チートなんて簡単にあげないんだから~結局チートな突貫令嬢~

まきノ助

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第1章 アストリア王国に転生

53 フランク王国の逆襲

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 レドロバート辺境伯は予想外のゾンビの大量発生に、フランク王国本土に逃げ帰りました。
 ゾンビウイルスへの感染を恐れたのです。

 彼は峠の街道にある国境門を閉ざして、フランク王国側に向かって来る魔物やゾンビを【闇属性魔法】でコントロールして、反対の東側であるアストリア王国に向かわせる事にしました。
 当初の計画とは違いますが、魔物とゾンビがアストリア王国にダメージを与えた後で軍隊を攻め込ませる事にしたのです。

 しかし又しても目論見がハズレて、アストリア王国に向かった筈の魔物とゾンビが、何故かフランク王国側へ戻ってきます。

「このままでは、シュヴィーツ地方の我が領地を失ってしまう。どんな手を使っても取り返さなければ、前辺境伯の様に処分されてしまうだろう」

 レドロバート辺境伯の顔には焦りの色が見えました。


 〇 ▼ 〇


 マリエルが、アストリア王国の王都アンディーヌで国王に報告してグリュエーレ城に戻ると、国境を封鎖していたフランク王国が動き出しました。シュヴィーツ地方に攻め込む姿勢を執ったのです。
 魔物やゾンビの発生が沈静化したのに気付いたのでしょう。

 エリザがグリュエーレ城の塔から、西のフランク王国側を眺めながら話しかけて来ました。

「初冬のこの時期に攻めてくるとすれば、雪山を避けて峠の街道から進軍してくるしかないでしょう」

「ふぅん、そうですかぁ。……私はなるべく対人戦闘はしたくないけどなぁ。出来たら人を傷つけたくありませんわ」


「お姉様、それなら私が忍んで潜入工作を仕掛けます。忍者の特技を御見せしましょう」

「スズちゃん、忍者スキルの【隠密】で潜入するのね?」

「闇に潜んで、人を傷つける事無く、敵の宿営地から輜重しちょうを奪ってきます。城の訓練場にケンちゃんの【転移門】を繋げますから、深夜2時頃に待ってて下さいね」

「はい……無理をしないで、危険な時はスグに逃げるのよ」

「その時は、【分身の術】や【隠れみの術】を見せてやりますわ。それにケンちゃんなら、輜重しちょうを手を使わずにマジックバッグに収納する事が出来るので、時間も掛かりませんもの」


「私のマジックバッグも持って行ってね。時間短縮出来るでしょうし、かなり沢山収納出来ますからね」

「たぶん俺のマジックバッグに全部入りきると思うけど……スズちゃん、時間短縮の為に2人で一斉に収納しようね」

「はい、ケンちゃん」


 深夜にケンちゃんを小脇に抱えたスズちゃんが、ピーちゃんに跨って城を出て行きました。

「「行ってきま~す」」
「キュキュ~ル」

 チュッドォォォォォンッ!

 3人は、アッと言う間に闇に消えていきました。





 草木も眠る丑三つ時の深夜2時頃、マリエルは騎士団員と共に、グリュエーレ城の訓練場で待機しています。
 輜重しちょう荷物がどのぐらいか分からないので、1番広い場所を【転移門】に指定していたのでした。

 マリエルが外套にくるまれて、暖かいミルクを飲みながらクッキーを食べていると、訓練場に突然魔方陣が浮き上がり虹色のゲートが大きく広がります。

「「ただいま~」」
「キュル~」

「お帰りなさ~い。ダイジョブだった~? 怪我はな~い?」

「上手くいきました。お姉様のバッグも沢山入るのですね。敵の輜重は全部回収できたと思います」


 ドサッ、ドサッ、ドサッ……。

 食料や武器、弓矢、投擲用の石、ポーション、薬、薪等が次々と山積みにされていきました。
 マリエルは積み上げられた輜重を見てビックリです。


「凄い量ですね」

 エリザも驚いています。
「これではフランク王国は行軍を維持できないでしょうから、退却か短期決戦以外に選択肢は無いでしょうね」

「諦めて引き上げてくれるかしら?」

「どうでしょう。征服欲が強く戦争好きな国ですからね」


「ケンちゃんとピーちゃんとスズちゃんは、ゆっくり寝て疲れを取って下さいね」

「オッケー」
「キュルー」
「は~い」


「私達も明日の決戦に備えて早く寝ましょう」

「「「はい」」」




 翌朝に成りました。

「ケンちゃん、石化したコカトリス2羽をマジックバッグに収納しといてね」

「オッケー」


 マリエルは国境の峠のシュヴィーツ側で、平坦になってきた辺りの街道の両脇に、向き合う様に土の祠を2つ建てました。
 そして、それぞれの祠の中に石化したコカトリスを設置したのです。
 祠は日本の東北地方で作る雪のカマクラの形で、3メートルのコカトリスの石像1体が、ちょうど収まる大きさでした。
 森の木立の間に土で作ったので、大きいですが色彩的には目立たないと思われました。


 フランク王国の兵士が進軍してくるのを木陰でギリギリまで待って、

「コカトリス2羽を【復元】!」

 ピッキィイイイイインッ!


 マリエルは急いで傍らに控えていたピーちゃんに跨ります。

「ピーちゃん、全速力で城に帰りましょう」
「キュ~ル!」

 チュッドォォォォォンッ!

 マリエルは城の方向へと、アッと言う間に去っていきました。


「「ク…クワ……クワァァァッ!」」

 目を醒ました2羽のコカトリスが、祠の前に進軍してきた兵士達に気付き、目を剥いて突貫しました。

「ヒギャ~ァ! コカトリスだぁぁぁっ!」
「石に成っちまうぞぉぉぉっ!」
「逃げろぉぉぉっ!」
「俺に触るなぁぁぁっ!」


 兵士達は隊列を崩して逃げ惑いますが、人数が多い為に次々とコカトリスに接触して【石化】してしまいます。
 戦おうとする兵士も正面では大きなくちばしで突かれて、後方では尻尾の蛇に噛まれ毒を貰ってしまいました。
 B級冒険者相当の魔物であるコカトリス2羽に、対処方法を知らない兵士では倒す事が難しかった様です。
 1万人近く居た兵士の内、先頭を行進していた兵士達がパニックに成って逃げ戻って来るのです。

「魔物が襲ってきたぞっ!」
「いや、敵の奇襲だ」
「違う、味方が裏切って襲ってきたのだっ!」
「森に伏兵が潜んでいて、寝返った兵士と挟み撃ちにされてるぞっ!」

 後から進軍してきてる兵士達にも混乱が広がっていきました。


 敵のフランク王国軍が混乱しているのが、遠く離れたマリエルが居る場所からも分かります。

「お姉様、忍者スキルの【撹乱】【謀略】【錯綜】が上手く効いています」

「忍者スキルは戦争時の破壊工作に最適ですね。スズちゃんスゴイ、スゴイ!」

 普段は冷静沈着で表情を変えないスズちゃんの顔が、僅かに『ドヤ~』と見えます。


 フランク王国軍では、コカトリスに【石化】されるだけでなく同士討ちも始まりました。
 兵士達が慌てて騒ぐほどに、コカトリスも怒り狂い大暴れしています。

 マリエルはシュヴィーツ側に逃げてくる兵士を【ブラインド】と【落とし穴】で無力化しました。

 起死回生を狙うレドロバート辺境伯は、魔法の有効範囲が30メートルぐらいなので、兵士を押し退けて先頭に出てこちらに向かってきました。
 彼の【闇属性魔法】の【毒】【麻痺】【弱体化】【混乱】【幻覚】が騎士団員を襲います。

 ズズズズズゥウウウウウンッ!

「「「アグゥゥゥッ!」」」
「「「ゥゲェェェッ!」」」


「騎士団員達を【状態異常回復】!」

 ピッキィイイイイインッ!
「「「ハ~ァ!」」」


「皆、私の近くに集まって下さい」

 マリエルの【オートマルチリフレクションシールド】がレドロバート辺境伯の【闇属性魔法】を反射し騎士団員を守ります。

 ピッキィイイイイインッ!


 マリエルが侯爵令嬢という立場もわきまえずにズンズンと前に出ていくと、【オートマルチリフレクションシールド】がレドロバート辺境伯の【闇属性魔法】を反射して、逆にレドロバート辺境伯や敵兵士達に【状態異常】のダメージを与えました。

 ズズズズズゥウウウウウンッ!


「あんなお子様の反射魔法に手も足も出ないのかぁっ!」

「レドロバート辺境伯!」

 彼はマリエルに大きな声で呼ばれて、思わずマリエルの目を見てしまいました。

「レドロバート辺境伯の足を【石化】! 目を【ブラインド】!」

 ピッキイイイィィィンッ!

「ウッワアアアァァァッ!」


「今よピーちゃん、【吹雪】ブリザードをお願いっ!」
「キュルー!」

 ヒュウウウゥゥゥゥゥ……

 フランク王国軍の兵士を【吹雪】ブリザードが襲い、凍える寒さが兵士の戦意を喪失させました。


 エリザが大きな声で呼ばわります。
「武器を捨てて頭の上に手を上げて投降しなさいっ! 命までは奪いません!」

 フランク王国の兵士達が、次々と武器を捨てて投降を始めました。
 それでもまだ戦おうとする兵士を、マリエルが【ブラインド】で無力化します。

 ピッキィイイイイインッ!


「はぁ……あとで直して上げますけど、騒ぎが収まるまで我慢して貰いましょうね」

 マリエル騎士団員に怪我人は有りませんでした。
 フランク王国の兵士もコカトリスに突かれた者以外は状態異常が殆どでした。
 勿論、突かれた怪我も治療してあげましたよ。


「フランク王国の方へ逃げた兵士は追い駆けないでいいです。投降したり捕まえたりした兵士達は拘束して1か所に集めてくださいね」

「「「はい」」」


 その日、マリエル達はレドロバート辺境伯をはじめ、数千人の兵士を捕虜としたのです。
 たった1日での出来事でした。
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