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 陰陽師達の仕事が終わり、撤収作業を始める。
 晶達は、用意されていたテントの中でささやかな一息を入れている。

「仕事終えたコーヒーは旨いな」
 
 夏の夜でも温かいが、場所のせいか気温が少し下がりホットのコーヒーが体を温めるのに丁度良い。
 ポチポチと携帯を触る夕に対して、晶は作業をしている人を見てそわそわと自分も何かしないといけないのではと周囲をチラチラと見ている。
 ちなみに春明はあの後、すぐに居なくなっていた。
 まぁ誰もが帰ったのだろうと気にはしていない。

 帰り支度が終わると、夕が記念撮影と言い廃旅館を背後に4人で写真を撮り車に乗り込む。
 別れ際に十数人の陰陽師から深々と頭を下げられお礼を言われる。
 それほどの偉業を成し遂げているが複雑な気分の晶である。


 帰宅した頃、すでに3時を回っており晶は家に着くなり風呂も入る事を諦め、そのままベッドにダイブする。



 少し時間は戻るドラマ撮影が終わり、美花は麻美に捕まり夕との関係をねほりはほり聞くために、夜遅くまで美花の部屋で飲みながら美花をからかっている最中に花火にしては重い音が夜空に鳴り響く事に美花と麻美は夏場という事もあり花火が打ちあがっているのかと勘違いしてベランダに出る。

音は何度も響いて来るが、肝心の花火が見えない事に違和感を覚える。

「ねぇ美花、音がしている方向は最近行方不明が増えた廃旅館がある山からじゃない?」
「そう言われればそうですね。何か不気味な事でも起こっているのでしょうか?」
 
 美花はそう言いつつ携帯で動画を撮っている。その最中に花火は下から空に向かって打ちあがるが、目の前で起こっている現象は夜空から光の柱は廃旅館がある場所に落ちると、夜空を昼間の様に照らし大きな十字を作る。
「あれはなんなの……」
 
 クールな麻美でもあまりの現象に目を見開き驚く。
 それは美花も同じで、部屋で見ていたテレビは緊急ニュースが入り、東京の夜空に光の柱が落ちる謎の現象についてである。
 身近で見た者達はその現象について気になる者は多いだろう。

 一度落ち着いた二人は部屋に戻り、一体あそこで何が起こっているのか興味はあるが見に行くとまではいかない。
 すでに報道陣などは山に向かい明日には状況がわかるだろうと踏んでいる。
 そして美花は何気なしに動画を夕に送ると、文字の代わりに画像が送られてくる。
 4人の美女が写っている画像であるが、一人は見覚えのある可愛らしい晶、そして陰陽師の格好をした二人の双子。
 なぜかボロボロになっている服を着ている夕。
 そして、ニュースの原因にもなっている廃旅館が風景の一部では4人の背後に写っているのだ。

「えぇ~」
 
 気の抜けた美花の声が気になって麻美は美花の携帯を覗き込む。

「なぜ、みんな服が汚れている? この夕って子は衣服に血がついている? 何かと戦いでもしていたのかしら?」

 最近の携帯のカメラは高性能で夕の衣服に血がついている事もわかる程である。

「戦う? でも何と戦うの?」
「それは知らないわよ。でも廃旅館があるという事は悪霊とか妖怪じゃないの?」
「なぜわかるのです?」
「なぜって、こっちの子が狩衣を着ているでしょ? 平安時代の公家が着る衣装なのよ。でもその時代でもう一つ陰陽師が着ていた服でもあるの。で、この場所は心霊スポットとして有名な場所でしょ? なら、悪霊か妖怪に詳しい人間という事は陰陽師の人間でしょうね。でもまだ陰陽師の血を継いだ者が居るという事が驚きね」

 とまぁ、数年前に出ていた平安時代を舞台にしたドラマに出ていたから麻美は気がつけたのだと思う。

「悪霊や妖怪って存在するの?」
「それは分からないわ。でも、昔から妖怪の本があるという事は居てもおかしくないでしょ? 気になるのなら聞いてみれば良いじゃない? 多分世間に知られたら問題になる写真だけど、貴方みたいな子に送って来るという事は意外とお気楽な性格なのかしらねこの子は……」
 
 この写真は世間に出回っても良いものではない。
 夕の性格を写真で見抜く麻美は流石女優だと思う。
「あっ、返事が返ってきました。え~と、九尾の狐? ていう妖怪と戦った結果だと言っていますよ~」
 あまりの出来事に麻美も酔いが醒(さ)めはじめて再びお酒を口にするが、この時に美花の口から九尾の狐と言う単語に口に含んでいたお酒を勢いよく噴き出してしまう。
 殺生石が割れて九尾の狐は復活をしたのではと言うニュースを見ていた事を思いだしていた。
 あの時、そんなのが居る訳ないだろうと思っていた自分が居る。
 それはテレビを見ていた者の大半もそう思っていただろう。だからニュースもしばらくすればそのネタに触れる事は無かった。だが、蓋をあけると実際に復活しており、廃旅館のある場所で戦闘が起こっていたのだ。だれが想像できるだろうか。

「はぁ~ 今日は色々ありすぎるわよ」
 
「そうですね。夕ちゃんが何者なのか気になりますね」
 
 キスマークから始まり、大半の原因は美花にあると言いたいが、これ以上濃い内容が出てきても困る麻美は酒に手を伸ばす。

「もう驚き過ぎて目が覚めたわ。久しぶりの連休だし。美花は朝まで付き合いなさいよ」
「もとも朝まで飲むぞ~って言っていたじゃないですか」

 無事ドラマ撮影が終わった事で二人は久しぶりの連休をとっていた。
 飲む機会が多いのか麻美はあまり変わらないペースでお酒を飲みながら朝方から始まるニュースを見ていても昨晩の起こった現象の事を話している。
 プルと美花の携帯が鳴り響く。
『もしもし~ 夕ちゃん? こんなに朝早くどうしたの?』
『私…… メリーさん。今あなたの家の前に居るの』
『えっ?』 
 
夕の訳の分からない電話に困惑する。
 声は確かに夕の声だが、朝方の日が昇り始めた時間から家の前に夕が居る事がありえない。夕は美花のマンションを教えてはいないのだ。
 息を飲みベランダから下を見ると、マンションの前にある道から夕が手を振っている。
 なぜ、夕が知っているのかと不思議に思いながら、美花は夕を迎えに行く。
 部屋に戻ると横目で夕の姿を見る麻美。
 まるで品定めをするようである。

「初めまして、浅井 夕です」
「私は菊池 麻美よ。貴方が私の後輩を誑かせているのね」

 日課で走るランニングウェアはスポブラに薄いピンクの長袖の羽織にスポーツ用のピッチと地肌に張り付く長ズボンである。
「誑かせているとは人聞きが悪いですよ。むしろこっちが襲われた側ですよ?」

 あの日、美花は飲みなれない日本酒を飲んだ事で泥酔しており、甘える美花に襲われていたのだ。
「それはもう良いじゃない。それよりもなぜ夕ちゃんは私の家を知っているの?」
「ん? それも忘れたの?」

 あの日の事を夕に聞く。
 本人はあの日の夜の記憶はほとんど残っていなかったのだ。そして夕の口から開かれた言葉は衝撃的な事で思わず美花は両手で顔を抑えてしまう。

「あなた…… 意外と酒癖が悪かったのね」

 美花を部屋に運び、ベッドに寝かした事から始まる。
 いきなり口づけをされてから後は想像どおりである。その後に家の住所と合鍵を渡されて何時でも遊びに来てほしいと夕に渡して、仕事ギリギリまで寝ていたのだ。
「さすがに有名人の家に出入りして、変な噂されて困るなら鍵返すけど?」

「大丈夫だよ! 別に男性の人じゃなかったら問題ないよ!」
「問題だけどね」
 麻美のいう問題はまぁ夕が未成年という事であろう。

 同性であっても未成年が成人の家に遊びに来ている事が週感心と思ってしまうが、幸い夕の容姿はアイドルやモデルでも十分通用するレベルである。何処かの事務所の後輩が出入りしていると思われる程だろう。
「まぁ、良いわ。夕ちゃん。芸能に興味ない? 貴方の容姿と目つきなら私の後継者になれるかもしれないわよ?」
「芸能は興味ないかな? 忙しそうだしね。私はのんびりと養われ趣味に生きるのが夢なんだ」
 意外とクズな発言にため息を漏らす麻美であるが、夕の肉つきを見れば鍛えているという事はわかる。
 しかも美を意識ではなく、ただアスリートの様に体を鍛えぬいているということもだ。
「残念。振られちゃったわ」

「麻美さんでも振られますか、まぁ、夕ちゃんは私が呼ばれていた美人コンテストの司会の前にしていたアームレスリングの大会を余裕で優勝していましたからね。それほど体を鍛える事が好きという事でしょう」
「あの大会って…… 現役のプロとか、かなり体鍛えている人が結構出ていたわよね?」
「そうですね。世界で活躍している人も倒したみたいですよ?」
「そんなに鍛えてどうするつもりなの? 妖怪とでも戦うの?」

 不思議そうに麻美は夕の腕を触り始める。
 筋肉質だと思うが、プロに勝つという事は並みの筋力以上が必要なのに、自分達とあまり変わらない腕の太さに不思議なのだろう。

「まぁ、実際に戦ってきたけどな」
「マジの話?」
「マジマジ」
「何と戦っていたの? あの時……」
「九尾の狐って言ったじゃん あれだよ」
 九尾の狐と言う言葉に考え込む二人。
 麻美は名前だけしか知らないので携帯で検索をすると、大昔に恐怖のどん底に陥れた者だと見つける。

「これ以上の事は聞かない方が良いわね。巻き沿いは嫌だからね。美花も言いふらしたらダメよ?」
「私もさすがに言いませんよ」
 
 二人は目の前に居る非常識の塊に色々と聞きたい事はあるだろう。何といっても存在すると思ってもいない妖怪と戦った存在が目の前に居るのだから…… だが、これを聞く事によって自分達にも火の粉が飛び火してきそうだと思ったからである。だけど夕と言う存在と接触してしまった事で、二人の人生は大きく曲がり始めるだろう。
「おっと、晶から連絡があって俺はそろそろ戻るよ。また何かあったら呼んでくれな」
「またね~」
「今度はお食事にでも行きましょうね」
 
夕は美花のマンションから出ると同時に走り始め、家に戻る。
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