異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助

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第1章 異世界で生活研修! って、日本に帰れますか?

20 領都ハーマル

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 護衛2日目、朝早く起きて【転移】でオゥちゃんの家に行き、畑と家畜の世話をする。

 ちょっと遅れてエリナが【転移】してきた。

「お兄ちゃん起こしてくれれば良かったのに~!」
「ははははっ、夜襲があったから、寝てて良かったんだよ。……今日は簡単に済ませようね。……あれっ? ナオちゃん!」

 エリナはサーベルタイガーの赤ちゃんを抱いていた。


「一緒に転移できたんだ?」

「そうだね~……。今、気が付いたけど~」

「空間魔法だから、範囲内に密着してれば一緒に転移出来るのかもね」


 畑に水遣りをして家畜に餌をあげた。

「よしっ、そろそろ戻って朝食を食べようか」

「それなら【転移】を試してみよ~ね~」

 エリナがギュ~ッと俺に抱き付いて来た、いつの間にか大人に成長したんだね。……中身は、まだまだ子供だけど。

「クッツキ過ぎだよっ!」

「ウフフッ、小さい頃は良くダッコやオンブしてくれたでしょ~」

「……よしっ行くよ! 商隊のキャンプに【転移】!」

 シュィイイイイインッ!
 みごと成功した!


「うわ~っ、引くわ~。兄妹で抱き合ってるぅ……」

【転移】したら、スクルドがそばに居た。


「一緒に転移できるか試してみたんだ、成功だね。空間範囲から出なければ大丈夫そうだよ」

「なんだ、知らなかったんだ~」

 スクルドがつまらなそうに言った。


「お早うございます」

「「お早うグラーニ」」

「お早う御座います。ブリュンヒルデ・お・嬢・様っ!」

 スクルドはひざまつき、グラーニに最敬礼する。


「お早うスクルド、気付いてしまったんですね」

「はい、昨日のオークの首を刎ねた剣技は【幻麗流 紅一閃】げんれいのながれべにいっせん。 ブリュンヒルデお嬢様の一騎当千の必殺剣です」

「ウフフッ、久しぶりの戦いに高揚して思わず使ってしまいました……」


「お嬢様は、いつからグラーニと入れ替わったのですか?」

「私の体は今も異界で眠ったままです。あなた達が楽しそうなので、ちょっとグラーニの体を借りたのです。従魔契約をしてる神獣のグラーニが、私の姿に変身したので借りる事が出来たみたいです」


「夫となる者が、お嬢様に誓いのキスをすると呪いが解けると聞いてますが?」

「オーディン様が、逆らった私に結婚の呪いをかけたのです。結婚の誓いのキスをすれば目が醒めますが、私の異能の力は失われてしまうそうです」


「なんか、白雪姫に似てるね~」
 エリナが首をかしげる。

「うん、それが『白雪姫』や『眠れる森の美女』の元ネタと言われてるんだよ」
 と俺が知識をひけらかす。


「……お兄ちゃん、キスしてあげれば~?」

「「えっ……」」
 俺はブリュンヒルデ様と目が合い、互いに顔が赤くなった。


「エリナは俺が誰かにキスをすると怒るくせに、……それにブリュンヒルデ様の異能の力が失われるって」

「異能の力は失われますが、苦労して修行して得た剣技は忘れません」


「でも俺と結婚する事になるのでは?」

「……私ではご不満ですか?」

「いいえ、私には勿体無い絶世の美女です」

 ブリュンヒルデが頬を赤くして近づいて来る。

「えっ、今ここで?」

「私の魂は今ここに在ります」


「お兄ちゃん、お馬さんでもここまで綺麗なら良いでしょう? グラちゃんが待ってるよ~」

「馬じゃ無いし、グラーニでも無いよ……結婚するのは本物のブリュンヒルデ様なんだよ! え~い、ままよ!」

 ブッチュゥゥゥゥゥッ!!
 ピッカァアアアアアッ、シュゥウウウウウッ!

 あたり一面が光に包まれ、煙の中から馬の姿のグラーニに跨った、真っ赤な鎧姿の絶世の美女が現われた。


「「「「結婚おめでとうございます」」」」
 御者達が跪き挨拶する。

「「お嬢様お帰りなさいませ」」
 オゥちゃんとスクちゃんが跪き最敬礼する。

「グスン。グラちゃんお兄ちゃん、おめでとう」

「エリナ、ブリュンヒルデ様だから、それにエリナの義姉ねえさんになるんだよ」


「お姉さま、不束ふつつかな兄ですけど、よろしくお願いします」

「こちらこそ宜しくね、エリナちゃん。
 ところで皆さん、私が戻った事は秘密にして下さい。せっかく平和に成ったのに、私が戻った事が知られると、政変が起きてしまうかもしれません」

「「「「解りました」」」」
 と護衛パーティのメンバー。

「「「「仰せのままにいたします」」」」
 と御者一同が言った。


「このまま何事も無かった様に都まで行くだぁ」




 領都の手前迄来た。
 グラーニは馬の姿のままで、女子3人はワンピースに着替える。

「この服が着たかったの!」
 ポニーテールにしてサンダルを履いたブリュンヒルデが嬉しそうに言った。

「お姉ちゃん、とっても似合ってる~」

「ありがとう、エリナちゃん。あなたもとっても可愛いし似合ってるわ」

「あの~、私は……」

「「もちろんスクちゃんもとっても可愛いわ」」

「へへ~、ありがとう」

「は~ぁ、良かった良かった~」


「これほどの美人が、3人も一緒に街に入ったら目立ちますよね」
 俺は3人を見ながら腕組をして考える。

「【認識阻害】の魔法を掛けるから大丈夫です」
 とブリュンヒルデが答えた。


「それは異能を失った今でも使えるのですか?」

「異能の力とは、神々に匹敵する特殊な力の事です。普通の人間レベルの魔法は使えます」

「そうなんですか」

「もう敬語は止めてくださいね。夫らしく威厳を持って接してください。わたしの素性が判ると旨くないですし、これからは普通の妻として生きてゆきますから」


「う~んっ、それじゃあ、何と呼べば良いかな~?」

「白雪姫のユキちゃんが良いわ~」
 とエリナがブリュンヒルデの白い手を両手で持ち上げる。


「それでは皆さん、これからはユキでお願いします」

「「「は~い」」」



 都に着くとユキは【認識阻害】の魔法を女子3人にかけた。

 目的地の商家の前に到着して、商隊護衛契約履行の手続きをする。2枚の同じ書類に、お互いのリーダー2人がサインを書き込んだ。
 トラブル防止の為に料金はギルドで支払われる。


「どうもありがとうございました。良い経験が出来ました、縁が有ったら又、おねがいします」
 と笑顔でロンロンが言って、1人1人に握手した。

「「「「「ありがとうございました」」」」」



 ギルドで手続きをして報酬を貰い5人で等分した。

「俺ぁ行く所があるだぁ」

 と、オゥちゃんが言い出したので。
 特に用事も無いので、皆オゥちゃんに着いて行く。


 俺達はオゥちゃんに連れられて孤児院に行き。報酬の半分を寄付をしてから、オークの肉を料理して、皆で子供達と一緒に食べた。
 歯が生えてきたナオちゃんもオークの肉を一生懸命かじってる。
 子供達はそんなナオちゃんから目が離せないが、食べるのに忙しい為に手を出さなかった。

「お姉ちゃん大きな猫だね」

「虎って言うんだよ~、まだ赤ちゃんなの~」

「大きい赤ちゃんだね」

「そだね~」



「「「「「ありがとう、ごちそうさま~」」」」」

「「「「「又来るね~」」」」」
 子供達の見送りに笑顔で手を振った。


「今日は宿屋に泊まって明日帰るだぁ」

「「「「は~い」」」」



 翌日は【転移】で帰るので、ゆっくり街を見学する事にした。

 街外れまで歩いてくると弓道場があった。
 ユキが俺の腕を引いて行く。

「ユウリ、弓を射て見せてください」

「うん、初めてだけど、やってみようね」


 受付を済ませ、貸し出し用の弓を手にした瞬間、頭の中で前世の自分が、弓矢で的を射抜く姿が浮かぶ。
 そのままのイメージで弓を射ると、30メートル離れた的のど真中に命中した。

「「キャ~当たった~、すごぉぉぉいっ」」
 エリナとスクルドがビックリする。

 俺は続けて10本、全ての矢を真ん中に当てる。

「「「……」」」


「前世を思い出しましたか? ユリシーズ」

「いいえ、ユキ。弓の射方だけが頭に浮かびました。俺はユリシーズの転生者なんですか?」

「あなたはギリシャの英雄オデュッセウスで、この国ではユリシーズと呼ばれていた転生者です」

「……そうだったんだ。……ユウリ・シミズ、ユリシーズ。……ダジャレかっ!?」


 自分のスキルを確認すると、【弓術Lv10】が追加されていた。人間のスキル限界はLv5だったはずである。

「やれやれ、只の研修生の筈だったんですけど」



【後書き】
【幻麗流 紅一閃】げんれいのながれべにいっせん
 左から右へ、右から左へ、次々と真一文字に敵の首を薙ぎ払う。通常刀は立てて構える為、それに対して真一文字に振るう事により、刀も鎧も首と共に切り払う。離れている者からは、赤い血の線が真一文字で戦場に続いて見えると言う。
 ブリュンヒルデは養父ヘイミル王の命により、5歳から12歳まで剣聖上泉信綱(転移者)の元で修行して、12歳からオーディンの元でワルキューレと成った。人族出身のワルキューレは彼女だけである。やがて、ワルキューレ筆頭に成ったブリュンヒルデは、敵に騙されて養父オーディンを裏切り、結婚の呪いを掛けられて幽閉されてしまった。
 お読み下さり有難う御座います。
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