むね」

「畏まりました……」


「ビアンカは芯の強い子だな、Sっぽいよな」

「ユウリ!」

「ご免なさいっ。ユキちゃん」

「何を謝ってるのですか? それよりも、もう隠す必要はないのでしょう? 【転移門】を研修所に繋げてください」

「はい……研修所に【転移門】テレポゲートオープン!」

 ブゥウウウウウンッ!


 魔道術式が色鮮やかに光りながら回転して、何も無い空間が丸く裂けていく。

「ふぁ~っ、綺麗!」
 アイラが感嘆の声を出した。

 ゲートが大きく開き、俺達は幌馬車に乗り込んで潜って行った。



 研修所では、すぐそばの草原で侍従達がバーベキューの準備をしている。

「急いで無いのでゆっくり準備しておくれ。俺達は汗を流して休憩するからね」

「「「はい」」」

 近くにいた侍従達が元気に返事をする。
 犬人族達は肉にテンションアゲアゲの様だった。



 その日はパーティになってしまった。
 襲撃事件が起きたので気分転換を計りたかったから。

「悠里君は吸血鬼の親玉に襲われても落ち着いてるな~」

 コンちゃん(所長)が焼肉を盛った皿を片手に、ビールを飲みながら話し掛けてきた。

「そんな事は無いですよ。周りが凄過ぎるから、何時いつも何とか、なっちゃうのです」

「いやいや、弓の腕前は超一流だろう。外した所を見た事がないぞ」

「はははっ、有難う御座います」


「ところで、今年の夏コミが8月9日から始まるのだが、悠里君は日本に戻るのかい?」

「まだ決めてないです、ルミちゃんはエリナと参加するんだよね?」

「ふんっ、私とエリナのコスの前に全人類をひざまずかせてあげるわ」

「はいはいっ。全人類は来ないけどねっ」


「ユウリもユキお嬢様と一緒に、見に来ても良いのよ」

「そうだね、初めてのお産だからユキの様子を見ながら決めるね」

「はっ、そうだったわね……」


「そうだ騎士団員のユングさんもバーベキューに呼んであげよう!」
「呼べば良いでしょっ!」

「ユングさんは今、何処に居るのかな~?」

「私に聞かれても知らないわよっ……でも騎士団詰所に居るみたいね」


「じゃあ、転移門で騎士団ごと招待しよう! ルミちゃんお願いします」

「頼まれたから、しょうがなく呼ぶんだからねっ……騎士団詰所に【転移門】オープン!」

 ブゥウウウウウンッ!


 ルミナが開いたゲートに首を突っ込み誰かと話をしている。
 やがてボアズとユングを先頭に、騎士団員達がゾロゾロとゲートから出て来た。

「やー、ユウリくんお邪魔します。何も貢献してないのに御馳走になるよ」

「遠慮なく沢山食べて下さい」


「ユングさん、討伐褒章の返礼にサファイヤのネックレスを国王陛下に送ろうと思ってるのですが、見て貰えますか?」

 俺はインベントリーから国王陛下への贈答用に作ったネックレスを取り出した。

「ネックレスは構いませんが、これでは価値が見合いませんよ!」

「ホクオー国ではサファイヤは好まれませんか?」

「いいえ、高価すぎるのです。このサファイヤのネックレスでは領地が買えてしまうでしょう」

「はははっ、密約の『妖精の森の不可侵条約』の返礼も兼ねてどうでしょうか?」

「それは良いかもです。今回のバンパイアロード討伐と合わせて陛下に相談してみます」


「いつも妹のルミナがお世話になっています、姉のベルダンディーです」

「ふ~ん、あんたがユウリか。華奢きゃしゃな体だなぁ。長女のウルドだ」

 またまた新たに美女が2人も現われた。ルミナ〈スクルド〉の姉達でノルン3姉妹と呼ばれる女神様達だ。

「ユウリです、始めまして。いつもルミナ様に助けて頂いております」

「いいえ、こちらこそ。ルミナの遊び相手になって頂き感謝しています」

「今度はもっと難しいナゾナゾを用意しとくからな!」

「はい、有難うございます」


「敬語をやめろ! 出自がばれるだろうが、ウルドで良い」
「私もベルでお願いします」

「はい!」


「それよりケーキだ! ユウリの作るケーキが食べたくて来たんだからな」

「はい、今日は出し惜しみしませんので、遠慮無く食べていって下さいね」


「ユウリさん、バンパイアロードを倒してくれて有難う御座います。私達ノルン3姉妹は、何百年も彼と戦い続けてきたのです」

「直接倒したのは、妻のユキですから」

「いいえ、貴方の作った聖剣で倒されたと聞いていますよ」

「俺は普通にミスリルで剣を作っただけですから」

「あらあら、普通の剣は女神が持っただけでは聖剣には成りませんわ」

「……」

(やばい! この件は深堀しない方が良さそうだ!)



 所長も研修生達もビールをかなり飲んでいる。
 もちろん、ビールは日本から持って来たやつだ!

(あぁぁ、ここでは貴重なビールの在庫が無くなってしまう。トホホ)


 研修生のアイラは、侍従の犬人族のユウナから離れず、抱いたり食べさせたりしてる。

「ワタシは、ナオさまの付き人なのです」

「ダイジョーブ、傍にいるから~。ヒック」


 隣では、クルミが神獣のナオちゃんを抱いて食べさせている。

「この子の白銀の髪と猫耳は凄く綺麗ね、しかも凄く良い匂いがするの」

 クルミがナオちゃんの耳を触ろうとすると、耳が『ピシッ』とクルミの指を跳ねつける。

「ナオちゃ~ん。少しだけ甘噛みさせて~」
「ダメ~」

「一噛みだけ~」
「ダメ~」

「ウ~ンッ、イケズ~」

「ダイブ酔ってますね」

「そりゃ~あんなの見せられたら、飲まずにいられませ~ん」

「はははっ、滅多に無いと思うけど、すいませんでした。無事で良かったです」

「だから~、ナオちゃんの耳をひと噛みだけ~、オネガイッ!」

「パパァ、このおねえちゃん、ヘン~」

「エ~ン、行かないで~ナオちゃ~ん」

 俺はナオちゃんを抱き上げてクルミの隣に座った。


「もうバレチャッタのだから、少し冒険の仕方を変えましょうか。今回のドロップアイテムを皆で分けましょう。巻物はそのスキルを持ってない人にあげて、レアアイテムは欲しい者でくじ引きにしませんか?」

「「「それは良いですね」」」

 皆同意してくれた様だ。


「ユウリ、この聖剣はあなたが使って下さい。上泉信綱殿に稽古を付けて貰いましょう」

「うん、そうするね。ユキには新しい剣を作って上げようね」

「はい、そうして下さい」


「あの~、聖剣を持ってみたいのですが、だめでしょうか?」
 シゲルが頼んだ。

「うん、いいよ持ってごらん」

 バッチィンッ! ビリビリビリッ! ガッシャーン!

「ひーっ、痛い痛いっ、シビレタ~」

「聖剣は持ち手を選ぶと言うのは本当なのね」
 アイラが言った。


「俺は製作者だからね、持てなければ修理も出来ないし」

「え~、ユウリさん、もしかして勇者なんじゃないの~」

「俺はまだ剣術スキルを持って無いからねぇ」


「テル、チャレンジしたら?」

「じゃあ、良いですか?」

「いいよ~」

 バッチィンッ! ビリビリビリッ! ガッシャーン!

「ひーっ、やっぱり痛いっ、シビレタ~」


「ユウリさんの奥さんは勇者様なんですね?」
 クルミが訊ねる。

「私は元ワルキューレですから」

「「「「「……!」」」」」

「すご~い!」
「ほんもの~?」
「サインしてクダサ~イ」

「ユウリくん、僕にも内緒にしてたのかい?」
 コンちゃんが拗ねてる。

「はははっ、言ってませんでしたっけ」

「僕もサインして貰おうかなぁ」


「サインは勘弁してください、御免なさいね。私がワルキューレだった事はここだけの秘密です。皆さんには、聖剣でバンパイアを倒す所を見られてしまいましたから打ち明けたのです」

「じゃあ、お腹の子は日本人とワルキューレのハーフなんですね! フンス」
 アイラが興奮してる。

「本物の魔法少女が日本の学校に通う事に成るかも!」

「「「「「……」」」」」

 コンちゃんと研修生達の目に、オタクの火が燃え上がってる様に見える。


「夏コミ! 夏コミの本を書かなくちゃ!」
 とクルミ。

「俺もユキさんをモデルに魔法少女のイラストを書きたい!」
 とテル。

「夏コミには間に合わないだろう。冬コミだろうなぁ」
 コンちゃんが答えた。


「うんうん。ユキさんの娘が成長して日本の高校に通い、魔法少女に変身して悪と戦う……いいわね~」
 アイラが1人で頷いて妄想している。

「冬コミはこれで行きましょう」

「はぁ、はいはいっ。折角のバーベキューパーティだから、今日は好きに妄想して下さいっ」


「ユキさんっ、私は北欧神話が大好物なんです」
 アイラがユキに詰め寄る。

「はい……」

「特にブリュンヒルデ様に憧れています!」

「それはどうも……」

「ブリュンヒルデ様は実在するのですか?」

「はい」


「もしかして、今も異界で眠っているとか?」

「はい。いいえ、もう目を醒ましました」

「どこかの王子様が、目覚めのキスをしたのですか?」

「はい……王子様の様な素敵なひとが……」

『ポッ!』っと顔が赤くなり、ユキはユウリをチラリと見た。


「今は何処かのお城で幸せに暮らしてるとか?」

「お城では有りませんが、幸せです」

「……うんっ?」

 アイラが顎に指を当て、小首を傾げた。


「ブリュンヒルデは『白雪姫』や『眠れる森の美女』の元ネタだって話を聞いた事あるかい?」
 俺はアイラにニヤリと笑った。

「はぁ、あります」


「白雪姫のユキちゃん(仮)って事です。秘密ですからね!」
 ユウリが手を広げてユキを紹介した。

「な……なんですとーっ!」
 アイラが泣き出した、泣き上戸だったのかな?

「うぐーっ、ぐひっ、うわ~んっ!」
「よしよし」

 ユキが両手を広げアイラを抱き寄せ、肩をポンポンと叩いてなだめてあげる。

「もう思い残す事はありませ~んっ!」

「だめよ、まだ若いのだから人生を謳歌しなくっちゃ」

「はい、ありがとうございますぅ。ぐひぃぃんっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...