上 下
33 / 75
第2章 異世界の研修所で働きます

33 討伐の褒美

しおりを挟む
 数日後、ホクオー国の勅使が研修所を訪れた。

「オークキングとオークの群れ、オーガロードとオーガの群れを討伐したユウリとそのパーティに、国王陛下より褒章を下賜かしいたす」

 俺達はひざまずいてうやうやしく目録を受け取る。

「ははぁっ、有り難き幸せで御座います」

 勅使を豪華料理で歓待して、満足して(たぶん)貰いお帰り頂いた。


 褒美の内容は以下の通りだった。

パーティ全員に金貨10枚、合計50枚
宿泊業の税金を3年間免除
牛10頭 馬4頭
羊10匹 山羊10匹
鶏10羽 鴨10羽


「うん、落し所としては結構良いかなぁ?」

「そうね、ユウリがバレバレで、ヤラカシタけど、国王陛下も良く考えて妥協してくれたみたいね」

「ルミちゃんは結構容赦なく言うよね」

「ユウリも変装すれば良いんじゃないかしら、口の周りを黒く塗るとか?」

 空き巣じゃないですかっ!


「叙爵や領地を貰わなくて良かったよ。……返礼は、魔法付与した貴金属にでもしようか?」

「家に有る1番大きなサファイヤで、ネックレスでもどうかしら?」
 とユキが意見を答えた。

「そうだね。……今度ボアズさんかユングさんに、問題ないか聞いてみようね」


「う~んっ。私達が、いよいよフェアリークレストとして活躍しなきゃね~!」

「そうよエリナ! 私達の活躍を皆待ってるわ!」

「そうね、ルミちゃん! コスとダンスを決めましょ~!」

「はいはいっ。エリナの春休みは、もうすぐ終わりだからね」

「お兄ちゃんにもシルクハットマスクの衣装を作るからっ! 私達のピンチに颯爽と助けに来るのよっ!」

 それって、普通の燕尾服でしょっ!

「……お願いだから、そう言う状況には、ならないでね」


 異世界での収入源を、確認してみよう。

 研修所の宿泊費とレストランの売り上げ。
 採掘した鉱物資源で、魔道具・武具・アイテムを作り、採取した薬草でポーションを作り、新設の雑貨店で販売する。
 冒険者のガイド・要人や商隊の護衛等をして、クエスト成功報酬をギルドで受け取る。
 ドロップアイテムや妖精の森で採取した薬草・木の実・蜂蜜をリリーメルのギルドと雑貨店で売る。
 リリーメルの雑貨店の注文に答えて、品物を卸す。商売敵にならずに、仲良くして行きたいから。
 商品の販売価格もリリーメルの雑貨店と同じにする。

 雑貨店は、コンビニぐらいの大きさの物を研修所の街道よりに建設する。
 研修所への街道口には、『冒険者の宿・雑貨店』の看板を立てた。民の識字率が低いから、分かり易くする為に木彫りの彫刻を入れて、カラフルに色付けした。
 オゥちゃんと俺のスキルをフル活用して、雑貨店を新築して既存の施設の改善もする。
 侍従達が畑と家畜の世話をして、家事もしてくれるので、空き時間が増えている。社畜の様には働かないで、物作りを楽しませてもらおう。

 珠に訪れる病人や怪我人の回復・治療は、無料で行ってる。




 翌日、商業ギルドの職員3人が研修所を訪れた。


「お早う御座います、私は商業ギルドハーマル支部長のマルケル。こちらは、ポーラとアーセルです」

 中年男性と若手女子と若手男子だ。

「支配人のユウリです、お早う御座います」

 研修所長は現世に居る事が多いので、俺が異世界の研修所支配人となっていた。


「新しく宿泊所を始めたと聞いて、訪ねて参りました。商業ギルドへの加入登録をお願い致します」

「はい」


「商業ギルドは冒険者ギルドと同じく、国々にまたがって運営をしています。
 加入した組合員には、商品輸送の保護、売掛金の仲介・入出金の管理、税金の申告・納税の代行、新商品の開発者登録、特許料金の収受、特許権利の調査、店舗と商品の保険等を行っています」

「はい」


「本日は、登録業務の他にも店舗規模・販売商品・食堂のメニューを調べさせて頂きたいと思います」

「はい、結構です」


「ご協力有難う御座います。それでは私が加入契約書を作らせて戴きます。その間に、こちらの2人は営業調査をさせて戴きますね」

「はい」


 懇切丁寧こんせつていねいに説明をして貰い、手続きと調査が終わった。

「有難う御座いました。これで今日の手続きと調査を終わりますが、調査中に見付けた新商品と新メニューの登録調査を、商業ギルドに戻ってから行います。
 たぶん幾つかの開発者登録と特許権の手続きが発生すると思いますが、その時はギルドで手続きをして頂く事になると思います」

「はい」


「最後に、魔道具に関しては、商業ギルドの管轄外となってます。
 通常の魔道具製作は秘密主義であり、覚えて無い魔法や魔道術式は付与が出来ない等、製作者が限られる為です。
 魔道具製作のレシピは御自身で管理して、販売も自己責任で行って下さい」

「はい、ご苦労様でした。……どうぞお食事をなさって、くつろいでからお帰り下さい。
 宜しければ、幌馬車で御送りしますね」

「はい、有難う御座います」
「「有難う御座います」」

 マルケルに続いて、ポーラとアーセルがお礼を言った。



「ふ~っ、こちらから商業ギルドに登録しに行こうと思ってたけど、来てくれて良かったです」

「ユウリ君は討伐クエストを受けて、雑貨店の新設もして、忙しかったからね」

「所長もヤマちゃんとコミケ関連で忙しそうでしたからね」

「はははっ、趣味に没頭して申し訳ない」

「いえいえ、俺も充実した日々を楽しませて貰ってますから」

「そう言ってくれると助かるよ」


「そろそろエリナの春休みは終わりますけど、所長は一緒に帰るのですか?」

「そうしようかと思ってるんだ」

「異世界転移門は、オゥちゃんの倉庫の魔道術式を再利用しますか?」

「その方が効率的だよね?」

「そうですね。……それでは、魔道術式の発動チェックをしておきますね」

「うん、お願いするね」



 レストランに行くと、商業ギルドの職員達が食事を楽しんでいる。
 その隣では、オーディン様とフレイヤ様がお茶をしていた。

お義父様おとうさまお義母様おかあさま、いらっしゃいませ」

「こんにちは、ユウリ。……チョコレートケーキとやらは、まだ出来ないのですか?」

「はい、お義母様おかあさま。原料のカカオが、まだ見付からないのです」

「うん? カカオならタルーク帝国の市場で売っておるぞ」

「本当ですかお義父様おとうさま! ぜひ転移で連れてって下さい」

「ふむ、良かろう。ケバブにバナナにマンゴーも買って帰ろうぞ」

「はい、お願いします」

 あっ、ギルド職員達の耳がこっちを向いてる。
 支部長のマルケルが、こっちをふり向いた。

「ユウリ様、アシアン地方のタルーク帝国には、商業ギルドがまだ進出していないのです。南国の果物を輸入して販売したら、大きな利益が出るでしょう」

「はははっ、帰って来たら情報を御教え致しましょう」


 新商品を作った時は、商業ギルドで必ず実用新案登録をしなければならない。
 それを判断し管理するのも商業ギルドの仕事である。
 既に登録されてる物を作って販売すれば、特許使用料を支払わなければならない。
 特許は国際問題が起こらない様に商業ギルドが管理している。
 転生者にとっては早い者勝ちで、誰かが特許を取得する事になる。
 特許料は販売価格の4%、ギルド手数料が1%と定められている。
 商業ギルドとしては、この1%は結構な収入らしく、特許管理に力を入れている。
(この話の中の設定です)



 オーディン様と2人だけでタルーク帝国に転移した。
 カカオは見付かったが、熱帯地方のガルナ(現世のアフリカ赤道付近)という所から、輸入してるらしい。
 船便で1ヶ月以上かかると言う事だった。
 のちに日本に帰った時に調べたら、カカオは赤道近くでしか生産出来無いと書いてあった。


「お義父様、折角だからケバブを食べましょうか?」

「そうじゃな、シェルベトと言うジュースも飲んでみよう」

「う~ん、ケバブは日本で食べるのと変わらんな。いや、むしろ日本の方が美味いな!」

「お義父様は、世界中を旅して、舌が肥えてしまったんじゃないですか?」

「そうかも知れぬが、日本は世界中の料理が集まる所為せいで、切磋琢磨せっさたくまされておるのだろう」

「そうですね、日本は食材とスパイスも豊富ですしね。……でも、このシェルベトは初めて飲む美味しい味です」

 甘味とシナモンが香る赤い果物ジュースだった。


 バナナにマンゴー、パイナップルも売っているが、やはり輸入品が多いらしい。

「もっと南の国に行かないと、カカオも熱帯のフルーツも作ってないのですね」

「そうじゃな、ミスルム国(現世のエジプト付近)から南は未開地で、国家は無く文化も低い、わしも行った事が無いのじゃ」

「う~ん、美味しい御菓子を作る為に、熱帯の無人島で果物の栽培でもしましようか? チョコレートケーキやフルーツケーキを作れば、フレイヤ様も喜ばれると思います」

「ほう、それは良い考えじゃ。スレイプニルで南方に飛んで探して見るか!」

「はい。そういえばグラーニも飛べると言ってました」

「じゃあ、わしのスレイプニルとユキのグラーニに乗って熱帯の無人島を探しに行こうぞ」

「はい」

 俺は研修所へのお土産に、果物とシェケリ・ロクム・キュネフェという菓子を沢山買って帰った。
 異国の珍しいお菓子に、皆、興味津々だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...