チートなんて簡単にあげないんだから~結局チートな突貫令嬢~

まきノ助

文字の大きさ
上 下
83 / 100
第2章 アリタリカ帝国に留学

83 迷子のマリエル

しおりを挟む
 私は赤い小さなショルダーバッグを肩から下げてる事に気づきました。
 中を開けて見ると、シルクのハンカチーフ1枚しか入っていません。

「まぁ、これだけ……」


 防具は革製のブレストアーマー、グローブ、ブーツで、腰には短剣を佩いています。

「私は冒険者なのでしょうか?……あいたたたっ! 考えちゃダメ! 感じるのよ! ……何故か、ブルー・スリーって名前が浮かんできたけど……私はマリエルだよね?」


 私は、あらためて全身を眺めてみます。

「こんな小さなバッグ1つと短剣だけ……それに、たった1人で洞窟を探索中だったのかしら?」

 とりあえず又、私は前へと歩き出します。


「のどが渇いてきたけど、水筒も持たないで探索してたのかしら?」

 シュィイイインッ!

 目の前の空中に突然、丸い革製の水筒が現れます。

「おっとぅ!」

 私は慌てて宙に浮いている水筒をキャッチしました。


「えっ、何処から出てきたのかしら? とりあえず頂きま~す」

 ゴクゴクゴク、


「プッハァァァッ! このために生きてるなぁぁ……って、おやじか!」

 私は1人漫談をしている芸人だったのかしら?
 あいたたたっ! とりあえず前に進みましょう。


 マリエルはリュルラルから【呪いの飴玉】を飲まされて、記憶喪失に成っていたのでした。
 過去を思い出そうとすると、頭痛が起こり記憶を妨げるのです。
 飴玉を直接口内に放り込まれたので、オートマルチリフレクションシールドは発動しなかったのです。
 勿論リュルラルは、それを計算してキッスで飴玉を飲ませたのでした。


 しばらくすると、前から小さな灯りがだんだんと近づいてきます。
 それはランタンの灯りでした。内壁に反射材が貼ってあるのでしょう、火を灯してるのでしょうが結構しっかり前方を照らしているようです。


 ザザザッ!

 5人パーティの冒険者達が、私に気づいて戦闘陣形を展開しました。


「誰だ!?」

 私に向かって槍と剣を向けて構えています。


「こんにちは~、マリエルと申しますぅ……たぶん」

「んっ! こんな深い所に女の子1人だけなのか?」

 少し童顔な私は年齢より若く見られることが多いのです。胸は育ち盛りでCカップに成りましたが、ブレストアーマーを装着してるので目立ちませんでした。


「たぶん1人だと思います」

「たぶん?……魔物の精神攻撃で【混乱】してるのかな?」


「手前で魔物が拘束されていたが、君がキラースパイダーを倒したのか?」

「勝手に攻撃してきて、勝手に自分を糸で拘束したのです」

「はぁ? なんだそりゃ」


 女冒険者がニコニコしながら話しかけてきます。

「ねぇ、放置したのなら私達があのキラースパイダーを貰っても良いかしら? ダンジョンに吸収されたら、魔石と素材が勿体ないし、あと肉も結構美味しいのよ」

「蜘蛛の肉が食べれるのですか?」

「うん、エビのような味で美味しいのよ」

「ふ~ん、それなら、どうぞどうぞ」

「ありがとう」

 パーティーの1人が回収に向かいました。


「それじゃあ、奴が戻るまで小休止しようぜ」

「「「はい」」」


 冒険者の1人が薪を取り出して魔法で火を付けました。ポットに水を入れ火にかけて温め始めます。
 干し肉を取り出して皆に配り、私にもくれました。

「ありがとうございます」

「おぅ、遠慮なく食ってくれ」


 彼らの食べてる様子を見ていると、口の中の犬歯けんしが長く鋭いのが見えました。
 洞窟の中は薄暗いので気が付きませんでしたが、彼らはみんな獣人族みたいです。耳の形が人族の物ではありませんでした。

 女性冒険者の1人が、ロングヘアーに見え隠れする私の耳に気づきました。

「あっ、あなた人族ね?」

「なにっ!」

「「「……」」」


「この国に人族は居ないのだ、いや上級貴族か王族の奴隷ぐらいしか居ないはずだ……。どうして『未開の迷宮』の101階に人族が居るのだ?」

「まぁ、ここは何処、私は誰……、私は…マリエル。うぅぅ…頭が痛いガンガンするぅ……ぁいたたた!」


 回復職の僧侶っぽい女冒険者が、私に向けて呪文を詠唱します。

「癒しの風よ、この者を【状態回復】せよ。ステータスヒール!」

 シュィイイインッ!

 残念ながら効果はありませんでした。


「聖霊よ知識の風を吹き付けて、この人族の娘の生態情報を開示せよ、【鑑定】!」

 バッチィイイインッ!

「は、はじかれたぁ!」


「そのかばんに何か入ってるんじゃない?」

「お嬢ちゃん、バッグの中を見せてもらっていい?」

「はい」


 女性冒険者が私のバッグを覗き込みます。

「ハンカチしか入ってないわ。でもかなり高級なハンカチかも、貴族が使う物みたい」

「そうなんです。これしか……あっ!」

 手を奥に入れると、バッグの底を突き抜けて見えない空間に手が入ってしまいました。

 ズラララララァアアアッ!

 目の前の空間にアイテムリストが展開します。


「すごぉい、いっぱい入ってるぅぅ!」

「「「えぇっ」」」


 そこに、キラースパイダーを回収しに行っていたメンバーが返って来ました。魔石と素材と肉に分けて回収してきたようです。

「おっ、火がついてるなら焼いて食べようか? んっ、みんなどうした? 変な顔して……」

「この子、人族みたいなの」

「えっ、こんな所に?」


 マジックバッグのリストはア行から順番に並んでいて、最初の行に『アダモ』と書いてありました。

「とりあえず最初のこれを出してみます」

 シュィイイインッ!


 縦ロールにアイパッチに大きなリボンで、女海賊貴族の井出達の20歳ぐらいに見える女性が現れました。

『ハ~イ、アダモちゃんで~す。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン』

「うぅぅ、頭がぁ、イタイイタ~イ。誰なんですかぁぁぁっ!」


『ハ~イ、アダモちゃんで~す。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン』

「うぅぅ、頭がぁ、イタイイタ~イ。誰なんですかぁぁぁっ! リピートさせないでくださ~い!」


「思い出そうとするから頭が痛いのでしょう?……記憶喪失と言う物ですね。無理しないほうがいいわよ。そのうちに自然に思い出すでしょうから」

「はぁ、そうなんですかぁ? アダモちゃん、私の過去を刺激しないでくださいね」

『ガッテン承知のすけ

「ぐわあああっ、さらに深くに入りましたあああっ。しばらく黙っててくださ~い」

『は~い』


「教会にでも行ってステータス確認をすれば、どこの誰だか分かるかもしれないわ」

「そうだな」


 キラースパイダーの肉は、とっても美味しいエビの味でした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...