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「びっくりした。せっかくもらった服が台無しだよ!」
 
 モデルの手伝いに巻き込まれた時にバイト代としてもらった服である。
 ちょうど夏物の服が入っていて今年の人気になる服などが沢山あり、晶は気に入っていた。
 プリプリと地面をつま先で蹴るように歩き始める。
 
 晶と夕の姿が土手から見えなくなる頃に別人が現れる。

「ねぇ様、反応があった場所は此処ですが……」
 
 一人の少女が首を傾げる。
 現代の衣装とは少し離れ、平安時代に存在していた陰陽師達が着るような衣装に似ている。

 手に数枚の札を持ったもう一人の少女が周囲を警戒する。
 二人は双子なのか、容姿、髪型など、同じで見分けがすぐにつきにくい。

「朱音? ここに妖力と別の力が残っている?」
 
 基本的には魔法使いが使う魔力、陰陽師が使う呪力や妖力は少し違いがあるが元は似ている。
 だが、この世界では魔力と言うものが限りなく薄く使える者は居ない。二人の少女はまさか魔力が使われているとは思わないだろう。だが、前に晶が使用した魔力に残された力がこの前と同じ事に気がつく。

「これはこの前の波動と同じ方の力ですね。この呪力根を辿れば……」
 
 この場に敵が居ない事をしっかりと確認すると晶が残した魔力を辿り歩き始める。
 
 面倒な事に巻き込まれ始めている事に気がつかない二人は海で遊んだ疲れをクーラの効いた部屋で涼しんでいる。

「今日はそうめんで良い?」
「あぁそれでいいよ。軽いものが食べたい気分だ」
 
 
 そんな会話を遮る様にチャイムが鳴り響く。

「俺が行くよ」
 
 部屋の中に誰が来たのか分かるモニターが付いているというのに、夕は誰が来たかも確認しないで開ける。

「どちら様ですか?」
「あぁ、俺だ。というか中で確認してから開けろよ」
 不用心だと文句を言いながら外で待って居たのは晶の隣に住んでいる浜口(はまぐち) 力斗(りきと)である。
 駐車場で酔っぱらって寝ていた男性である。
 あれ以来、何かと面倒を見てくれている。みてくれは怖いが、優しい男性である。
 今日もオールバックに金のネックレスに高級な時計にピシッとしたスーツ姿で、手に大量のお菓子袋を持っている。

「今日もギャンブルですか?」
「あぁ。良い感じに勝てたからな。お前達にお土産だ」
 
 なにかと色々な物をくれる力斗。
 前に夕に迷惑を掛けたという事で、晶と夕にお揃いの腕時計をプレゼントもらってからと言うもの何かと話す事が増えて、今ではお隣の付き合いとして顔を会わせる事が多くなっていた。

「毎回ありがとう。あきら~! 力斗さんがお菓子持って来たぞ~!」
 
 夕の声に晶はパタパタとスリッパの音をたてながら小走りで玄関までやって来る。

「力斗さん。毎回ありがとうございます! これからそうめん食べますが、ご飯まだならご一緒しますか?」
「おっ、今回も良いのかい? 悪いね。一回部屋に戻って用意してくるよ」
 
 お菓子を渡すと力斗は一度自分の部屋に戻る。
 
 そうめんも出来上がり、氷の上に麺をひとすくいで食べられる量を綺麗にのせていく。
 流石に麺類のみと言うのも味気ないので、力斗のお酒のあてになる冷ややっこなどの料理を作っておく。
 
 女子高生の部屋でお酒を飲む事に最初は拒んでいた力斗であったが、異常にすすめてくる晶と夕の言葉にまけて部屋で飲む事になる。
 理由はいたって簡単であり、日ごろからお酒を飲む者は晩酌をする認識もあるし、親と年が近いおかげで離れて暮らす二人にはお父さんと晩御飯を食べる感覚であるという事を言われるとさすがの力斗も拒否をする事は出来なかった。

「っとと、すまない」
 
 力斗が持ってきた酒瓶を手に晶が隣から酌をする。
 そんな正面では食い盛りの夕は物凄い勢いでそうめんを消化している。

「そう言えば今日は海水浴に行くと言っていたが、どうだった? 楽しかったか? 毎年あの砂浜で美少女コンテストしているけど、二人なら優勝ぐらい簡単だろ?」
「ん~ 俺はアームレスリングで、晶は美少女コンテストに参加したよ。晶はコンテスト始まる前に選手の心を折ってコンテストにならなかったけどね」
「晶がでるならその可能性はあるわな」
 
 力斗から見ても二人は美人である。

 もし、10年ほど若ければ、荒れていた力斗は無理やりにでも手籠めにしたいと言う気持ちに襲われているだろうと思っていた。
 流石に30後半になると、衰えは無いが、二人に手を出したりしたいと思わない。
 裏家業の上の立場に立つ人間ほど、人情と言うものを大事にする。一般人なら隣に裏世界の人間が出入りしているだけで良い気持ちにはならないだろう。
 だが、この二人は関係なく日ごろから声を掛けてくれる。
 であるなら良き隣人と振舞えば良い事なのだが、最近はなぜか晶の部屋に夕食をご馳走されることが多くなり今にいたる。

 ご飯を食べている最中に夕の携帯が鳴る。

「もしもし? あ~ うんうん。わかった。今から迎えに行く」
「誰から?」
「ん~ 力斗さんもいるから秘密。一人増えるけど良いか?」
「ん? 俺か? 俺は別に良いが、その子が困るんじゃないか?」

 二人の感覚がおかしいと事はある。
 一般人が力斗に恐怖を抱かずに話せる方が稀である。
 部屋着で来ていると言え、絶対に裏社会の人間だという事が見てわかるほどである。

「まぁ、大丈夫でしょ」
 
 自分は関係ない雰囲気で言いながら夕は晶の部屋を出て、迎えに行く。
 
 未成年の部屋に残された二人は変な事をする事は無く、力斗は意外と大きな仕事をする前と似た緊張をしていた。
 流石にまずいのではと思っていた。 

 先ほど出て行った夕が友人だと言う人物を連れて戻って来る。

「もどったぞー」
「お邪魔します~」
 
 初めて会うはずの力斗なのに、何処かで聞いた事がある声に首を傾げる。
 夕の後に入って来る女性と目が合う。
 夜だと言うのに深めの帽子にサングラスと地味な服を着ている姿に、表立って歩けない人物なのだろうと力斗は直感で思った。

「あきらちゃんの家に男性が居るとは思いませんでした。中々の渋いお兄さんで、あきらちゃんも中々隅に置けないですね。 あっ芦田 美花と言います。このような格好で失礼しました」
 芦田 美花とは力斗でもわかる程の有名人であり、そんな人物が来るとは思ってもいなかった力斗は手に持っていたお猪口をズボンの上に撒いてしまう。

「すっ、すまない」
「大丈夫ですよ」
 
 晶は綺麗な布を力斗と渡す。

「こんな格好で申し訳ないが、浜口 力斗です」
 あくまで一般人を装うかとしているのか、言葉に違和感を覚えた晶と夕は細く笑う。

「力斗さんが何かをしている人かは夕ちゃんから聞いていますので、普通に話してくれると嬉しいです」
「そうか、それなら助かるが、でも良いのか? 週刊誌に見つかりでもしたら……」
 
 売れっ子の女優となればマスコミの的でもある。そのような人物が裏社会の人間と繋がりがあると知れたら、芸能での活動が出来なくなる可能性がある。




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