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1話

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「遅刻遅刻!やばいやばい!」

全力で自転車を漕ぎながら学校まで向かっていた。
今日学校を遅刻したら、30分教室で正座と教室の掃除を1人でしなければ行けないことになり、遅刻を回避するために急いでいた。

しかし、急いで信号無視をしたのが良くなかった。トラックのクラクションの後、目の前が真っ白になった。
近くから悲鳴と救急車を呼ぶ声が聞こえてくる。

指を動かそうとするが全く動かないし、体も動かない、だんだん意識が遠のいていく……

体が寒くなっていくのを感じる、おそらく血が流れているのだろう、痛みも感じなければ、自分が今どんな状況なのかも分からない。

救急車のサイレンが聞こえ始めた辺りで俺の意識は完全に消えた。

次に目を覚ますと草むらに横たわる状態だった。起き上がって体を見てみるも特に目立った外傷もなく、服も制服のままだった。
俺は悪い夢でも見てたのだろうか?だとしても夢見が悪すぎる。

「夢じゃないよ? 君は死んじゃったの。」

不意に背後から声が掛けられ、声の方向へ顔を向ける。そこには白いワンピースを着た、黒髪の女性が腰に手を当て立っていた。

「死んだって、どういうことだ。俺はこのとおりなんの問題もないぞ。」

そう言って肩や首を回した。
しかし女性はやれやれと言った表情をしながら首を横に振った。

「残念ながら死んじゃったの、トラックに引かれて出血多量救急車到着前に死亡、ここは死後の世界。魂を循環し次の生まれ変わりを決める場所なの。」

死後の世界、神様自体を信じてなかった俺は訝しんだ。

「俺はお前が神様だということ自体が信じられない。神様だって言うなら死んだという俺の体を元に戻してくれよ。」

そう言うと女性は顎に手を当てて、少し考えたあと、スマートフォンを手に取り動画を見せてきた。自称神様とやらもスマートフォンを持っているのか……

「ここのとこ見てほしいの、ここ何処か分かる?。」

出された場所は家の近くにある大きな煙突のある建物だった、俺がもし死んだということが事実なら、ここは……

「まさかとは思うが……火葬場……?」

俺がそう答えると女性は指をさして「正解!」と言ってきた、ニヤケ顔が嫌に腹が立つ。

「ちょっと待ってくれ、火葬場と俺の身体、何が関係してるんだ? 事故にあったのはついさっきのはずだぞ?」

俺の質問に女性は指を振りながら

「ここでの時間と、現世の時間の流れはかなり違うの。ここでの1時間は現世での1ヶ月くらいだね、もう君の葬式や火葬は終わった後なの。元ある身体をもう一度生命が宿るレベルに戻すことは出来るんだけど、骨になっちゃったら元に戻すの超面倒だし、そもそも死んだのは貴方のせいだからね。私がそこまでしてあげる道理がないよ。」

確かに。神様という確証が得られないが、初対面の人間の体を元に戻せというのもおかしな話だ。信心深い人間なら何かしらの恩恵があってしかるべきとも思うが、俺は神を信じて無かった訳だし、自分の存在を信じない人間を助ける義理もないだろう。

「まじかよ……、まだ色んなことがしたかったのに、どうにかならないのか?」

俺は現世に戻りたい一心で縋るように女性を見つめた。女性はピースサインを作りながら

「そんなあなたに朗報!なんと転生、出来ちゃうんです!しかも、元の世界に!」

女性の言葉に俺は目に涙をうかべた。元の世界に戻れる、こんなに嬉しいことは無い。しかし、ここでひとつ俺の頭の中で疑問が浮かんだ。

「ところで、体はどうするんだ?俺の体はもうとっくに無いんだろ?俺はどうなるんだ?」

女性は少し考えたあと、話し始めた。

「本来であれば、元の世界には戻すことが出来ないの。元の世界に転生する場合は記憶を消して生まれ変わりか、別世界への転生、の二種類しかないの」

「なら俺は新たな生命を持って生まれ変わりになるのか?」

女性の言葉を聞いて俺はそう問いかけた。しかし女性は指と首を横に振った。

「話は最後まで聞いてよね、貴方は今年の死んだ人間、記念すべき1万人目の人なんだよ。だから、本当は出来ないんだけど貴方を別の誰か、あなたの知らない誰かに魂だけを転生させることは出来るの、具体的に言えば植物状態の人と魂だけを交換することになるかな? ただし、もう生きる活力がない人と交換ということになるけどね。」

その言葉を聞いて俺は少し不安が出てきた。まさか物凄く高齢の人に転生する可能性が全くないとは言いきれないからだ。

「なあ、俺はどうなるんだ?ものすごく高齢のおじいちゃんおばあちゃんに転生だけは勘弁して欲しいのだが……」

女性はくるくると回りながら

「ああ、そこは安心してよね。貴方と同じ年齢の人に転生してあげるよ。但し性別が選べないところだけは欠点かな?」

女性の言葉に俺は堪らず食いついた。

「性別が選べないだって?それはつまり、場合によっては女性になるかもしれないということか?」

女性はあっけらかんとしながら

「まあそういうことだねー、二分の一だし、問題ないよー」

そう言いながら女性は俺の手を引きながら歩き始めた。少し歩いた先に光り輝く池にたどり着いた。

「ここが転生の泉、本当だったらここに飛び込んで次の転生先に生まれ変わるんだけどね、君はここから飛び込んでも同じ年齢の人間に確定だから安心してね。」

そう言いながら女性は俺の背中を押し始めた。

「待て待て!俺にも心の準備ってものが……」

言い終える前に池の中に落とされてしまった。もがこうとするが、池に入った途端、強烈な眠気が襲ってきた、最後に女性は俺に

「ここでの記憶、前世の記憶なんかは残ったままで転生することになるから何かあったらまた、こっちから連絡するからね。」

その言葉を聞いたあと、再び俺の目の前が真っ白になった。

次に目を覚ますと、見知らぬ天井だった。
右手には点滴が着いており左手は妙齢の女性に手を掴まれていた。

「こ……こは……」

長く喋って無かったのだろう、声が出しずらい。俺の声に反応した女性が俺の顔を見た瞬間、涙を流しながら抱きついてきた

「由衣!由衣ぃ!良かった、気がついたのねぇ!」

女性は啜り泣きながら、くっついて離れようとはしなかった。由衣ゆいというのは俺の新しい名前なんだろう。頭の包帯を触ったあと、俺は女性の肩を揺らしたあと、

「あの、ごめんなさい……、ここはどこですか?」

俺は女性に問いかけた。俺の言葉を聞いた女性はさらに泣き出しながら「あなた、記憶が……」と言ったあと女性は病室を出て行った。
辺りを見渡すと、鏡があったので新しい自分の顔を見ることにした。
鏡の中には綺麗な顔の女性が映っていた。

俺は、二分の一の確率を外してしまったようだ。
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